一口に注文住宅といっても、建設をどこに依頼するかによって建設費は大きく違ってきます。大手住宅メーカーだと4,000万円前後かかることが多いのですが、ローコスト住宅に力を入れている住宅メーカーなら、1,000万円台から2,000万円前後で建設できます。ローコスト住宅とは、どんな住宅なのでしょうか? なぜ安いのか、選ぶときの注意点は何か、詳しく見ていきましょう。
大手メーカーだと1棟単価は4,000万円前後
実際に注文住宅を建てた人たちはどれくらいの建設費をかけているのでしょうか。住宅金融支援機構の住宅ローンである【フラット35】を利用して建てた人の平均建設費は、図表1にある通りです。全国平均では3,500万円台ですが、首都圏では3,900万円近くかけています。三大都市圏以外のそのほかの地域で建てた人の平均は3,300万円台です。
エリアによって住宅の広さ、人件費や資材価格などが異なってきますから、建設費には数百万円の違いがあります。
それだけではありません。どこに建設を依頼するのか、依頼先による違いも大きいようです。
大手住宅メーカーの1棟単価の平均を各社の最新の決算資料から見ると、大和ハウス工業は4,100万円、積水ハウスは4,265万円で、ともに4,000万円を超えています。
ローコストメーカーなら1,000万円台から2,000万円前後で建てられる
それに対して、ローコストを売り物にするメーカーだと、1,000万円台から2,000万円前後で建てることができます。
たとえば、一(はじめ)建設、飯田産業、東栄住宅、タクトホームなどを傘下にもち、合計で年間4万6,000戸以上の戸建て住宅を供給している飯田グループの平均1棟単価は2,087万円(2022年度第二四半期の決算期)です。
また、20歳代でも購入しやすいローコスト住宅を展開するタマホームの平均1棟単価は1,897万円(2022年5月期決算期)です。
そのほか、自社一貫体制で中間コスト削減、一括購入による仕入れ価格の抑制などでローコストを目指すアイダ設計などのローコスト住宅メーカーがあります。
<代表的なローコスト住宅メーカー>
・アイダ設計
・飯田産業
・タクトホーム
・タマホーム
・東栄住宅
・一建設
なぜ安いのか、その理由を理解しておく
この価格差は何なのでしょうか。ローコスト住宅の安さの理由をまとめると次のようになります。
まず、ほとんど制約のない注文住宅ではなく、広さや間取りなどがあらかじめ決められている、規格型の物件が多いのが特徴。メーカーからすれば、そのぶん設計や施工の手間暇を大幅に削減できるため、安い価格で提供できます。そのため、ローコスト住宅メーカーで注文住宅を建てる際は、どこまで要望できるのか、さまざまな制約がないかどうかを確認しておく必要があります。
ローコスト住宅メーカーでは規格化を進めることで、材料の一括仕入れ、加工などによって材料費を抑制し、工場でのプレカットなどによって、現場での作業比重の低減を図ります。また、メーカーによっては外注ではなく、すべて自社で一括管理するので、中間マージンが発生しない、施工のマニュアル化によって工期の短縮を図り、そのぶん人件費などを削減できるといったメリットなどもあります。
これらのさまざまな要素を組み合わせてコストカットを進め、価格を大手メーカーの半分やそれ以下に抑えているのです。
建売住宅には仲介手数料がかかることも
ただ、注意が必要なのは、このローコスト住宅を建売住宅として販売する場合、社内に販売部門を設けず、外部の仲介会社に販売を委託しているケースが少なくない点です。その場合、新築住宅であっても仲介物件扱いになるので、仲介手数料の負担が生じます。
宅地建物取引業法では、仲介手数料の上限は、税抜き価格の3%+6万円に消費税が上乗せされます。税抜き価格3,000万円とすれば、その3%である90万円+6万円の96万円に対してさらに消費税かかるので、仲介手数料は105万6,000円になります。この点を忘れていると予算繰りに影響しかねないので注意が必要です。
建設坪単価の表示による安さ提示には注意が必要
このローコストの表現手段として、建設費の3.3平方メートル当たりの単価を表示するケースがあります。たとえば、「他社では坪単価30万円かかるのを25万円で施工します」といった表現です。
その場合、注意しておきたいのは、その坪単価が何を指しているのかいう点です。通常は、建築基準法に基づいて、各階の床面積を合計した「延床面積」当たりの単価を示します。床のない吹き抜け部分、バルコニーの先端から2メートルまでの部分、玄関ポーチやロフトなどの面積は含みません。
それに対して、その吹き抜けやバルコニーの先端部分、玄関ポーチやロフトの面積なども含めた「施工面積」をもとに坪単価を計算しているメーカーもあります。
「延床面積」が120平方メートルであっても、「施工面積」は150平方メートルになることもあります。建設費が2,000万円の場合、「延床面積」の120平方メートルで算出すると、坪単価は約55万円ですが、「施工面積」の150平方メートルで計算すると坪単価は約44万円に下がります。同じ建設費でも「施工面積」で計算したほうが、かなり安く見えます。そんな数字のマジックにごまかされないようにしましょう。
まずは基本性能の高いメーカー、商品を選ぶ
何事もそうですが、高いには高いなりの理由があり、安いには安いなりの理由があります。その安い理由を理解、納得したうえでローコスト住宅を選ぶ必要があります。
とはいえ、安いからといって基本性能が劣っていては話になりません。居住性はもとより、地震や水害、火災などの対策は十分でしょうか。できれば、住宅性能評価制度を利用して、耐震性能、耐久性能、遮音性能などの項目で最高等級を取得している住宅を選びたいところ。なかでも、基本性能の高い長期優良住宅の認定を取得しているような物件であれば安心感があります。
少し前までは、ローコストメーカーでは、そうした対応は簡単ではありませんでしたが、最近では標準仕様で長期優良住宅を提供するローコストメーカーも増えつつあります。たとえば、先に触れたタマホームのほか、アイダ設計、アキュラホームなどがそれにあたります。
アフターサービスのチェックも重要
注文住宅は、一度建てればおしまいではなく、何十年と住み続けるのが前提ですから、長く、快適に、安心して住めなければなりません。
そこで注目しておきたいのが、アフターサービスです。引き渡しから半年後、1年後、3年後などの定期的な診断や、10年後、20年後、30年後などの無料点検を行うサービスを実施しているのが一般的です。
大手の住宅メーカーでは30年間の長期保証が前提で、必要に応じて補修することによって、60年間保証するようなメーカー、商品も登場しています。
ローコスト住宅メーカーでは、コスト削減が必要なので、人手のかかるアフターサービスを二の次にするところが少なくありません。しかし、ローコストの住宅メーカーのなかでも、アキュラホームのように「家守り」をコンセプトにして、担当者が定期的に完成物件を訪問するなど、アフターサービスの充実を進めているところもあります。アフターサービスに関する実際の各社の取り組みをしっかりと確認しておきましょう。
最近は、インターネット上にもさまざまなクチコミがありますから、そこで評判をチェックして気になる点がないかどうかを確認しておくのも良いでしょう。できれば、最近完成した建物を紹介してもらい、見学してみると良いでしょう。住んでいる人に話を聞ければ、なおさら安心です。
担当者を通して会社の信頼性をチェック
住宅産業は、しばしば「クレーム産業」と言われてきました。担当者がアフターサービスに訪問すると、さまざまなクレームをつけられるので、本当ならあまり訪問したくないのが本音でしょう。
それでも、あえて訪問を徹底して、アフターサービスに努めているメーカーであれば、不安も少なくなるのではないでしょうか。その確認は簡単ではありませんが、担当者と何度かコンタクトを取ることで、その会社の社風や信頼性などが伝わってくるはずです。
一生に一度か二度の大きな買い物だけに、安さだけではなく、サービスや信頼性も十分に確認しておきたいところです。