累進課税とは、所得や資産が多い人ほど税率が高くなる課税制度です。お給料が増えたのはうれしいけれど、税金が増えたなと感じている人、それは、所得税が累進課税となっているからです。所得税以外にも、相続税や贈与税も課税額に応じた累進課税です。
今回は累進課税が採用される理由や税金の計算法など、制度全般について見ていきましょう。
なぜ累進課税が採用されている?
累進課税は、所得や財産の額が多い人ほど多額の税金を支払うことで、経済格差をなくし所得の再分配を行うための制度です。
累進課税に対し消費税は、その人の所得や資産の状況にかかわらず、商品やサービスに対して10%や8%といった一律の税金を払います。1万円の品物を消費税10%で購入すると、だれもが1,000円の消費税を支払います。年収1,000万円の人なら1,000円は年収比0.01%ですが、年収400万円の人にとっては0.025%となり、年収に対する負担割合は2.5倍にもなってしまいます。
こうした格差をなくすために、年収が高く税金を負担できる力(担税力)が高い人に、多くの税金を払ってもらうのが累進課税です。つまり、年収400万円の人より年収1,000万円の人の税率を高くすることで、税の負担を公平にする制度です。
では、累進課税の具体的な内容や計算方法について、累進課税の代表的な税である所得税、相続税、贈与税の三つの税で見てみましょう。
所得税の計算方法
所得税は税率5%~45%の範囲で7段階の累進課税となっています。
税率を掛ける基となる「課税される所得金額」(以下課税所得)とは、額面の収入ではありません。会社員であれば年収から会社員の経費にあたる「給与所得控除」や健康保険や厚生年金保険料といった「社会保険料控除」などを差し引いたのちの所得のことです。
ここでは課税所得が200万円の人と500万円の人の所得税を「所得税の速算表」を基に計算して比較してみましょう。
課税所得200万円の人の所得税は約10万円、500万円の人では約57万円と、47万円の差があります。所得が高い人の方が税率も支払う税金も高くなります。
ただし、課税所得を少なくできれば、それだけ所得税を減らすこともできます。所得控除は、年末調整や確定申告で生命保険料やイデコの掛金等の控除証明書の額を申告することで、受けられます。たとえば、生命保険料控除額が4万円、イデコの掛け金が年間12万円なら、合計16万円を差し引けます。ざっくり考えると、税率が10%なら1万6,000円、20%の人なら3万2,000円の所得税を減額できます。
一方、住宅ローン減税やふるさと納税は、本来支払う税金の額から一定額を差し引くことができるメリットが大きい減税です。たとえば、住宅ローン減税の場合、年末の住宅ローン残高が3,000万円で減税率が0.7%なら最大21万円が払った税金から戻ってきます。大きな減税となるので、確定申告や年末調整での申告を忘れないようにしましょう。
相続税の計算方法
相続税は、亡くなった人から相続や遺贈で取得した財産の額が、基礎控除を超えた場合にかかる税金です。基礎控除とは、相続税を計算する際に遺産の総額から差し引ける金額です。2015年からは「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。
相続税は、財産から生前の債務や葬儀費用を差し引いた遺産総額から基礎控除を差し引いたのち、法定相続分通りに相続したと仮定して、相続税の総額を計算します。
相続税の税率はどうなっているでしょう。
上の表のように、遺産総額が多くなるほど相続税率が高くなる、累進課税となっています。相続税の総額の計算は以下のようになります。
遺産総額が1,000万円の人より1億円の人の税額が1,500万円高くなりました。
贈与税の計算法
贈与税は1月1日から12月31日までに贈与を受けた額から110万円(基礎控除額)を差し引いた残額について、贈与を受けた人が納める税金です。
贈与を受けた人がその年の1月1日において18歳以上(2022年3月31日以前の贈与については20歳以上)で、直系尊属(父母や祖父母など)から贈与を受けた場合は税率が低い「特例税率」、それ以外は「一般税率」が用いられます。
たとえば、20歳の人が、1年のうちに親から200万円の贈与を受けた場合と、500万円の贈与を受けた場合で比べてみましょう。
贈与額500万円の人は200万円の人に比べ、39万5,000円贈与税が高くなります。
まとめ
一般の人に身近な所得税は最も代表的な累進課税です。高所得の人ほど税率が高くなるのが特徴です。しかし、額面の収入そのものに課税されるわけではなく、経費や社会保険料等一定の所得控除を受けたのちの課税所得に税率を掛けて納税額を計算します。
課税所得は年末調整や確定申告で生命保険料控除証明書や、イデコの掛け金の控除証明書等を提出し、申告することで減額できます。また、住宅ローン減税やふるさと納税は一定の減税額をそのまま所得税や住民税から差し引ける、メリットが大きい「税額控除」です。
手続きを行うことで、税金が少なくなり、結果手取り額が増えれば、楽しみに使えるお金が増えるかもしれませんね。面倒な手続きと思わず、しっかりと年末調整や確定申告の手続きを行うきっかけにしてみてはいかがでしょう。