不動産売却によって利益(譲渡所得)を得た場合、その譲渡所得額に応じた税金を納めなければなりません。不動産売却に係る譲渡所得は申告分離課税の対象であり、ほかの所得と合算せず、単独で計算した額の税金を確定申告で納める必要があります。
この記事では、不動産売却において確定申告が必要なケースと不要なケースの違いについて解説するとともに、節税につながる譲渡益の特例も紹介していきます。
不動産の売却において確定申告が必要なケースとは?
不動産を売却する際に確定申告が必要となるのは、それによって利益を得た場合です。建物や土地の売却で得た利益は譲渡所得と呼ばれ、ほかの所得とは分離して課税されます。
譲渡所得は、売却によって得た収入から物件の取得費と譲渡費用を差し引くことで求められ、所得金額に応じた所得税・住民税を確定申告で納めなければなりません。
物件の取得費が売却金額を上回るなど、譲渡所得がゼロもしくは損失が発生するケースでは、基本的に確定申告は不要です。ただし、この後紹介する特例の適用を受けるには、確定申告が必須となります。
つまり、利益が出ていない場合でも、特例の要件を満たし、節税できる可能性があるなら、確定申告はしておいて損がないといえるでしょう。
大きな節税につながる!譲渡益の特例5選
不動産売却による譲渡所得の課税については、譲渡益の特例が複数設けられています。いずれも確定申告をしなければなりませんが、税金を大幅に低く抑えられる可能性があります。特例の要件を満たすのであれば、積極的に活用しましょう。
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例とは?
マイホームを売却した場合、課税対象となる譲渡所得から最高3,000万円を控除できるという特例が設けられています。これが「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」です。
この特別控除の特例を受けるためには、主に次のような要件を満たしている必要があります。
●マイホームの建物(建物と同時に売却する敷地や借地権も対象)を売却すること。
建物を取り壊した場合においては、その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないことの両方の要件を満たす。
●売却した年の前年・前々年にこの特例、もしくは後に紹介する「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」を受けていないこと。
●不動産売買における売主と買主が親子や夫婦、生計を一にする親族、内縁関係にある人といった特別な関係でないこと。
ここでいう「マイホーム」とは、あくまでも一定の期間自らが住むために所有している不動産を指すため、特例を受けるためだけに住んでいると考えられる不動産は適用対象外です。
また、新たなマイホームの建築中の仮住まいとして使用しているなど、明らかに一時的な利用目的で住んでいる家屋や、趣味や娯楽のために所有している別荘およびセカンドハウスも、特例は適用されません。
所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例
所有期間が10年を超えるマイホームを売却する場合には、マイホームを売ったときの軽減税率の特例を受けられます。この特例は、先ほど紹介した3,000万円の特別控除との併用も可能です。
課税対象となる長期譲渡所得金額(長期譲渡所得とは、売却した年の1月1日現在で5年以上所有している不動産を売却した際に得られる所得のこと)の金額に応じて、譲渡所得による所得税額が次のとおり軽減されます。
●課税長期譲渡所得金額(=ア)6,000万円以下の税額:ア × 10%
●課税長期譲渡所得金額6,000万円超の税額:(ア−6,000万円)× 15% + 600万円
軽減税率の特例を受けるには、以下の5つの要件をすべて満たしている必要があります。
1. 日本国内にあるマイホームを売却すること。
2. 売却した年の1月1日時点で、マイホームや敷地の所有期間がどちらも10年超であること。
3. 売却した年の前年・前々年に本特例が適用されていないこと。
4. 対象となる不動産について、3,000万円の特別控除以外の特例が適用されていないこと。
5. 不動産売買における売主と買主が親子や夫婦、生計を一にする親族、内縁関係にある人といった特別な関係でないこと。
特定の居住用財産の買換えの特例とは?
特定のマイホームを2023(令和5)年12月31日までに売却し、新たなマイホームに買い換える場合、一定の要件のもと、マイホーム売却による譲渡益への課税を将来に繰り延べられるという「特定の居住用財産の買換えの特例」が設けられています。
たとえば、当初2,000万円で購入したマイホームを6,000万円で売却したとします。その後、売却で得た資金6,000万円を元手に8,000万円の新たなマイホームを購入したとしましょう。
特定の居住用財産の買換えの特例を受けると、前のマイホーム売却時に発生する譲渡益(6,000万円−2,000万円=4,000万円)に対する課税が繰り延べられ、その時点では納税する必要がなくなります。新たに取得した8,000万円のマイホームを将来売却する際に、新居の売却による譲渡益に対する課税分と併せて納めることになるのです。
もし、将来新居が9,000万円で売却できたとすれば、9,000万円−8,000万円=1,000万円に対する課税分と、旧居売却時の4,000万円に対する課税分をそのときに併せて納めなければなりません。
買換え特例の適用を受けるには、主に次のような特例の適用を受けるための要件を満たす必要があります。ここで紹介するもののほか、中古住宅への買換えにおいては、築年数や耐震基準などに関する要件も設けられているので要注意です。
●マイホームの建物(建物と同時に売却する敷地や借地権も対象)を売却すること。
●売却した年やその前年・前々年に、3,000万円の特別控除の特例または居住用財産を売ったときの軽減税率の特例、居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(次項で説明)の適用を受けていないこと。
●旧居、新居ともに日本国内にあること。
●マイホームの売却金額が1億円以下であること。
●売主が10年以上マイホームに住んでいるとともに、売却年の1月1日において家屋や敷地の所有期間が10年を超えていること。
●新居の床面積が50平方メートル以上で、新居の土地面積が500平方メートル以下であること。
●旧居の売却年の前年から翌年までの3年間に、新居へ買い換えること。
この特例は課税そのものが軽減されるわけではありませんが、新居買換えというお金が多くかかるタイミングでの費用負担が軽減できるほか、新居を売却せず住み続ければ、その間譲渡所得税を納める必要がないという点は、大きなメリットといえるでしょう。
居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
マイホームの売却で譲渡損失が発生した場合には課税対象とならないため、確定申告は必須ではありません。しかし、それでも確定申告をすると、損益通算や繰越控除が認められる可能性があります。
具体的には、マイホーム(旧居宅)を令和5年12月31日までに売却して、新たにマイホーム(新居宅)を購入した場合に、旧居宅の譲渡による損失(譲渡損失)が生じたときは、一定の要件を満たすものに限り、その譲渡損失をその年の給与所得や事業所得など他の所得から控除(損益通算)することができます。
さらに、損益通算を行っても控除しきれなかった譲渡損失は、譲渡の年の翌年以後3年内に繰り越して控除(繰越控除)することができます。
この特例の適用を受けるためには、主に次の要件を満たしている必要があります。
●自身が住んでいて、かつ売却年の1月1日時点で所有期間が5年を超える、日本国内にあるマイホームを売却すること。
●旧居の売却年の前年1月1日から売却年の翌年12月31日までの間に、家屋の床面積が50平方メートル以上の日本国内にある新たなマイホームを取得すること。
●新居を取得した年の翌年12月31日までに、新居に住んでいるか住む見込みであること。
●新居を取得した年の12月31日時点で、新居に係る返済期間10年以上の住宅ローンを組んでいること。
損益通算と繰越控除により、売却の翌年以降最大3年目まで譲渡損失をその年の給与所得や事業所得など他の所得から控除でき、大きな節税効果が見込めます。居住用財産を買い替えた場合において、その譲渡資産に係る譲渡損失があるときは、その譲渡損失の金額について、他の所得との損益通算及び譲渡年の翌年以後3年内の各年分の総所得金額等から繰越控除ができます。この特例は住宅ローン控除との併用が可能ですが、他の譲渡所得の特例とは選択適用となります。適用要件を確認して積極的に活用するといいでしょう。
被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例
ここまで紹介してきた特例は、いずれも一定期間居住しているマイホームを売却することが要件となっていました。一方、マイホームでなくても、相続や遺贈によって取得した空き家を売るときに活用できる特別控除の特例も設けられています。
対象となるのは、次に挙げる要件を満たす場合で、相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋または被相続人居住用家屋の敷地等を、平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に売って、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができます。
●相続または遺贈によって被相続人居住用家屋および敷地等を取得した人が、その家屋・敷地等を売却すること。
●相続から売却までの間に、事業の用や貸付の用、居住の用に供されたことがないこと。
●相続を受けた日から3年が経過する日の属する年の12月31日までに売却すること。
●1億円以下で売却すること。
●売却した不動産について、ほかの特例の適用を受けていないこと。
●同じ被相続人から相続・遺贈により取得した不動産について、この特例が適用されていないこと。
●売却先が、売主にとって親子や夫婦など特別の関係のある人でないこと。
家屋の相続を受けたものの、特に住むことなく、空き家のまま放置しているという人もいるのではないでしょうか。空き家を放置すると固定資産税や都市計画税、メンテナンスコストがかかるものの、いざ売却するとなれば譲渡所得税がかかってしまいます。
この特例を活用すれば、売却にかかる譲渡所得税を減らせるので、不動産相続による負担を軽減できるというのが大きなメリットです。
不動産の売却において確定申告が必要ないケースとは?
不動産売却において、確定申告をするメリットがなく、確定申告の必要がないのは、上で紹介した特例を利用せず、売却に伴う利益がゼロである場合か、もしくは損失が発生した場合です。
課税対象となる譲渡所得は、売却によって得た収入から、物件取得費と売却にかかった費用を差し引くことで求められます。売却によって利益が出たとしても、売却にかかった費用のほうが大きければ譲渡所得はゼロ以下となるため課税対象にはならず、確定申告も必要ありません。
ただし、先述の居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例が適用できる場合など、確定申告を行う義務はなくても、確定申告をしたほうがメリットがあるケースも存在します。
不動産の売却において利益よりも損失が大きい場合は、確定申告をすることでどの程度税金が戻ってくるのかを試算した上で、確定申告をするかどうか判断するとよいでしょう。
まとめ
不動産を売却した場合、確定申告が必要なケースと不要なケースがあります。
基本的には、売却によって譲渡益が発生していれば確定申告が必要となる一方、譲渡益がゼロもしくは損失が発生していれば、確定申告の義務はありません。
ただし、譲渡益の特例や、譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例を受けるには確定申告が必要です。譲渡損失が生じている場合も含め、特例の要件を満たしているのであれば、確定申告をすると節税になるでしょう。