相続などで空き家を保有する場合、維持費や各種税金がかかってしまいます。メンテナンスの費用や手間を軽減するため、空き家を更地にしたいと考えている人も多いかもしれませんが、一般的に空き家を更地にすると税金が高くなるとされています。
この記事では、相続などで空き家を保有している人やこれから保有する予定の人に向け、空き家を更地にすると税金が高くなる理由と、実際にどの程度高くなるのかという点について解説します。
税負担を軽減するために有効な対策や、空き家を取り壊す際の注意点などについても併せて紹介しますので参考にしてください。
空き家を更地にすると税金が高くなるというのは本当か?
空き家を放置すると維持費がかかることから、空き家を更地化したいと考えている人も多いことでしょう。しかし、一般的に空き家を更地にすると税金が高くなるとされます。通説では、更地の税額は空き家を残した場合の6倍に達するとも言われます。
空き家を更地にすると土地にかかる固定資産税は最大6倍、都市計画税は3倍高くなってしまいトータルとして支払う税金が高くなってしまいます。これらの税金には「住宅用地の軽減措置特例」が設けられており、更地にすると軽減措置が受けられなくなるため、税金が高くなってしまいます。
固定資産税、都市計画税ともに軽減措置があり、住宅用地であれば、「住宅用地の軽減措置特例」が適用され、税額が軽減されます。人の居住用に建てられた家屋に用いられる敷地(住宅用地)については、固定資産税・都市計画税それぞれの税負担軽減が受けられるという措置のことです。具体的には次の表のとおり、税額の軽減が適用されます。
敷地に建っているのが空き家であっても、基本的に特例は適用されます。一方で更地だと減額が適用されないので、空き家を更地化してしまうと結果的に税金が高くなるのです。
本特例は、全国で問題となっている老朽化した空き家の増加の大きな要因となっている、と言われています。そのため、2015年に「空家等対策特別措置法」が施行され、「特定空家等」として勧告を受けた空き家については、更地と同様に特例の適用除外とされることになりました。
空き家を更地にするとどの程度固定資産税は高くなるのか?
それでは、実際に空き家を更地化した場合、固定資産税がどの程度高くなるのかシミュレーションしてみましょう。ここでは、次のような条件でシミュレーションし、住宅用地の軽減措置特例以外の特例は考慮に入れないものとします。
●土地の課税評価額 : 2,000万円
●建物(空き家)の課税評価額 : 800万円
●敷地面積 : 200平方メートル
上記の条件で空き家が残っている場合、固定資産税額は次のとおり計算できます。なお、固定資産税の税率は評価額×1/6×1.4%です。
(2,000万円×1.4%×1/6)+(800万円×1.4%×1/6)≒ 6.5万円
つぎに、空き家を除却して更地にした場合の固定資産税額を計算してみましょう。
2,000万円×1.4% = 28万円
更地化した場合、土地分の固定資産税については確かに6倍となっていますが、固定資産税額の合計でみると、建物分の税金がなくなるため4倍程度にとどまっています。
空き家付きの土地を保有する人が検討したい五つの選択肢とは?
更地化しても、通説で言われるほどには税額が高くならないものの、それでも空き家を残すより税金が高くなるのは事実です。
ここからは、空き家付きの土地を現に保有している人に向け、空き家の税金対策や有効活用として検討できる五つの選択肢を紹介していきます。いずれも、需要と供給のバランスや費用対効果を見極めて判断することが大切です。
古家付きの土地としてそのまま売却する
一つ目の選択肢は、空き家が建った状態で特に手を加えず、古家付きの土地としてそのまま売却するという方法です。
この方法のメリットとしては、空き家を解体する費用や労力を負担する必要がないという点が挙げられます。空き家の解体費用は、一般的な木造住宅で1坪あたり約3万円かかり、延床面積30坪の空き家だと100万円近く見込まなければなりません。鉄骨造や鉄筋コンクリート造となれば、さらに費用が高くつきます。
また、「特定空家等」に当てはまる空き家でなければ、固定資産税や都市計画税の軽減措置が受けられる状態で売却できるというのもメリットです。買主が住宅ローン融資を受けやすくなる点も嬉しいポイントでしょう。
ただし、売主が解体費用を負担しない分、売却費用から解体費用相当分を差し引くのが一般的であり、結果的に売却価格が低くなってしまいます。さらに、空き家といえども、売主が建物の契約不適合責任を負う可能性があるというデメリットもあります。
こうしたことから、面積の大きな空き家が建っていて高い解体費用が見込まれる場合や、できる限り手間をかけずに現金化したい場合などに向いているでしょう。
空き家を更地にして売却する
二つ目の選択肢としては、空き家を更地化して、土地を売却するという方法が挙げられます。
完全な更地になるため、注文住宅の新築を検討している人に対してアピールしやすいというのは大きなメリットです。古家付きだと既存建物の解体や土地調査が必要になるため、新築を希望する層にとっては、更地のほうがイメージは良いでしょう。
加えて、更地だと買主が解体費用を負担しなくてよいことや、手軽に幅広い目的で使用できることから、古家付きに比べて高く売却できる可能性があります。
一方、建物の解体費用や土地調査にかかる費用、土地の状況によっては地盤改良にかかる費用を負担しなければならず、売却にあたってのコストが高くなる傾向にある点は要注意です。
築年数の古い物件だと、現行の建築基準法や都市計画法の基準に満たない「再建築不可物件」であるケースも考えられます。再建築不可物件で既存建物を解体してしまうと、新たな建物を建てられないため、土地の利用方法がかなり限定されます。
以上を踏まえると、立地条件や土壌・地盤の状態が良く、新築住宅や事業用としての価値が見込める土地である場合、積極的に検討したい選択肢です。
空き家をリノベーション・建て替えをして売却する
空き家をリノベーション・建て替えしたうえで、リノベーション済み住宅あるいは新築住宅として、敷地と一緒に売却するという選択肢もあります。
古家をリノベーションするのであれば解体費用を負担することなく、住まいとしての資産価値を高めて売却できます。建て替えだと解体費用は負担しなければなりませんが、一般的な分譲住宅と同じ条件で売却できるため、買い手が見つかりやすく、通常の新築価格で売却できるのがメリットです。
ただし、リノベーションや建て替えにはそれなりのコストがかかります。古家付きや更地より高い価格で売れたとしても、リノベーションや建て替えにかかった費用を回収できなければ意味がありません。
住宅ニーズの旺盛な人気のエリアに位置している土地で、投資分を上回る価格で売却できる見込みがある場合には、こうした選択肢を検討するのもよいでしょう。
空き家を更地にして土地活用する
空き家を更地にしたうえで土地活用するという方法もあります。具体的には、駐車場、太陽光発電やコンテナ用地として活用したり、住宅用地や事業用地として土地を貸し出したりといったことが考えられます。
都心や都市部郊外の駅近など賃貸ニーズの高いエリアであれば、アパートやマンション、オフィス用の土地として貸し出すのがおすすめです。郊外のロードサイドであれば、コンビニや飲食店に土地を賃貸するというのもよいでしょう。
住宅やオフィス、商業としてのニーズが見込めないエリアの土地であっても、太陽光発電施設や駐車場の用地、資材置き場として活用できるかもしれません。
ただし、借り手がつかないと、維持費用や税金を支払うだけの厄介な土地になってしまうリスクがあります。周辺の賃貸ニーズを正確に読み取り、その土地に合った活用方法を見つけられるかどうかが鍵です。
空き家を修理して貸し出す
空き家をリフォームもしくはリノベーションして、人の住める状態にしたうえで、貸し出して賃料収入を得るというのも一つの選択肢です。
リフォーム・リノベーションにコストがかかるものの、得られる賃貸収入で投資回収できるのがメリットです。借り手がしっかりついて、長期安定的に賃貸収入を得られれば、そこから税金や将来かかる修繕費を支払うこともできます。
ただし、これはあくまでも借り手が見つかる前提での話であり、賃貸ニーズの少ない地方や郊外の土地ではなかなか検討が難しい方法と言えます。
また、リノベーションした当初は競争力が高い物件だったとしても、経年によって競争力が低下していくため、魅力を維持するための投資を続けなければなりません。
こうしたことから、この方法は既存建物の築年数が浅くリノベーション費用が安く済む場合や、賃料水準の高い都市部に立地している場合などで特に有効です。
空き家を取り壊すか迷っている人が知っておきたい注意点とは?
先ほど紹介した五つの選択肢を検討する中で、空き家を取り壊すのがよさそうだと考えている人もいることでしょう。ここからは、空き家を取り壊すにあたって知っておきたい注意点を三つ紹介していきます。
特定空き家に指定されると税金は安くならない
先述のとおり、2015年施行の「空家等対策特別措置法」により「特定空家等」が定義されています。
ここでいう特定空き家とは、下の四つのうち、いずれかの状態に該当する空き家のことを指します。
●建物が倒壊するなど、将来保安上危険となる可能性がある状態
●今後、著しく衛生上有害となる可能性がある状態
●管理が適切に行われておらず、著しく景観を損なっている状態
●周辺の生活環境を保全するにあたり、放置しているのが不適切な状態
特定空き家に指定されると、行政から助言や指導を受け、それでも改善が見られない場合には勧告が出されます。特定空き家の勧告を受けると、先ほど紹介した住宅用地の軽減措置特例の対象から除外され、税金の軽減措置を受けられなくなるのです。
勧告が出された後も改善されないと命令が出され、命令に違反すると罰金が課せられる決まりになっています。
税金対策のために空き家を放置していると、いずれ更地と同等の固定資産税がかかってしまう可能性があるため、注意が必要です。
再建築不可物件は取り壊しよりも先に課題を解決しよう
築年数の古い物件の場合、現行の建築基準法や都市計画法の決まりを満たしていない、既存不適格の状態にある可能性があります。こうした物件は再建築不可物件と呼ばれ、一度取り壊してしまうと建て直しができません。
具体的には、間口が2メートル以上道路に面する必要があり(接道義務)、再度建物を建てるには、隣地を買い取る(もしくは隣の家に買い取ってもらう)か、セットバックして建築可能な土地に見直すといった方法をとらなければなりません。
こうした課題解決の見込みが立たないまま取り壊してしまうと、更地としての利用しかできず後悔する可能性があります。保有している空き家付き土地が再建築不可物件である場合には、何よりも課題解決を優先しましょう。
農地にする場合はデメリットとの比較検討が大切
更地の固定資産税は土地の評価額×税率1.4%となりますが、農地に転用すれば農地の条件によって税の優遇措置が受けられますので、税額が安くなることが多いと言われています。実際、農地のほうが宅地よりも評価額が安くなるため、固定資産税の軽減を図れる可能性があるでしょう。
しかし、都心部を中心とする市街化区域などでは、農地にしたからといって必ずしも固定資産税が安くなるとは限りません。また、土地の売却を考える場合、農地は買い手が少ないうえ、宅地に比べて価格が安い点も注意が必要です。
更地の農地化に際しては、こうしたデメリットと比較検討することが大切と言えるでしょう。
まとめ
空き家を更地にすると、固定資産税や都市計画税が高くなるというのは事実です。だからといって、空き家をそのまま放置していると「特定空き家」に指定され、税金軽減の特例を受けられなくなる可能性があります。
空き家付きの土地を持っているのであれば、売却や土地活用など複数の選択肢の中から、その土地のニーズや建物の状態、オーナー自身の事情にマッチする対策を選ぶようにしましょう。