円安やインフレなど経済に関するニュースは毎日のように報じられます。そのなかで、日本はいまだに不景気であるとか、昔は好景気だったという表現を耳にすることがありますが、そもそも好景気・不景気とはどのような経済活動が行われている状態を指すのでしょうか。また、国民が「好景気が来そうだなぁ」や「不景気が続いているなぁ」といった判断をするには、どのような指標を参考にすればよいのでしょうか。いくつかの観点を紹介します。
実感なき経済成長
景気が良いとか悪いというのは、いわゆる経済分野の話になるかと思います。一般的に国の成長や、世界の経済規模などを表すときに用いるのはGDP(国内総生産)と呼ばれる経済指標になります。ここでは詳しい説明は割愛しますが、国内で新たに生み出されたモノやサービスの付加価値の合計をGDPといいます。「国内で」という部分がポイントで、たとえば日本企業が海外で生産したモノなどは対象になりません。GDPは私たち家計の消費や企業の設備投資、政府の支出、純輸出(輸出額から輸入額を差し引いたもの)などで構成されています。
ニュースなどで「昨年の日本経済は2%成長した」という表現を耳にすることもあるかと思いますが、この場合はGDPの総額が前の年に比べて2%増えたということを意味しています。また、「日本は世界第3位の経済大国」という表現がよく使われますが、これは世界各国のGDPの実額を大きい順に並べたときに、日本が米国、中国に次いで3番目に大きいということです。
ただし、GDPが大きく伸びたからといって、私たち個人が好景気だと感じるかどうかは別の問題です。前述のGDPを構成する各項目が伸びればGDP全体も伸びるわけですが、たとえば企業が積極的に設備投資をしても、その恩恵をあずかれない人からすれば、自分自身の生活は向上していません。そのため、GDPは伸びたかもしれないけど、好景気だなと感じることはなく、これがいわゆる「実感なき経済成長」ということになります。
大事なのは「賃金」と「消費」
好景気を実感するために大事になってくることは、私たちの賃金が上がっているかどうか、ということになります。厚生労働省が発表している「毎月勤労統計調査」という統計では、賃金や労働時間についてのデータが掲載されています。
極論を言ってしまえば、GDPと同様にこの統計において賃金が上昇していたとしても、自分自身の賃金は上がっていないというケースも発生します。それでも全体のトレンドが上昇傾向にあるかどうか、というのはとても重要です。仮に自分の賃金が上がっていなかったとしても、周りの多くの人の賃金が上がっているのなら、その人たちが消費を増やすことで、自分が勤める会社の業績が向上し、少しの時差を経て自分の賃金が上昇する可能性があるからです。
そして、家計がどれぐらい消費をしているかをみるには、総務省が発表している「家計調査」という統計をみるとよいでしょう。1ヶ月のうちにどれぐらい消費をしているのか、さらには、大分類として「食料」や「交通・通信」など10項目に分けて支出先を確認することも可能です。賃金が上がったとしても、多くの人が節約して消費しない場合は、景気は良くなりませんから、賃金だけをみていては景気の実態は分かりません。
景気と株価は一致しない?
経済指標だけではなく、株価も景気の実感と一致しないという話をよく聞きます。実際に筆者が講演のあとに聞く話として、「景気は悪いはずなのに株価だけは高くて不思議」というものがあります。
ただ、これは当たり前ですよ、ということを説明します。まず言葉の定義が必要となりますが、一般的に多くの人が株価というのは「日経平均株価」を指しています。一方で、「景気が悪い」という場合は自分自身の経済状況と、周囲の状況を指します。周囲というのは家の近くの商店街がシャッター街になっているとか、タクシーに乗ったら運転手が「客がいない」と嘆いていたとか、そのような身の回りの話です。
日経平均株価は上場している3,800社超のなかから、規模が大きく、日本を代表する企業225社の株価から算出されています。日本には350万以上も企業があり、上場しているのは3,800社超。そして、そのなかで選ばれた225社によって算出される株価。それと身近な商店街の小さな個人商店を同列に比較することは正しいのでしょうか。
このように言葉の定義を明確にしていくと、景気の実感と株価の推移が一致しないのは当然のことだとわかるでしょう。ということは、自分が景気の良しあしを実感するためには自分を含めた身の回りの状況を把握すればよく、日本経済というマクロの観点から景気の良しあしを判断したいのであれば、経済指標や株価から判断すればいいのです。
耳を傾けるべきは街角景気
実は経済指標にも、いわゆる現場の声を表現したものがあります。それは内閣府が発表している「景気ウォッチャー調査」というものです。この指標はタクシー運転手やスーパー、コンビニの店長など、街角の景気判断を下せる人たちにアンケートをとって作成される経済指標です。景気の現状や先行きについてヒアリングした結果を数値化するのですが、公表される資料には実際にヒアリングした際の回答内容も掲載されています。
たとえば、「コロナによってお客さんが全く来なくなった」という居酒屋の店主のコメントや、「資材価格の上昇によって建設プロジェクトが中止になった」という設計事務所のコメントなど、現場のリアルな声が紹介されています。
さまざまな経済指標を紹介しましたが、理想としては経済指標など確認せずとも、国民一人一人が自然に好景気を実感できるような世の中になることが理想です。そのような社会を実現できるように、私たちは常日頃から経済に関心を持ち、政治家がしっかりと仕事をしているのかを監視し、投票を通じて民意を反映させていく必要があるのです。