妊娠時期には赤ちゃんが生まれてくる喜びと同時に、特に初めての妊娠・出産の場合にはどれくらいお金がかかるがわからず不安ですよね。妊娠・出産は病気ではないので基本的に健康保険はつかえませんが、様々な公的支援があります。妊娠・出産時に使える制度を紹介します。
妊娠時には妊婦健康診断助成金、出産時には出産育児一時金、健康保険に加入していれば出産手当金、その他、自治体によっては独自の支援制度を用意しているところもあります。
1. 妊娠・出産時にすべてのママがもらえるお金
その1:妊婦健康診断助成金
妊娠は病気ではないので、切迫流産・早産、妊娠高血圧症候群のような病気に対する検査や治療を除いて健康保険の適用外となり、検診費用は全額自己負担です。
健診や採血・超音波などの検査にかかる費用は1回数千円程度ですが、トータルすると平均約10万円と結構な負担となります。この健診費用を一部、あるいは全部を負担してくれるのが妊婦健康診断助成金です。自治体の支援制度なので自治体によって金額は異なり、妊婦1人当たりの助成額は2018年時点で全国平均105,734円です。
出産まで14回までの支援(14回分の受診票や補助券がもらえる)が一般的ですが、自治体によっては無制限のところもあり、かなりの差があります。ちなみに、2018年時点での助成額トップは、石川県の137,813円、大阪府は116,309円、東京都は86,742円、ワーストは神奈川県の71,417円と、やはり都市部は少ない傾向にあります。
なお、里帰り出産をした場合には、原則、里帰り先の病院では住んでいる自治体で発行された受診票などは使えないので、自宅に戻ってから申請することで受けられなかった助成金分の支給を受けられます。なお、その際には、かかった費用を証明する領収書が必要ですので、なくさないようにしましょう。また、申請期限は出産した日より1年以内と短めです。出産後に忙しくしているうちに期限が過ぎてしまった、ということのないよう注意しましょう。
その2:出産育児一時金・家族出産育児一時金
出産費用は、年間平均1%程度で上昇しており、2020年度の室料差額等を除いた公的病院の平均出産費用は45.2万円、全施設の平均出産費用は46.7万円と高額です。この費用を助成してくれるのが出産育児一時金・家族出産育児一時金です。
健康保険に加入している、もしくは被扶養者になっている、あるいは、国民健康保険に加入している母親が出産した場合に、出産にかかる費用に相当する金額が支給される制度です。妊娠4ヶ月以上(85日以上)の出産が対象となっています。(被扶養者となっている夫の健康保険から支給を受ける場合には「家族出産育児一時金」。以下、まとめて一時金と記載)
なお、母体保護が目的なので4ヶ月以上の出産であれば、生産、死産、早産、流産(人工流産も含む)の理由を問わず、父親が不明であっても支給されます。
支給金額は子ども1人につき原則42万円ですが、妊娠週数が22週に達していないなど、産科医療補償制度の対象とならない出産の場合は、1人につき40.8万円となります(2022年現在)。なお、2023年度からは子ども1人につき5万円アップの47万円となる見込みです。
産科医療保障制度とは、出産時の事故で子どもが重度の脳性麻痺になってしまった場合にその子どもと家族の経済的な負担を補償する制度で、ほとんどの医療機関が加入しています(掛金は病院が負担)。
最近では、病院が被保険者等に代わって直接一時金の申請・受給を行う「直接支払制度」や、被保険者等が病院を受取代理人に指定して病院が一時金を受け取る「受取代理制度」がほとんどの病院で導入されています。「実際にかかった出産費用と一時金との差額分だけ退院時に支払えば済む」ということです。
ただし、直接支払制度等の対応ができない病院もあり、その場合には一旦、自己負担して後日、加入している健康保険組合に還付の請求をすることとなります。まとまった資金が必要になるので、事前にチェックしておきましょう。また、最近では、費用が一時金を大きくオーバーするケースもあるので、この点も要チェックです。
なお、最近はあまりないですが、もし実際にかかった費用が出産育児一時金よりも少なかった場合には、差額分をもらえますが、申請が必要なので忘れずに申請しましょう。時効は2年です。
公的支援制度を使っても、どうしてもお金がなくて分娩費用を工面できないという人は、自治体の福祉事務所に相談しましょう。自治体が指定した病院で入院・分娩することで、自己負担額を大幅に減らすことも可能です。
2.もし、会社を辞めた後に出産したら、出産育児一時金はどうなるの?
退職前に1年以上継続して勤務して健康保険に加入していれば、退職後6ヶ月以内の出産(予定日ではないので注意)の場合、加入していた健康保険から一時金の支給を受けることができます。もし、退職後すぐに健康保険に加入している夫の被扶養者になっている場合は、自分の加入していた健康保険の「出産育児一時金」、もしくは夫の健康保険の「家族出産育児一時金」のどちらかを選択できます。
退職後、すぐに国民健康保険に加入していた場合も、同様に、自分の加入していた健康保険の「出産育児一時金」、もしくは国民健康保険の「出産育児一時金」のどちらかを選択できます。
3.健康保険に加入していれば出産手当金も受けられる!
健康保険に加入している会社員が、出産にともなって産前産後に休業した場合受けられる所得保障が出産手当金です。健康保険制度に加入していれば、パート、契約社員など雇用形態に関係なく対象となります。国民健康保険制度にはない手当なので、自営業者の方が出産する場合には支給されません。
支給要件は、出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは出産の予定日)以前42日(多胎妊娠の場合には98日)から出産の翌日以降56日目までの間で働かずに賃金の支払いがなかった期間について、1日につき、月給日額※の2/3相当額が支給されます。
※月給日額
出産手当金の支給を受け始める日が属する月以前の直近の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額を30分の1した金額
あくまでも、働かなかった場合であるため、普通に勤務していたら支給されません。また、給与(報酬)をもらっている場合や有休取得時にも原則、支給されません(ただし、報酬の額<出産手当金の場合には差額が支給)。
では、具体的にどの程度の金額の支給を受けられるのか見てみましょう。
<前提条件>
出産手当金支給開始日以前の12ヶ月の標準報酬月額を平均した額:30万円
産休期間:出産日以前42日、出産後56日の98日間
日額 :30万円÷30×2/3=6,667円 (1円未満は四捨五入)
出産手当金:6,667円×98日=653,366円
以上の通り、決して少なくない金額を受け取ることができます。出産手当金には出産育児一時金と同様に所得税・住民税はかかりませんし、産休期間中は健康保険料・厚生年金保険料等の社会保険料も免除されるので、非常にありがたい制度ですね。
では、もし出産が予定日よりも遅れたらどうなるのでしょうか? その場合には遅れた期間を含めて出産手当が支給されるので、トータルの受給期間が延びます。
逆に、出産が予定日より早かったらどうなるのでしょうか?
この場合には、出産日当日は出産の日以前に含まれるため、予定が早まった日分だけ、支給期間が短くなります。
出産予定日はあくまで予定日で、予定通りにいかないことが多いです。もし産休を取得する前に出産予定日が早まることがわかれば、当初の予定より少し早めに産休を取るなど工夫をしても良いかもしれませんね。
4.もし出産手当金を受け取っている途中で会社を辞めたら?
当初は、出産後も職場に戻って働く予定であったとしても、妊娠中に健康上や家庭の事情で会社を辞めなければならない、というケースもあるでしょう。その場合には、
・退職以前に継続して1年以上健康保険の被保険者であったこと(一部例外あり)
・退職時に出産手当金の支給をすでに受けているか、または受ける条件を満たしていること
以上の2つの要件を満たしていれば、出産手当金を受けるはずだった期間、そのまま支給を受けることができます(出産手当金の継続給付)。
あくまで、退職時(資格喪失時)に出産手当金の支給を実際に受けているか受ける条件を満たしていることが要件です。そのため、出産の日以前42日以内に入ってからの退職であっても、退職時に通常の勤務をしていた場合には継続給付を受けることはできません。
5.2023年以降の出産なら合計10万円分のクーポンがもらえる?!
まだ正式に決定はしていませんが、妊娠中や0~2歳児の子育て支援の充実に向けて、2023年1月1日以降に生まれた子ども1人あたりについて、妊娠届と出生届を出した後、それぞれ5万円分ずつ、合計10万円分のクーポンが配布される予定です。
クーポンはベビー用品や産前産後のケア、家事支援といった子育て用品や関連サービスに使え、自治体の判断でクーポンではなく現金の支給も可能となる見込みです。 すでに妊娠届を出してしまっている場合でも、出産が2023年1月以降となれば対象となり、制度施行前の2022年4月から12月末に生まれた子は、半分の5万円分を支給する案を軸に最終調整とのこと。
所得制限は特にないそうなので、恒久的に使えれば誰でも使える公的支援がもうひとつ増えることになりますね。
その他、独自に出産、育児に関するサポートや助成制度を設けている自治体もあります。このような助成制度は、子育てしやすい地域を見つけるひとつの目安になるので、近隣の自治体のホームページをチェックしてみてください。なお、これらは基本的には申請をしなければもらえませんので、しっかり漏れのないように制度は活用しましょう。