テレワークの普及や大都市圏のマンション価格の高騰などから、地方移住を考える相談が増えています。移住したいと思っても、現実には住まいや仕事など新たに生活を立ち上げるための不安はつきものです。そうした不安を少しでも軽減するために、国や自治体が連携しながら行う様々な支援制度があります。
今回は、地方移住を考える人に役立つ、国と自治体が連携して行う支援制度や【フラット35】の金利優遇についてご紹介します。
内閣府の地方創生事業による支援金
まずは、国が行う内閣府の地方創生事業についてご紹介します。内閣府の支援金には大きく分けて移住支援金と起業支援金の2つがあります。
移住支援金
移住支援金は、東京都23区在住者や東京圏から23区内の企業に通勤する人が、東京圏外に移住し、起業や就業等を行う場合に最大100万円(単身者は最大60万円)を受給できる制度です。18歳未満の子供がいる場合は子供1人につき最大30万円が加算されます。
実際に地方創生事業を利用した移住者は全国で年々増えており、2019年(令和元年)度の移住人数123人から2020年(令和2年)度は563人、2021年(令和3年)度は2,381人となっています。東京では新型コロナウイルス終息後もテレワークを拡大、維持とする企業が約7割※を占め、若い世代の地方移住につながっている様子がうかがえます。
※出典:国土政策局「企業等の東京一極集中に係る基本調査(企業向けアンケート)」(2020.11速報)
制度の概要を下図にまとめてみました。詳細については「地方創生起業支援金・移住支援金」のサイトをご確認ください。
起業支援金
起業支援金は移住先で新たに地域の課題解決に役立つ社会的事業を新たに起業する人や、事業承継または第二創業する人が受けられる支援金です。
具体的な事業としては、子育て支援や地域の産品を活用した飲食店、買い物弱者支援などが想定されます。都道府県が選定する執行団体が交付申請の審査や起業支援を行い、起業等に必要な経費の2分の1相当、最大で200万円まで支援金が受けられます。
国の交付決定日以降に個人開業届や法人の設立を行い、実際に受給できるのは事業実績を報告した後となるので、スケジュールをしっかりと確認しておきましょう。
「空き家バンク」制度などを活用した自治体の支援制度
移住先の住まいに対する支援では、空き家バンクと連携した地方自治体毎の支援制度があります。空き家バンクとは、全国の地方自治体が、空き家の賃貸や売却を希望する所有者の情報を集め、空き家を利用、活用したい人に紹介する制度です。インターネットで空き家バンクに登録してある全国の空き家情報を見ることができます。
空き家バンク以外にも、移住定住相談やセミナーの開催、お試し滞在や移住者同士の交流など、多岐にわたる支援を行って移住希望者を支援する自治体が数多くあります。
移住先の情報については、東京や大阪など大都市圏でもイベントを開催したり、東京や大阪など大都市に移住の相談窓口となる事務所を持っていたりする自治体もあります。移住お試し体験も、宿泊費はもちろん、交通費や食事代をサポートしてくれる自治体や、1ヶ月間1日1,000円で宿泊できるなど、手厚い移住体験ができる自治体もあります。
気になる自治体があればぜひ「内閣府」等が運営する「地方創生」サイトから「移住情報」を覗いて気になる自治体の情報を見てみましょう。
ここでは一例として、筆者が実際に二拠点生活を送っている兵庫県西脇市の支援策をご紹介します。
西脇市は神戸から車で1時間ほどの兵庫県の中央部に位置し、人口4万人弱の小さな町です。酒米の田園風景と小さな街が隣接し、自然豊かでありながら車があれば毎日の暮らしや買い物に困ることはありません。とはいえ、過疎化が進んでいるだけに移住・定住支援には力を入れています。
特徴的な支援策としては、空き家バンクに登録された空き家の購入とセットで、農地を1平方メートルから購入できる施策(原則は3,000平方メートルから)や、空き家を賃貸住宅に改修するための補修にも補助金が出るなど、柔軟な対応があります。移住相談窓口となる職員はもちろん、市の魅力をSNS等で発信する専門職員もいます。そして何より市民全体が移住者に温かいと感じます。移住にあたっては、支援策はもちろんですが、事前に何度も足を運び、肌感覚で町を感じることが何より大切だと思います。
【フラット35】地域連携型で金利優遇
移住者の受け入れに積極的な自治体と住宅金融支援機構が連携して【フラット35】の借入金利を一定期間引き下げる制度もあります。大きく【フラット35】「地方移住支援型」と「地域連携型」があり、「地域連携型」には(子育て支援)と(地域活性化)があります。2023年3月31日までに申し込み受付分まで利用できます。
(1)【フラット35】地方移住支援型
各自治体の移住支援金とセットで一定期間【フラット35】の金利引き下げを受けられます。ローン申し込み時に、移住後数か月の居住実績が必要な移住支援金の交付決定通知書の提出が必要なため、移住と同時に利用することはできない点に注意しましょう。
(2)【フラット35】地域連携型(子育て支援)
対象となる自治体の補助金制度を利用した住宅取得が対象です。地方公共団体からの証明書を受ける必要があります。
(3)【フラット35】地域連携型(地域活性化)
Uターン、Iターン、コンパクトシティ形成、空き家活用、防災・減災、地域の木材使用、景観形成など、地域活性化に積極的な自治体の補助金制度の対象となる場合に利用できます。
以上、地方移住のための支援策を列挙してきました。
新型コロナウイルス感染症が発生してから約3年が経過しようとしています。完全な終息が見えない中で確実に若い世代の住まいや仕事、子育てといったライフスタイルに関する価値観は変わっていると感じます。
今後ますます働き方の多様化が進めば、通勤と切り離して、自分自身が本当はどこでどのように暮らしたいのかを考え、地方移住を希望する人も増えるのではないでしょうか。地方移住を考えたら実現への第一歩として、支援制度の活用を考えてみてはいかがでしょう。