南海トラフ地震について、マグニチュード8~9クラスの地震が30年以内に発生する確率が70%から80%、首都直下地震で想定されるマグニチュード7程度の地震が30年以内に発生する確率が70%程度と言われる日本(※)。しかも、毎年のように大型の台風や豪雨の被害にも直面しています。そのとき、大切になるのが「自助」「共助」「公助」ですが、その「共助」の意識が年々弱まっているようです。※『国土交通白書 2020』より。いずれも2020年1月24日時点の発生確率
マンションでは年々弱まる共助の考え方
大地震などの災害に遇った場合、「自助、共助、公助」の三拍子がそろっていることが大切と言われています。一人ひとりが自ら取り組む「自助」、近隣に暮らす人たちが一緒に取り組む「共助」、そして国や自治体による取り組みの「公助」がそろってこそ、災害から身を守ることができるというわけです。
大地震などの災害が起こったあと、自治体などによる公助が本格的に始まるまでには3日ほどかかると言われています。それまでの間は、自分たち自身でわが身を守る自助、隣近所で助け合う共助が大切と唱えられています。
実際に、阪神・淡路大震災の発生時には、がれきの中から自力で脱出したり、家族、友人、隣人などによって救出されたりした人が9割と言われています。自助、共助によって助かった人がほとんどで、警察や消防、自衛隊などの公的な救助隊によって助け出されたのは、わずか数%程度という調査もあるほどです。
それほど重要な共助ですが、残念ながら大都市部、とりわけマンション住まいでは、それが希薄になりつつあります。
共助力の強いマンションを選ぶポイント
マンションに住む人たちの中には、隣にどんな人が住んでいるのか知らないという人も増えています。だからこそ、マイホームとしてマンションを選ぶときには、隣近所のつながりが強く、共助によって助け合えるようなマンションを選びたいものです。
中古マンションなら、どんな人たちが住んでいるのか、どんなコミュニティーが形成されているか、などはある程度確認できるでしょう。しかし新築マンションでは、これからどんな人たちが住むのかわからないため、不安を覚えることもあるかもしれません。
そこで、参考にしたいのが、リクルートSUUMOリサーチセンターが実施した「マンション管理とコミュニティについての調査2022(首都圏)」です。
マンションに住む人たちに、マンション内の共助力がどうなっているかを聞いて分析しています。どんなエリアの、どんな規模、どんな内容のマンションであれば共助力が強いのか、弱いのかをある程度推測できるので、ぜひ参考にしてほしいところです。
コミュニティーがあれば高齢者などを助け出せる
この調査では、まず「今のマンションの居住者とは、いざという時に助け合える」と思うかを質問しています。それが共助力指標になるのではないか、というわけです。2022年版の調査結果では、「とてもそう思う」と「ややそう思う」の合計が32.3%でした。
図表1にあるように、2016年には40.1%となんとか4割を超えていたのが、2018年以降は30%台に低下し、年々下がっています。共助力はじわじわと低下していることがわかります。
共助力が低下したマンションでは、例えば同じフロアに身体の不自由な高齢者が住んでいて、大地震の発生後に自室の中で倒れた家具など挟まれて身動きが取れなくなっていたとしても、それに気付くことができず、助け出すことができません。
しかし、普段から住人同士できちんとあいさつを交わし、どんな人が住んでいるのかがお互いにわかるような付き合いがあれば、避難所などにその人がいないことに誰かが気付き、捜索や救出に動く人たちが出てくるはずです。できれば、そんなコミュニティーがあるマンションを選びたいところです。
エリア別では東京市部の共助力が強い
では、どんなマンションなら共助力が強いのでしょうか。
まずエリア別に見ると、図表2のような違いがあります。やはりと言っていいのかどうか、東京23区では「今のマンションの居住者とは、いざという時に助け合える」と思うかの質問に、「とてもそう思う」「ややそう思う」の合計が28.4%で、全体の32.3%を下回っています。
しかし、同じ都内でも23区以外の東京市部ではこの数値が37.3%に上がります。首都圏では、東京市部のマンションの共助力が強いようです。まだまだ4割以下であり、決して高い水準とは言えませんが、東京23区に比べると自分たちの住んでいるマンションは共助力が高いと考える人たちが多いようです。
東京都以外では、神奈川県は35.2%、千葉県は35.6%と東京市部とさほど変わらないレベルですが、埼玉県は32.1%、茨城県は31.8%とやや共助力が低いマンションが多いと言えます。
大規模マンションほど住民のつながりが強い
次に、マンションの総戸数規模による違いは図表3のようになっています。規模による相関関係が明確に表れています。規模が大きくなるほど、共助力が高いマンションが多いという結果でした。
総戸数が100戸未満の比較的規模の小さなマンションでは「今のマンションの居住者とは、いざという時に助け合える」と思うかの質問に対して、「とてもそう思う」「ややそう思う」の合計が26.6%。一方、100戸以上300戸未満では32.4%に増え、300戸以上になると39.8%と4割近くに達します。
規模が大きくなるほど管理組合の活動が活発で、防災訓練などを通して共助の意識が強まるのではないでしょうか。
同じように、総階数別の違いをみると、30階建て以上の超高層マンションで共助力が強いという結果となっています。超高層マンションの上層階ほど、地震時の揺れが大きいためか、助け合いの意識が強くなるのかもしれません。
坪単価が高いほど共助力が弱くなる傾向に
次に、マンションの坪単価別に見ると、図表4のような結果でした。
坪単価が200万円未満のマンションでは「今のマンションの居住者とは、いざという時に助け合える」と思うか、の質問に対して「とてもそう思う」と「ややそう思う」の回答の合計が37.4%と、全体の32.3%に比べて5.1ポイント高くなっています。
それが、坪単価200万円以上300万円未満のマンションでは28.6%と全体より低くなり、300万円以上400万円未満では30.2%ですが、400万円以上では16.9%と格段に低くなってしまいます。
坪200万円未満といえば、約66平方メートル(20坪)で4,000万円未満、坪単価400万円以上だと8,000万円以上になります。価格面で見れば、比較的手が届きやすいマンションほどコミュニティーが形成され、共助力が強く、高額マンションでは必ずしもそうではないということが言えそうです。
共助力を重視したマンション選びの視点
災害時に住民同士で助け合えるようなマンションは、エリア的には東京都市部、総戸数規模は大規模マンションや超高層マンション、そして価格的には坪単価が安いマンション、ということになりそうです。マンションを選ぶ際には、ハザードマップや構造を確認することと併せて、共助力もチェックしてみてください。