2023年10月の消費税のインボイス制度(適格請求書等保存方式)の開始まで、あと約1年。しかし、制度開始の2023年10月にインボイスを発行するには、2023年3月までに登録申請手続きが必要です。インボイス制度への対応をまだ決めていない事業者の方は、早めに、消費税やインボイス制度について確認し、対応を検討しましょう。
納税額は受け取った消費税から支払った消費税を控除して計算
「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」とは、消費税の納税額を計算する際に適用する「仕入税額控除」の方式です。
消費税の計算の仕方や「仕入税額控除」などにはなじみのない方もおられると思うので、インボイス制度についてご説明する前に、消費税を負担する者と納付する者の関係や、消費税の納税額の計算式、「仕入税額控除」について確認しておきましょう。
図1は、消費税を負担する者と納付する者の関係を示しています。
消費税は、消費者(商品やサービスを消費する人)が負担する税金ですが、納付するのはその商品やサービスを提供した事業者(図1の場合は小売業者)です。その小売業者は、卸売業者から商品を仕入れる際に消費税を支払っています。また、小売業者に商品を卸した卸売業者は、生産・製造業者から仕入れる際に代金に合わせて消費税を支払い、小売業者からは代金に合わせて消費税を受け取っています。
このように、事業者は、仕入時に消費税を支払い、売上時に消費税を受け取ります。消費税の納付税額は、受け取った消費税額から支払った消費税額を控除して計算します(仕入税額控除)。
インボイス制度は、消費税の「仕入税額控除」の方式
この仕入税額控除を受けるには「請求書等」と「帳簿の保存」が必要とされます。この「請求書等」は、2023年9月までは免税事業者を含む事業者が発行する「区分記載請求書等」とされていますが、2023年10月からは、登録を受けた発行事業者(課税事業者)の交付する税率や税額が明記された「インボイス(適格請求書)」でないと認められなくなります。
「インボイス制度」とは、「仕入税額控除」を適用して納付する消費税額を計算する際に、仕入先から税率や税額等が明記された「インボイス」の交付を受け、保存するという「方式」を指します。
消費税を申告・納付する買手(課税事業者)は、商品の仕入先である売手(インボイス発行事業者)からインボイスの交付を受けると、仕入税額控除の適用を受けて、納税額を計算することができます。交付を受けたインボイスは保存しておく必要があります。
売手がインボイスを交付するには、事前にインボイス発行事業者の登録を受ける必要があります。登録を受けると、課税事業者※として消費税の申告が必要となります。
※課税事業者と免税事業者
その課税期間の基準期間の課税売上高が1,000万円を超える事業者は、消費税の申告・納付を行う必要がある(課税事業者)。基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者は、消費税の納税義務が免除される(免税事業者)。免税事業者は課税事業者になることを選択することもできる。
なお、登録された発行事業者に限り交付できるインボイスですが、様式が決まっているものではありません。下記(1)~(6)の記載事項を満たした請求書や領収書等が「インボイス」となります。
インボイスの記載事項
(1)発行先の相手方(売上先)の氏名または名称
(2)取引年月日
(3)税率ごとに区分して合計した対価の額および適用税率
(4)売手(当社)の氏名または名称および登録番号
(5)取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
(6)税率ごとに区分した消費税額
インボイス発行事業者に登録しないとどうなる?
インボイスの発行事業者の登録をするかどうかは任意です。
特に免税事業者がインボイスの発行事業者になるには、課税業者になる必要があるので、慎重に検討する必要があります。
先にご説明したように、インボイスを消費税の仕入税額控除の適用を受けるために活用するのは、買手側(売上先)です。
したがって、売手側(仕入先)がインボイス発行事業者に登録しなかった場合は、売上先はインボイスの交付を受けられないので、仕入税額控除の適用を受けられなくなり、納付する消費税額が大きく計算されることになります(一定の経過措置が設けられています※)。
例:インボイスの有無による納付税額の違い
インボイスあり:売上税額1,200円-仕入税額900円=納付税額300円
インボイスなし:売上税額1,200円-仕入税額0円(控除不可)=納付税額1,200円
※インボイス発行事業者以外の者からの仕入れに関する経過措置
制度開始後6年間は、仕入税額の一定割合を控除可能(請求書の保存などの要件あり)
・2023年10月から2026年9月…80%
・2026年10月~2029年9月…50%
「簡易課税制度」の適用で、事務負担を軽く
インボイス発行事業者の登録のため、免税事業者の方が課税業者になる場合には、消費税納税の金銭的負担に加え、納税額の計算などの事務の負担増も考えられます。そのような場合には、「簡易課税制度」の選択も考えられます。簡易課税制度を選択した場合は、売上の消費税額とみなし仕入率を使って計算するため、納付税額の計算が楽になります(仕入れや経費の消費税の実額計算は不要)。
また、消費税の申告に際して、仕入れや経費のインボイスは保存不要です。なお、簡易課税を選択するには、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であり、届出が必要です。
取引状況を考えて、早めに「インボイス制度」の検討を
「インボイス」は、消費税を納税する買手(売上先)が必要とする書類です。インボイス発行事業者の登録をするかどうかを考える際は、まずは、売上先にインボイスの交付を求められる可能性があるかを検討しましょう。
特に、免税事業者の方が登録を受ける場合は、課税事業者になる必要があるので、メリット・デメリットを慎重に検討しましょう。
登録を受けた場合のメリットは、インボイスが交付できること。しかし課税事業者として消費税の申告・納税が必要になります。
登録を受けない場合のメリットは、免税事業者のままでいられることですが、インボイスを交付できません。インボイスを交付できなければ、今までと同様の条件の取引では売上先の納付すべき消費税額が増えるので、取引条件の見直しが相談される可能性もあります。
インボイス制度について早めに理解を深め、2023年10月以降のインボイス交付の有無について、取引先(売上先や仕入先)の動向や取引条件などを確認しておくとよいでしょう。