住まいは、居住者、家族の成長をはぐくむ場です。子どものいる家庭なら、安心して子育てできる場であってほしいものでしょう。では、子育てしやすい住まいとはどういった住宅なのでしょうか。今回は、東京都の「子育て支援住宅認定制度」の認定基準を参考に、子育てしやすい住まいについて考えてみましょう。
家の中で起きる子どもの事故は意外に多い
家の中は安全と思いがちですが、実はそうではありません。実際に家の中で起きてしまう事故も多いのです。消費者庁でも、過去に注意を呼び掛けています。
消費者庁が、2020年4月から5月末までの緊急事態宣言等による外出自粛要請期間中に発生した、家の中での14歳以下の子どもの事故またはヒヤリ・ハットについて、アンケート調査を実施したところ、次のようなことが分かりました。
• 24%が家の中の事故またはヒヤリ・ハットの経験があった
• 事故内容については「落ちる」事故が最も多く、中でも階段が多い
• 発生場所については台所、リビング、階段の順に多く発生
子どもは予測がつかない行動を取ることも多いので、消費者庁では、事故を防いだり被害を最小限にしたりするために、気を付けたいポイントをまとめたチラシを作成しています。
家庭で場所ごとに注意をする必要がありますが、住宅自体が子どもの事故に配慮されたプランであれば、それに越したことはありません。子育て家庭ならば、住まい選びにおいて、子どもの安全性も重視したいものです。
東京都が認定する子育てしやすい住宅とは?
東京都では、子育てに配慮した住宅を増やすために、以前から子育てに配慮した住宅の技術的な情報を盛り込んだ「ガイドライン」などを提供してきました。2016年には、これらの基準を満たす住宅を認定する「東京都子育て支援住宅認定制度」をスタートさせています。
「東京都子育て支援住宅認定制度」について、東京都では、「居住者の安全性や家事のしやすさなどに配慮された住宅で、かつ、子育てを支援する施設やサービスの提供など、子育てしやすい環境づくりのための取組を行っている優良な住宅を東京都が認定する制度」と定めています。住宅の安全性や家事のしやすさという設計面での観点に加え、子育てに適した周辺環境や子育てを支援する施設、コミュニティのきっかけづくりなども認定対象としています。
具体的に新築住宅であれば、次のような認定基準が設けられています。
◆「東京都子育て支援住宅」の認定基準の概要(新築の場合)
周辺環境については、子どもが遊べる施設などの場所が近くにあること、保育所や小学校、学童クラブなどの子どもが通う場所が近くにあること、医療施設が近くにあることなどが基準となっています。これらは、子育て家庭が住まい選びをする際に、周辺環境のチェックポイントとしても重要な項目でしょう。
また認定基準には、住宅地の中やマンション内に、子育て支援施設・サービスを設け、コミュニティのきっかけづくりなどに配慮することも求めています。これらは、一般的な住まい選びの参考にするには、ちょっとハードルが高いと思います。
住戸内や共用部も子育てに配慮
次に、住戸内の基準について詳しく見ていきましょう。
◆専用住戸内の整備基準の概要(新築の場合)
まず、住戸の面積は50平方メートル以上とし、できるだけ段差を解消することが求められます。子どもは小さな段差でもつまずきやすいので、玄関やバルコニー、浴室の出入り口をのぞいて段差がないことが望ましいと考えられます。
子どもの事故が多く起きる場所が、浴室とキッチンです。浴室では浴槽に落ちておぼれる事故が起こるので、浴室に簡単に入れないように鍵を子どもの手が届かない高さに付けることや、滑って転倒しないように浴室の床を滑りにくい床素材にすることを求めています。
キッチンは火を使ったり、刃物を使ったりするので、子どもにとっては危険な場所です。コンロにはチャイルドロック機能を備えるなどの危険防止策を求めるとともに、子どもが侵入しないようにチャイルドフェンスを設置することが望ましいとしています。
バルコニーも危険が潜む場所です。子どもが乗り越えられる高さではないと思っていても、子どもが足をかける場所があれば、バルコニーの柵の上に上って、落下してしまう事故が起きてしまいます。そのために、エアコンの室外機を手すり側に置かないこと、バルコニーの形状や物干し竿などが足がかりにならないようにすることなどへの配慮が必要です。
また、子どもはドアの隙間に指を挟む事故が多いので、玄関や室内ドアには指挟み防止措置を施し、ドアがゆっくり閉まるドアクローザーの設置を求めています。壁の柱が直角だとぶつかって怪我をする可能性もあるので、角を丸める面取りをすることも必要です。コンセントの差込口を濡れた手で触ったりすると感電するリスクがあるので、シャッター付きコンセントの使用が求められます。
このように、子どもは思いがけない行動を取るので、危険を回避する事前の措置をあらかじめ住まいにしておこうという発想です。それだけでなく、照明のスイッチを子どもが押しやすい高さや大きさにしたり、扉の取っ手をレバーハンドルなどの子どもが開閉しやすいものにしたりといった、子どもの操作のしやすさも認定基準に挙がっています。また、防犯面や遮音性の対策も認定基準に含まれています。
戸建てに多い住宅内の階段については、子どもが移動しやすくしたり、転落防止のチャイルドフェンスを設置したりすることもポイントです。さらには、マンションの共用部分についても、共用階段や共用廊下などに転落防止策があり、バリアフリーになっていることなども認定基準に挙げられています。
子どもの危険を回避する親の意識も重要
住宅が子育てに配慮されていることは大切ですが、住まい手となる親の意識も重要です。住宅への対策に頼るのではなく、子どもの様子を見ながらどこに危険が潜んでいるかを教えることも大切ですし、常に注意して子どもを見守ることも怠れません。
紹介した基準の中には後付けできる対策もありますし、コンセントにカバーをかけたりぶつかる場所にタオルを巻いたりといった、自分たちで工夫できる方法もあります。住まい選びの際に何を重視するかは、それぞれの家庭で判断するとよいでしょう。
ただ、どういった観点で子どもを危険から守ればいいのか、どういった工夫で暮らしやすくなるかについては、こうした認定制度の基準などを知っておくと参考になると思います。
執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)