理系と文系に年収格差はある? 複数の調査結果から解説

多くの高校では、在学中に理系・文系に分かれる「文理選択」が行われます。大学に進学すれば、選んだ学問をさらに深く学ぶことになり、ひいては就職にも大きく影響します。

理系・文系について考えるとき、気になるのは「どちらがより稼げるのか?」という点。世間で噂される「理系文系の年収格差」は、真実なのでしょうか。

今回は、理系と文系でどれほど収入の差があるのかを、複数の調査をふまえて解説します。

松繁寿和氏の研究結果

かつては「理系は生涯賃金が低い」とされていた

理系と文系の年収格差を語るうえで重要な一冊が、2003年に出版された『理系白書 この国を静かに支える人たち』(講談社)です。本書は第1回科学ジャーナリスト大賞を受賞。理系の現状から日本社会が抱える諸問題に鋭く切り込み、各方面から大きな反響を得ているベストセラーです。

この本では理系の職業や社会的地位、収入の変遷、教育現場の現状などが詳しく紹介されています。また、大阪大学大学院助教授(出版時、現・教授)の松繁寿和氏による調査が引用され、その内容が話題になりました。

松繁氏は、同じ大学の卒業生を対象に理系と文系の収入について調査し、本書の冒頭では「文系の生涯賃金は、理系に比べて5,000万円高い」という驚きの結果が紹介されています。業種間の格差だけでなく、同一メーカーでも理系・文系で収入に格差が生じていました。

さらに本書は、理系はかつてエリートとして羨望を集めたものの、近年では「理系離れ」が進んでいると指摘。電気や電子、情報など、国を支える重要な分野で理系人材の縮小が進んでいるとしています。

また、こうした状況の背景にある、理系と文系で得られる社会的地位の差についても言及。文系がマネジメント部門などで出世しやすいのに対し、理系は技術職にとどまり、ポストや収入の向上につながりにくいことを一因として挙げています。

独立行政法人経済産業研究所の調査結果

経済産業研究所の調査では「文系よりも理系のほうが高収入」という結果に

理系と文系の年収格差に関する有名な調査としては、2011年3月に発表された独立行政法人経済産業研究所の「理系出身者と文系出身者の年収比較-JHPSデータに基づく分析結果-」も挙げられます。

こちらの調査では「文系よりも理系のほうが高収入」という、先ほど紹介した書籍とは反対の結果になりました。さらに、文系よりも理系のほうが所得の上昇率が大きく、「理系のほうが将来的に収入増を見込める」という期待を裏付けられるデータも出ています。

詳しいデータは以下の通りです。

出典:理系出身者と文系出身者の年収比較-JHPS データに基づく分析結果-

男性では文系出身者よりも理系出身者の年収が約40万円、女性では約60万円高い結果となっています。

調査報告では「文系出身者よりも理系出身者のほうが生産する付加価値額が高いという傾向は、新しい価値を生み出す創造性が求められるこれからの社会ではより強くなるだろう」と結論付け、理系能力を養成する重要性について言及しています。

リクナビNEXT Tech総研の調査結果

続いて、人材派遣会社として有名なリクルートが運営するエンジニア向けのポータルサイト「リクナビNEXT Tech総研」の調査結果を見ていきましょう。

こちらの調査では、ソフトや通信、機械・電気・電子などの技術職に就いている人を理系・文系出身に分け、年代別に平均年収を比較しています。詳しいデータは以下の通りです。

20代後半 文系401.3万円 理系423.9万円
30代前半 文系485.3万円 理系518.9万円
30代後半 文系604.8万円 理系627.4万円
40代後半 文系654.0万円 理系696.5万円

出典:Tech総研 “理系vs文系”出身学部で比較!ホントの給与格差

年代にかかわらず、理系のほうが20~40万円ほど収入が上回る結果となりました。

さらに、技術系職種の中でも文系出身者の率が高いソフトウェア・ネットワーク関連の職種において、高収入の層で理系の割合が多いことが判明。調査報告では、「管理職は文系」という日本特有の昇進構造が改善され、技術職の人間にマネジメントや企画の能力を付けさせる企業が増えている状況を“変化の兆し”として挙げています。

なお、同調査では、文系出身でエンジニアやコンサルタントとして活躍している人も多い点も指摘。理系・文系の垣根が崩れつつある現状を示唆しています。

理系と文系に年収格差が生じる理由

理系と文系の年収格差について、前項で紹介した調査では結果が分かれています。しかし、最近の調査を見る限り、理系のほうが年収は高い傾向にあるようです。

なぜ、理系と文系に年収格差が生じるのでしょうか。

大手企業の多くがメーカー

企業は技術開発のための人材を求めている

日本では、大手企業の多くが産業を担うメーカーです。

2022年9月20日現在の株価の時価総額を見ると、第1位のトヨタに続き、第2位がNTT、第3位がソニーグループ、第4位がキーエンス、第5位がKDDIと、上位5位に三つのメーカー系企業、二つの通信系企業がランクイン。6位以下にも、ソフトバンクグループや第一三共、任天堂、ダイキンなど、日本を代表するメーカーや製薬会社、通信会社が続いています。

こうした企業が力を入れているのが開発力です。同業他社と差をつけ、生き残っていくためには技術開発が欠かせません。そのため、専門知識を持ち、技術職に就くことの多い理系出身者は優遇されやすいのです。

さらに、開発力を重視する企業は、採用を削減する際にも技術職の人材確保を優先し、営業職など他部門の枠を縮小する傾向にあります。このことから、理系出身者は職種によっては就職に有利な場面も多いといえるでしょう。

理系は専門職採用が多い
理系出身者は専門職での採用が多い点も、年収が高い理由として挙げられます。

医療やIT、食品や電化製品の開発など、生活と密に関わる分野の多くで、専門職は必要不可欠な存在です。さらに、専門職はその分野の知識・技術を持つ限られた人のみが就けるため、平均よりも高い報酬や給与を提示されることも少なくありません。

特に、ITエンジニアなど人手が不足している業界では、人材確保の競争が行われることも。需要が供給を上回れば、付加される価値は高くなります。

さらに、理系の学生は大学院に進学することも多いため、専門知識を持つ人材を求めて、企業が研究室までスカウトに訪れるケースもあります。

近年では、理系の研究室や学生を企業がダイレクトに検索し、アプローチできるマッチングサービスも登場。理系専門職に対する需要の高さがうかがえます。

まとめ

一時は「理系離れ」が真剣に議論されたものの、最近の調査を見るかぎり、近年では文系よりも理系の年収が高い傾向にあります。理系出身者が就くことの多い専門職の需要が増えていることが主な理由です。

また、一部では理系・文系二つの思考を組み合わせつつ実務にあたる柔軟なスキルが求められているという指摘もあります。これからの社会でどのような人材が重宝されるのか、分野を超えて見極める視点も必要かもしれません。

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