世界的なインフレで欧米では金利を引き上げ、なぜ日本だけが利上げしないのか?

世界的なインフレを背景に、欧米の中央銀行が金利を引き上げています。しかし、先進各国の中で日本だけは利上げをせずに金融緩和を維持しています。その結果、円安が進行し、輸入価格が上昇することで国内の値上げラッシュが加速しているということで、日本銀行の姿勢を非難するようなニュースも増えてきました。なぜ日本銀行は金融緩和を維持して金利を引き上げないのでしょうか。また、仮に日本銀行が利上げをした場合、日本経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。

世界各国が利上げをしている理由

世界中が高インフレに苦しんでいます。米国では2022年6月の消費者物価指数の伸び率が前年同月比+9.1%と1981年11月以来、40年超ぶりの大幅な伸びとなりました。ドイツでも9月の消費者物価指数(速報値)は欧州連合(EU)基準(HICP)で前年同月比+10.9%となり、1996年の調査開始以降で最大の伸び率となっています。データを見てみると、いかに現在のインフレが歴史的水準であるかが分かるかと思います。

日本は欧米に比べれば物価の上昇率は低く抑えられていますが、8月の消費者物価指数の伸び率は前年同月比+3.0%となり、1991年11月以来、30年9か月ぶりの水準を日本でも記録しています。

物価が上昇するということは、それ以上に賃金も上昇していかないと、私たちは買い物に行ったときに節約をするようになります。そうなると企業は売り上げが下がりますから、利益を出すために人件費を下げるなどのコストカットをしたり、計画していた投資をとりやめたりするでしょう。こうなると、景気はどんどんと悪循環にはまり、縮小均衡していきます。

そこで、各国の中央銀行は金利を引き上げることで、物価上昇を抑制しようとしているのです。

国ができる経済政策とは

景気が悪くなった場合、国は主に2つの経済政策によって対応をします。1つ目は政府が公共投資をしたり、減税をしたりする財政政策です。2つ目は中央銀行が金利を下げるという金融政策です。景気が良くなり、景気が過熱しすぎた場合は、財政政策と金融政策はそれぞれ前述の対応と逆の政策をすることになります。

一般的に景気が良くなり、さらに過熱していくと、旺盛な需要に供給が追い付かなくなるため、物価は上昇します。そこで、金利を引き上げることで、投資や消費の熱を冷ませて過熱した景気を抑えにいくのです。なぜ金利を引き上げると投資や消費の熱を冷ますことが出来るのかというと、企業からすれば融資を受けて設備投資をする際に、金利が引き上げられれば返済する際の利払い額が増えます。また、家計から見ても住宅ローンや自動車ローンの金利も上がりますから、借金をして何かを買おうとする人は減るでしょう。

そこで、欧米各国は現在進行形のインフレを抑制するために、異例のペースで金利を引き上げていますが、いまのところ効果は限定的です。なぜなら、今回のインフレは旺盛な需要だけが原因ではないからです。コロナ禍からの経済回復局面で、人手や半導体、コンテナなどあらゆるものが不足する供給制約や、ロシアによるウクライナ侵攻を背景としたエネルギーや食料品価格の高騰などもインフレの原因と考えられますが、これらは金利を引き上げたところで解消されないものです。そのため、なかなか利上げをしただけではインフレが抑制できないのです。

日銀の金融緩和への批判が高まる背景

欧米が利上げを進めていくなかで、日銀は金融緩和を維持していますから、どんどん金利差が拡大していきます。金利差が拡大すると、金利が低い日本円を売って、金利が高い通貨を買う動きが大きくなります。たとえば、円はドルに対して今年は10ヶ月で25%以上減価しています。つまり、円安(ドル高)が急速に進行しているということです。

円安には日本経済にとってメリットとデメリットの両方があるのですが、デメリットの1つに輸入価格の上昇が挙げられます。日本はエネルギーや食料の多くを海外からの輸入に依存していますが、前述の通り、ただでさえエネルギーや食料の価格が上昇しているにもかかわらず、円安が進行すればさらにその輸入価格は上昇します。

そこで、国内の物価上昇圧力を抑えるためには、円安を止めなければいけないという話になります。では、どのようにして円安を止めるのかというと、諸外国との金利差を縮小させるという手段があるため、「日銀はいつまでも金融緩和などせずに、欧米諸国と同様に利上げをしなさい」という批判的な意見が続出するのです。

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なぜ日銀は利上げをしないのか?

それでは、日銀はなぜ頑なに金融緩和を維持しているのでしょうか。この点については日銀のホームページに掲載されている過去の黒田総裁の会見要旨を読むと深く理解できると思います。今回は9月の会見要旨から以下の文を抜粋します。

来年度以降はまた2%を割る水準まで落ちていくとみています。それはなぜかといえば、需給ギャップがなくなって更にプラスに転化し、賃金が上がっていくという中で物価が上がっていくというかたちになれば、持続的・安定的に2%を達成できるということになると思います。けれども、現時点では基本的に輸入物価の上昇が消費者物価の上昇に反映され、そしてその影響は来年度以降減衰していって2%を割るということで、いわゆる好循環、賃金が上がり物価も安定的に上がっていくというかたちには今はなっていません。
(出所):日本銀行「総裁定例記者会見要旨(2022年9月22日)」

全体の流れの中から一部分だけを抜粋しているため分かりにくいかもしれないので、簡単に要約しましょう。

現在の日本の物価上昇はエネルギーや食料の価格が上昇するという外部要因によるものであって、決して賃金が上昇して需要が物価を押し上げているような状況にはなく、外部要因が落ち着けば来年以降は再び目標である2%に届かない物価上昇率になると予想しており、日本経済にとって逆風となるような利上げをする理由が見当たらないということです。

ここ半年ぐらい、メディアでは円安のデメリットだけに焦点を当てた「円安悪玉論」が喧伝され、そこから派生して日銀批判が展開される報道が増えているように感じます。報道内容を鵜呑みにするのではなく、現在のインフレや金融政策についてはしっかりとデータを見ながら自分の頭で考えるようにしましょう。

(最終更新日:2024.04.19)
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