不動産広告の「駅からの徒歩分数」はどう決まる? 2022年9月のルール改正で注意すべき点

住まいを探すときに必ずチェックするのが、住まい(物件)から最寄駅までの所要時間でしょう。通勤や通学、お出かけなどで何度も利用する交通アクセスは、住まい探しの上でも、重要度の高いものです。
この不動産広告における所要時間のルールが、2022年9月1日から変更されました。具体的にどう変わったのでしょうか? そもそも所要時間とは、どのようなルールで表示されているのでしょうか?

徒歩1分は道路距離80メートル、ではどこからどこまでの距離?

不動産広告で、該当のマンションが「A駅まで徒歩5分」と記載されていた場合、どんなルールで表示されているのでしょうか?

まず、「徒歩1分=道路距離80メートル」で算出します。これはクイズなどで出題されることもあって、比較的よく知られているルールでしょう。1分未満の端数が生じたときは、1分として算出します。つまり、「徒歩5分=道路距離321~400メートル」 となります。

ちなみに、80メートルを1分で歩くには、意外と早い速度で歩くことになります。ヒールの高い靴を履いている場合などでは、徒歩5分では到着しないこともあるでしょう。また、信号などの待ち時間や坂道などは考慮されませんので、同じ道路距離であっても実際に歩いてみると所要時間が異なる場合もあります。

では、どこからどこまでの道路距離を測るのでしょうか? 「A駅」の着点は駅舎の出入り口からとなります。気をつけたいのは、改札口ではないことです。地下鉄などでは、改札口から地上の出入り口までかなり距離がある場合があります。改札口からの距離ではない点に注意しましょう。

次に、「マンション」の起点は、建物の出入口となります。実は、9月に改正される前は、物件からとなっていました。マンションのように、庭や駐車場などがあって敷地が大きい場合、起点から最も近い敷地の地点から測っても問題はありませんでした。たとえば下の図では、A駅から最も近い緑色の敷地部分から測るのと、マンションのサブエントランスから測るのでは、道路距離も変わってきます。

9月以降の改正点の大きなポイントでもありますので、起点がどこかを覚えておきましょう。

「マンション」の起点
出典:不動産公正取引協議会連合会「表示規約・同施行規則の主な改正点を解説したリーフレット」より転載

では、バス便の場合はどのように表示するのでしょう?

該当物件から「B停留所まで3分、B停留所からバスでA駅まで5分」などのように表示します。待ち時間は含みませんが、おおよそ何分で最寄り駅のA駅まで行けるかが、分かるようなルールになっています。

交通機関の所要時間はいつどのように測る?

不動産広告には、「B停留所からA駅まで5分」などのほか、「最寄り駅のA駅から東京駅まで○分」など、公共交通機関の所要時間なども表示されます。

この所要時間についても、9月からルールが変わりました。9月からは、表示するのは「朝の通勤ラッシュ時の所要時間」と定められました。乗り換えがある場合は、乗り換えに要する時間も所要時間に含めます。いまは、多くの人がインターネットの乗換案内サイトを利用していますが、不動産広告の所要時間を測る際にも乗換案内サイトを利用してもよいことになりました。

ただし所要時間を測る際に、特急や急行などを利用した場合、特定の時期にだけ運行する電車の場合などは、そのことを明示する必要があります。

このように不動産広告では、多くの人が通常利用するであろう時間帯などの所要時間を表示するようなルールになっていますが、電車やホームの混雑状況などでも所要時間は変わってきます。実際に自分が利用する時間帯の場合は、どんな状況かを自身でも確かめるのが良いでしょう。

改正ポイント
出典:不動産公正取引協議会連合会「不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則 改正案 新旧対照表

大型物件ならではの表示方法にルールを変更

近年は200戸、300戸といった大型のマンションが増えています。タワーマンションに加えて、広い敷地内に複数の棟が建つ形式の大型マンションもあります。筆者自身が経験したことですが、取材先のお宅を訪ねるときに、不動産広告の所要時間を参考にして行ったら、敷地内の奥側の住棟のお宅だったので、想定していた時間では行きつけなかったということがありました。

今回は、こうした大型物件ならではのルール変更もあります。同一敷地内に建てられているマンションの一群を「団地」と呼びますが、団地型の新築マンションの場合や新たに開発する新築分譲戸建ての住宅街の場合などは、大きな敷地の中にたくさんの住戸があり、ある程度の戸数をまとめて分譲します。

そこで、「販売戸数(区画数)が2以上の分譲物件」の場合は、駅やその他の施設との間の道路距離や所要時間を表示するときには、「最も近い住戸(マンションでは最も近いマンションの出入り口)」までに加えて、「最も遠い住戸(マンションでは最も遠いマンションの出入り口)」までの所要時間なども併記することになりました。

大型物件ならではのルール変更
出典:不動産公正取引協議会連合会「表示規約・同施行規則の主な改正点を解説したリーフレット」より転載

表示される所要時間は、あくまで販売対象の住戸についてです。上の事例でいうと、A~Hまでの販売が終わり、次期分譲分が販売されるときには、表示される所要時間も変わります。

ちなみに、自動車や自転車の場合はどうなるのでしょうか?
自動車や自転車の所要時間は、道路距離を明示して、通常走行するのに要する時間を表示することになっています。なお、自動車の場合で、有料道路などを走行する時間を表示するときにはそれを明示する必要があります。

不動産広告のルールは消費者に不利益とならないように改正される

さて、説明してきた不動産広告のルールについて、正式には「不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)」及び「表示規約施行規則」といいます。これは国の法律などではなく、全国9地区の不動産公正取引協議会からなる「不動産公正取引協議会連合会」による自主規制のルールで、それぞれに所属する不動産会社が守るべきルールになっています。

この表示規約等を改正する際には、事前に公正取引委員会と消費者庁から認定を受ける必要があります。そのため、消費者に不利益となるような改正はされないのが原則です。所要時間に関する今回のルール変更も、消費者にメリットがある方向で改正されています。

2022年9月以降の不動産広告は、改正された表示規約に従う必要があります。たとえば、自分がマンションを買ったときには駅から徒歩2分と表示されていたのに、今後、自宅を売却する際にはマンションの出入り口が起点になったことで、駅から3分とか4分とかに表示が変わるという可能性もあります。ルールが変わったことを理解しておくと、その理由がわかるでしょう。

執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)

【住宅ローンの相談が無料】

住宅ローン専門金融機関のARUHIは
全国に店舗を展開中

(最終更新日:2024.04.19)
~こんな記事も読まれています~