リタイアし、年金生活を送っている親を自分の扶養家族にすることで、所得税や住民税を安くする、つまり節税を行うことはできるのでしょうか。実際に親を自分の扶養に入れるための条件を確認するとともに、親を扶養親族にすることでどの程度の節税効果が期待できるのかについて解説します。
扶養控除とは?
扶養控除とは、納税者に「所得税法上の控除対象となる扶養親族」がいる場合、一定金額の所得控除が受けられる制度のことをいいます。扶養控除の額は、対象となる扶養親族の年齢や同居しているかどうかによって異なります。控除額は、以下の表のとおりです。
扶養控除を受けられる扶養親族の条件とは?
扶養親族とは、その年の12月31日現在において、以下の五つの要件をすべて満たす人をいいます。
1. 配偶者以外の親族である
2. 納税者と生計を一にしている
3. その年の12月31日現在の年齢が16歳以上
4. 年間の合計所得金額が48万円以下
5. 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払いを受けていない、または白色申告者の事業専従者でない
そして、扶養親族は以下の三つの区分に分けられます。
1. 一般の控除対象扶養親族:扶養親族のうち、その年の12月31日現在の年齢が16歳以上の者
2. 特定扶養親族:控除対象扶養親族のうち、その年の12月31日現在の年齢が19歳以上23歳未満の者
3. 老人扶養親族:控除対象扶養親族のうち、その年の12月31日現在の年齢が70歳以上の者
扶養親族は区分によって控除額が異なるほか、老人扶養親族の場合は同居の有無によっても控除額が異なる点に注意しておきましょう。
配偶者以外の親族であること
配偶者以外の親族とは、6親等内の血族および3親等内の姻族のことです。具体的には、本人の父母や祖父母、曾祖父母、子ども、孫、ひ孫、兄弟姉妹、叔父叔母、甥姪、従兄弟姉妹などが6親等内の血族に当たります。3親等内の姻族とは、配偶者の父母、祖父母、曾祖父母、兄弟姉妹、叔父叔母、甥姪のことです。
したがって、親は「配偶者以外の親族」という扶養親族の要件を満たします。
生計を一にしていること
生計を一にするためには、必ずしも同居が要件になるわけではありません。たとえば、会社への勤務や修学、病気による療養などの理由で別居している場合でも、まとまった休みが取れたときには家に帰ってきて生活を共にすることが定例化している場合や、生活費や学費、療養費などの仕送りが常に行われている場合には、「生計を一にする」ものとして取り扱います。
したがって、別居している両親であっても、常に生活費の仕送りをしているといった事実があれば、生計を一にしていると判断される可能性があります。
また、親族が同じ家に住んでいる場合であれば、明らかにお互いに独立した生活を送っていると認められる場合を除き、「生計を一にする」として取り扱われます。
合計所得金額が48万円以下であること
ここでいう合計所得金額とは、給与所得者であれば、給与収入から給与所得控除額を差し引いた給与所得金額をいいます。事業を行っている人なら、事業による収入からその事業にかかる経費を差し引いた額が事業所得金額です。
年金収入のみの場合、所得は「公的年金等に係る雑所得」に分類され、公的年金等の収入金額に応じた控除が適用されます。控除額は、年金を受け取る人の年齢や、年金以外の所得金額によって異なります。年金以外の所得が1,000万円以上ある場合は、控除額が変わりますが、ここでは、公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1,000万円以下であると仮定し、計算します。
65歳未満の場合、公的年金等の収入金額合計額が60万円までは所得金額は0円となります。そして、公的年金等の収入金額合計額が60万1円から129万9,999円までであれば、60万円の控除が受けられることになっています。合計所得金額は、公的年金等の収入金額から控除額を引いた額になり、それが48万円以下なら扶養控除の対象です。このことから、65歳未満の親の場合は年金収入が108万円(48万円+60万円)以下なら、扶養親族の要件を満たすことになります。
そして、65歳以上の親の場合は、年金収入が110万円までであれば所得金額は0円になります。年金収入が110万1円から329万9,999円だと、110万円の控除が受けられます。つまり、65歳以上の場合は、年金収入が158万円(48万円+110万円)以下なら扶養親族の要件を満たします。
事業専従者ではないこと
納税者が事業を営んでおり、納税者の配偶者や親族が経営に従事している場合で、納税者が配偶者や親族に対し給与を支払っているようなケースでは、本来であれば経費とはならない給与額に対して、一定の要件に該当すれば経費として計上できる特例(青色事業専従者給与)があります。
青色事業専従給与として認められるには、「青色事業専従者に支払われた給与であること」が要件です。さらに、「青色事業専従者給与に関する届出書」を事前に納税地の税務署に提出している必要があります。
また、青色事業専従者とは、以下のいずれにも該当する人のことをいいます。
1. 青色申告者と生計を一にする配偶者もしくはそのほかの親族
2. その年の12月31日現在で15歳以上
3. その年を通じて6ヶ月を超える期間、その青色申告者が営む事業に専ら従事していること
ただし、所得税法上で規定されている扶養親族には、「青色事業専従者に該当し、同項に規定する給与の支払いを受けるものを除く」とされており、専従者であっても、その年に給与の支払いを受けていない場合は扶養控除の対象となる扶養親族として認められます。
年金暮らしの親を扶養に入れたらいくらの節税になるのか?
では、年金暮らしの親を扶養に入れた場合、いくらの節税になるのでしょうか。年収900万円(課税所得600万円)の人が、同居する75歳の両親を扶養に入れたケースを想定して計算してみましょう。
課税所得が600万円ということは、適用される所得税率は20%です。控除額がありますので所得税額は600万円×20%-42万7,500円の77万2,500円になります。
老人扶養親族のうち、同居老親等の控除額は58万円ですので、両親2人分の控除額は116万円です。この額を課税所得から差し引くと、600万円-116万円で最終的な課税所得は484万円です。課税所得484万円に対する所得税率および控除額は600万円と同じですので、所得税額は484万円×20%-42万7,500円の54万500円です。このように、所得税だけで23万2,000円の節税になります。
住民税の扶養控除額は所得税とは異なり、同居老親等の場合45万円です。600万円から2人分の控除額を差し引くと510万円で、住民税の所得割は一律10%の税率ですので、差額の10%である9万円の減税となり、所得税と住民税合計で約32万円の節税効果を得られます。
日本の所得税率は所得が多いほど税率が高くなる「累進税率」を採用していることから、高所得者ほど節税効果は高くなります。
まとめ
扶養控除を適用して節税を行うためには、扶養控除の対象となる扶養親族の条件を満たす必要があります。扶養控除の対象となる両親がいて、さらに同居しているならば、扶養控除額も大きくなり、高い節税効果が期待できます。特に所得税率は高所得者ほど高くなりますので、扶養控除を利用した節税対策を考えてみてもいいのではないでしょうか。所得などの条件を満たす親がいる場合は、仕送りをするなどで「生計を一にする」条件を満たせないか検討してみることをおすすめします。