コロナ禍で、部屋数や広さに対するニーズが強まり、「戸建て志向」が高まっていると言われています。では、実際に戸建て住宅(以下、戸建て)の市場はどうなっているのでしょうか?どういった人たちが戸建てを購入したのか、戸建ての価格はどうなっているのかについて、新築戸建ての購入者動向の調査結果や戸建て市場のデータから調べていきましょう。
新築戸建て購入者は新築マンション購入者よりも若い!?
リクルートは毎年、首都圏で新築戸建てを購入した人に調査をしています。この調査結果から、新築戸建ての平均的な購入者像を見ていきましょう。
2021年首都圏 新築分譲一戸建て契約者動向調査(2022年4月リリース)
調査対象:2021年1月~12月に首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県の一部)で新築分譲一戸建ての購入契約をした人(集計数2,502件)
■平均像
・世帯主の年齢 :36.7歳(30代比率54%)
・世帯総年収 :779万円(既婚世帯の共働き比率:68.6%)
・購入価格 :4,331万円
・ローン借入額 :4,075万円 2021年で急に上昇
・自己資金 :573万円
・土地面積・建物面積 :120.5平方メートル・99.0平方メートル
(物件の東京23区比率 :15%)
首都圏という条件がつきますが、主に30代の既婚世帯が、土地面積120平方メートル・建物面積100平方メートル程度の3,000万円台の新築分譲戸建てを購入していることになります。2021年の平均価格は4,331万円ですが、購入価格は3,000万円台が34%(約1/3)を占めていて、6,000万円以上が前年の2倍の11.4%に上昇したことが平均を押し上げる要因になっています。
この平均像をリクルートが調査した新築分譲マンションの平均購入者像と比較してみましょう。
2021年首都圏新築マンション契約者動向調査(2022年3月リリース)
調査対象:2021年1月~12月に首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)で新築分譲マンションの購入契約をした人(集計数7,289件)
■平均像
・世帯主の年齢 :38.8歳(30代比率:50%)
・世帯総年収 :1,019万円(既婚世帯の共働き比率:74.3%)
・購入価格 :5,709万円
・ローン借入額 :4,941万円
・自己資金比率 :19.1%
・専有面積 :66.0平方メートル
(物件の東京23区比率 :39%)
首都圏で新築マンションを購入した人の平均像も、新築戸建ての場合と同様に、主に30代の既婚世帯となっています。ただし、戸建てでは50歳以上の比率が7.3%しかないのに、マンションでは50代が8.4%、60歳以上が6.0%と多い点が特徴です。そのため、新築戸建ての平均年齢のほうが低くなっています。
また、戸建てでは、「子どものいる世帯」の比率が63.9%であるのに対して、マンションでは36.2%とかなり開きがあるといった違いも目立ちます。加えて、マンションではシングル世帯が18%(男性7%・女性11%)であるのに対し、戸建てのシングル世帯は3%しかいません。つまり、戸建ての購入者は、マンションと比べると、子どものいる若い世帯が主力になっているのです。
さらに、住宅価格などの費用面を見ていきましょう。新築マンションのほうが東京23区の比率が高いなどの土地のポテンシャルの違いもあり、購入価格やローン借入額などで、新築戸建て購入者よりもかなり高くなっています。これは、世帯年収が1,000万円を超える既婚共働き世帯が、新築マンション購入者全体の27%を占めており、住宅ローンの借入額を増やしていることも、大きく影響しています。
新築戸建て購入者は住宅の広さや周辺の住環境などを重視
次に、新築戸建て購入者が物件を検討するうえで、どんな点を重視したのかを見ていきましょう。調査結果を見ると、最も重視したのは「価格」です。ない袖は振れませんから、これは当然と言えるでしょう。以降は「最寄り駅からの時間」(59%)、「日当たり」(56%)が続きます。
こうした項目はマンション購入者の同様に重視していますから、戸建てらしい重視項目を挙げると、「土地の広さ」(55.2%)「住居の広さ」(55.0%)「住居の部屋数」(52.8%)などの広さに関する項目です。また、「周辺環境」(40.7%)「生活環境」(34.7%)「教育環境」(30.9%)などの住環境も上位に挙がっています。
このように見ていくと、新築戸建ては、主に子育て中の世帯が子育て環境を考慮して、広さや周辺の住環境などを強く重視して物件を購入していることがわかります。子どもが騒いで隣近所に迷惑をかけることを気にする子育て家庭も多いのですが、隣近所と一定の距離のある戸建てなら、気にせずに済むという利点もあるのでしょう。
戸建ての市場動向は、コロナ禍で大きく変動
さて、近年、新築マンションの平均価格が上昇を続けています。新築マンションの価格高騰の影響で、中古マンションの需要が高まり、中古マンションの価格も上昇しています。新築マンションの購入者像を過去の結果もさかのぼって見ると、購入価格は年々上がる一方、専有面積は年々小さくなる傾向が見られます。これは新築マンションの価格上昇が、購入するマンションの価格だけでなく広さにも影響しているということです。
では、戸建ての価格や販売状況はどうなっているのでしょうか? 次からは、戸建て市場の動向を見ていきましょう。
もともと新築も中古も、戸建ての市場は安定しているのが特徴でした。主に子育て中の家庭がマイホームとして買うものですし、マンションのように投資目的で購入する事例もあまり見られないからです。市場規模も価格もおおむね横ばいというのが、戸建ての市場の傾向でした。
ところが、新型コロナウイルス感染対策やウッドショックなど建築資材の高騰などの影響もあって、ここ数年は動きが激しくなっています。東京カンテイが発行する市場レポート「カンテイアイvol.110」の特集「マンション・一戸建て住宅データ白書2021」から戸建ての首都圏のデータを見ていきましょう。
首都圏の新築戸建ての供給戸数は、2019年以降5万戸規模が続いています。平均価格は4,000万円前後で推移していたものが、コロナ禍の2020年で下がり、2021年には反転して4,100万円台に上昇しています。この点について東京カンテイは、「2021年の一戸平均価格は前年より2.8%上昇したが、新築マンションの一戸平均価格が前年より11.8%上昇したことと比較すると、変動は小さいことがわかる」と指摘しています。
次に、首都圏の中古戸建て市場ですが、2019年以降は3万戸規模に増加しています。平均価格は3,400万円前後だったものが、やはりコロナ禍の2020年で下がり、2021年に反転して上昇しています。この変動は新築と比べるとより大きくなっています。東京カンテイによると、「2021年の中古一戸建ての一戸平均価格は前年より9.1%上昇したが、中古マンションの前年比+6.5%より上昇幅が大きい」ということです。
新築の供給戸数も中古の流通戸数も、この3年間は横ばいに推移していますし、戸建ての場合、土地面積や建物面積は過去と比べてもあまり変わっていませんから、平均価格だけがここ数年大きく変動していると言えるでしょう。
さて、建築資材不足や急速に進んだ円安の影響などから、木材だけでなく住宅設備機器も価格上昇が予想されます。マンションと比べて建設期間の短い戸建てのほうが、その影響が早く出ますので、今後の新築戸建ての価格については、さらに上がるかもしれないといった不透明な状況です。住宅価格については、今後も注視する必要がありそうです。
執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)