春ごろになると気になるのが定期昇給やベースアップに関する話題です。しかし、定期昇給とベースアップの違いについてよくわからないという人も多いでしょう。そこで、この記事では定期昇給とベースアップの違いや気になる疑問について解説します。
ベースアップとは
ベースアップとは、一般的に基本給が上がることを指し、略してベアと呼ぶこともあります。この基本給の底上げは企業の業績に応じて決まることが多く、全社員の給料を一律に上げるものです。そのため、昇給額が同じであれば役職や立場による違いはありません。個人の業績によるものでもないので、成果報酬とも異なります。
ベースアップはパーセンテージで示されることも多く、たとえば「3%のベースアップ」であれば、全社員の給料が基本給から3%アップするということになります。加えて残業代も基本給がベースになるため、残業代のアップも見込めます。
ベースアップと定期昇給の違いとは
ベースアップと同じように給与がアップするものとして、定期昇給があります。定期昇給とは、企業の制度によって定期的に行われる昇給です。年齢や勤続年数に応じ、長く勤めれば勤めるほど基本給が上がります。
ベースアップも定期昇給も、どちらも基本給が上がるため混同されることが多いですが、両者には大きな違いがあります。
ベースアップは賃金表の改定であり、社員全員の基本給が一律に上がります。しかし、会社の業績によるもので確実に基本給が上がるものではありません。それに対して、定期昇給はあらかじめ約束されている昇給であり、会社の業績に左右されることなく、決められた時期に昇給します。
ベースアップや定期昇給の実施状況
ベースアップや定期昇給を実際に実施している企業はどのぐらいあるのか、厚生労働省による「令和3年賃金引き上げ等の実態に関する調査の概況」をもとに、令和3年中の実施状況を表にまとめました。
参考:厚生労働省「令和3年賃金引き上げ等の実態に関する調査の概況」
定期昇給制度は一般職の場合79%以上、管理職の場合63%以上の企業で導入されており、そのほとんどが実施されていることがわかります。
一方、ベースアップを実際に行なっている企業は、一般職で16%以上、管理職では11%以上と少ない水準です。このことから、定期昇給制度を取り入れている企業は多いものの、ベースアップを実施している企業は限られているといえるでしょう。
ベースアップと定期昇給に関するよくある疑問
実施状況をみると、ベースアップを行っている企業は多くありません。そのため、「自分の会社はベースアップしないのか?」「すべての会社で定期昇給があるのか?」など気になる点も多いでしょう。そこで、ベースアップと定期昇給に関するよくある疑問を調査してきました。
ベースアップと定期昇給は両方行われる?
先ほど説明したように、ベースアップと定期昇給は全く別のものです。そのため、もともと定期昇給がある企業がさらにベースアップを受け入れることもあります。会社の業績が好調でその状態が長く続いていく見込みがあれば、ベースアップによる基本給増額の可能性もでてきます。
ただし、ベースアップを受け入れる代わりに定期昇給をなくすということもあります。実際に、定期昇給をなくし、個人の評価で昇給を判断する職務給へ移行する企業も増えてきています。
職務給は定期昇給と違って職務ごとに賃金が決まっているので客観性が高く、労働者はよりよい条件の職務を目指すことができます。したがって、ベースアップと定期昇給の両方が行われる場合もあり、どちらか一方の場合もあり、企業によって異なります。
定期昇給がない企業は違法?
結論からいうと、定期昇給がなくても違法にはなりません。定期昇給は企業が必ずしも実施しなければならない制度ではなく、定期昇給がない企業も少なからずあります。
ただし、就業規則等に「定期昇給あり」と明記されているにもかかわらず定期昇給が行われていなければ、違法になる可能性はあります。定期昇給の導入や廃止には就業規則の変更が必要です。
ベースアップし続けたらどうなる?
年々ベースアップをし続けていたら、「初任給から大金が支給されるようになるのでは?」と思う人もいるかもしれません。しかし、基本給のベースアップは数千円程度で大幅には上がらないことが一般的です。そのため、ベースアップによる給与の差はあまりありません。
ただし、一度企業がベースアップに応じると、逆に下げることは難しいため、企業もベースアップには慎重な構えになる傾向にあります。
ベースアップや定期昇給があるのに手取りが減るのはなぜ?
ベースアップや定期昇給があったのに、手取りが減ったという経験がある人もいるでしょう。その理由として、支払う社会保険料の額も上がった可能性があります。総支給額は給与や手当、残業代、交通費の総額で、そこから税金や保険料を控除した金額が手取りです。そのため、税金や保険料が増えれば、給与が上がったとしても手取りは低くなってしまうのです。
なぜ保険料が高くなってしまうかというと、社会保険料は4〜6月の給与から算出され、その後1年間の支払い額が決まってしまうためです。もし、ベースアップや定期昇給などで4〜6月の給与が多くなった場合、その後1年間は社会保険料も高くなってしまい、結果として手取りが減ってしまうことがあります。
ベースアップの計算方法は?
ベースアップは基本的に金額昇給ではなく昇給率で決まります。昇給額の計算方法は「昇給前の給与×昇給率」です。仮に基本給が20万円であった場合、3%のベースアップが実施されれば20万6,000円の基本給になります。この基本給をベースに残業代も決まるため、手取りの額も増える可能性があります。
まとめ
ベースアップと定期昇給の違いは、社員全員の給与水準が一律でアップするか、給与水準が一律で定期的に昇給があるかどうかです。ベースアップは会社の業績に左右され、確約されたものではありません。対して、定期昇給はあらかじめ規約として決められていれば規約通りに昇給します。
ベースアップや定期昇給は必ずあるわけではなく、なくても違法にはなりません。まったくベースアップや定期昇給がない場合、一度就業規則を確認してみるとよいでしょう。