会社員や公務員は給与からの天引きで住民税を納めています。では、退職後はどのようにして納めればよいのでしょうか。転職・独立・リタイヤなど退職後のプランはさまざまで、住民税の納め方も人によって異なります。この記事では、退職後の住民税の納め方と注意点について解説します。退職してから慌てることのないよう、ぜひ参考にしてください。
住民税の仕組み
住民税は給与から天引きされているため、支払額や支払方法を意識したことがないという人も多いでしょう。まずは住民税の仕組みから解説します。
住民税の納付先
住民税は、教育・福祉・消防・救急、ゴミ処理など生活に必要な行政サービスの財源となる地方税です。毎年1月1日時点で住所がある自治体から課税され、都道府県民税・市町村民税(東京23区では特別区民税)をあわせて支払います。
なお、実際に住んでいなくても事務所や家屋がある人は、自治体に対して次に解説する均等割の納付が義務付けられています。
住民税の支払額の決め方
1年間に支払う住民税の内訳は次のとおりです。
均等割は住民に一律に課税されるもので、収入のある人全員に納税義務があります。ただし、前年の収入が非課税限度額を下回る場合には課税されません。上記の額は標準税率であり、自治体によっては自然保護などに使用する超過課税が上乗せされています。
なお、現在の所得割は、東日本大震災発生後に可決された「復興財源確保法」「地方財確法」により、復興特別税が加算された額となっています。増税額は都道府県民税・市町村民税それぞれ500円ずつ、期間は2014年度から2023年度までの10年間の予定です。
均等割の金額は前年の収入に応じて決められます。ただし、政令指定都市においては、道府県民税2%・市町村民税8%と税率が異なりますが、課税所得の10%を負担することに変わりはありません。
住民税の支払い方
住民税の納付方法は、「普通徴収」「特別徴収」「一括徴収」のいずれかになります。
【普通徴収】
対象者:自営業者、個人事業主など
支払方法:自治体から郵送される納付書を使い、金融機関やコンビニなど決められた場所で支払う
納付回数:年4回(6月、8月、10月、翌年1月など)※時期は自治体によって異なる
【特別徴収】
対象者:給与所得者、年金受給者
支払方法:給与や年金から天引き
納付回数:年12回(毎月1回)
【一括徴収】
対象者:退職者
支払方法:最後に支給される給与・退職金などから年度に支払うべき残りの住民税を一括天引き
退職後の住民税の支払い方
給与所得者の場合、在職中は特別徴収、退職時には一括徴収で住民税を支払うことがわかりました。では、退職後はどうしたらよいのでしょうか。ここからは、退職後の住民税の取り扱いについて詳しく解説します。
新たに就職しない場合
特別徴収(給与天引き)では、1年間の住民税を6月から翌年5月までの12回に分けて支払います。退職後に独立またはリタイヤする場合、退職の時期によって徴収方法が変わり、次のようになります。
転職する場合
退職時に転職先が決まっている場合は、そのまま特別徴収の継続が可能です。手続きの流れは次のとおりで、事業者間でやりとりするため退職者本人が手続きすることはありません。
(1)旧勤務先
「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」の必要事項を記入し、転職先に送付
(2)新勤務先
「転勤(転職)等による特別徴収届出書」欄に記入して自治体へ提出
なお、退職時に転職先が決まっていない、転職先を知られたくないなどの事情により事業者間での手続きが難しいといったケースでは、退職時期によって一括徴収または普通徴収となります。転職先での特別徴収を継続したい場合は、新しい勤務先で普通徴収から特別徴収への切り替えを申し出てください。
転職や退職をしたときの住民税について気をつけること
転職や退職をしたときの住民税について注意すべき点を以下にまとめます。その場になって慌てたり戸惑ったりすることがないよう、ぜひ目を通しておいてください。
収入が減っても住民税は発生する
住民税(所得割)は前年の収入に応じて納税額が決まります。退職して収入がなくなったり転職後に収入が下がったりしても、その年に支払う住民税の額は変わりません。在職中は年12回に分けて徴収されていますが、普通徴収になると年4回になるため、1回あたりの負担も重くなります。
住民税(所得割)の税率は課税所得の10%です。退職前の勤務先から発行される「給与所得の源泉徴収票」に記載の「給与所得控除後の金額」を確認し、その10%ほどを予定しておきましょう。年の途中での退職者には、退職後1か月以内に「給与所得の源泉徴収票」が前の勤務先から郵送されます。
なお、退職した年に年末調整を受けていない場合は、確定申告をすれば納めすぎた所得税の還付を受けられる可能性があります。また、さまざまな所得控除が反映された結果、住民税も再計算されます。年内に再就職しないのであれば、確定申告を行うようにしてください。
転職までの期間が長いと特別徴収を継続できない
転職先が決まっていたとしても、退職から転職先で働き始めるまでの期間が長く空く場合は特別徴収を継続できません。基本的には一度普通徴収に切り替え、転職先で普通徴収から特別徴収への切替手続きを行います。ただし、退職のタイミングによっては特別徴収を継続できることもあるため、新旧の勤務先に相談してみてください。
まとめ
住民税は住所を置く都道府県や区市町村に支払う税金です。給与所得者は給与からの天引き(特別徴収)、自営業者などは自治体から送られる納付書(普通徴収)で支払います。
給与所得者が退職する場合は普通徴収に切り替わりますが、退職後の転職のタイミングによっては特別徴収の継続が可能です。転職や退職をする際には、住民税の支払い方法や税額がどう変わるのか、事前に確認しておきましょう。