新型コロナウイルスの影響でテレワークや自宅で過ごす時間が増えたことを背景に、自宅を2LDKから3LDKへ、3LDKから4LDKへと1部屋増やすための住み替え相談が増えています。同じマンション内から郊外の一戸建てまで、1部屋増やすための住み替えについて考えてみましょう。
1部屋増やすニーズの背景はテレワーク
1部屋増やすための住み替え相談が増えているというのは、ここ1~2年筆者が受けるファイナンシャルプランナー(以下、FP)相談からの実感です。相談者の話を聞いていると、夫婦ともテレワークでワークスペースが必要になった、リビングで仕事をしていると同居する家族に迷惑がかかる、といった理由が多く上がってきます。
新型コロナウイルスの影響を受け始めた2020年4月以降、テレワークの実施率はどう推移しているのでしょう。
パーソル総合研究所の「第六回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」の結果によれば、2022年2月の正社員のテレワーク実施率は全国平均で28.5%となっています。
しかし、同調査の正社員の都道府県別テレワーク実施率では、東京都47.3%、神奈川県41.9%など、大都市圏では高い実施率が続いています。また、情報通信業では63%、学術研究、専門・技術サービス業では43.8%、Webクリエイティブ職で76.9%、IT系技術職で65.5%など、業種、職種により高い実施率となっています。
テレワークの頻度は週に2~3日以上が24.4%、テレワークの継続を希望する人は80%以上という結果となっており、今後も週に2~3日はテレワークが続く人が一定数いることが想像されます。
実際の相談内容は?
テレワークを背景とした住み替えの相談事例で多いのは、同じマンション内で1部屋増やす住み替え、もう1つは都内から郊外の一戸建てへの住み替えです。
それぞれの住み替え理由は以下のようなものです。
同じマンション内で1部屋増やす住み替え
・夫婦ともテレワークが増え、気兼ねなく仕事をし、休憩時間にくつろげる部屋が欲しい
・リビングで仕事をしたくない、個室が欲しい
・現在のマンションの立地が気に入っている
・マンション内や地域での人間関係ができている(気に入っている)
・マンションの管理や大規模修繕計画などについてある程度安心感がある
・ペットを飼える、ピアノなど楽器が弾けるといったライフスタイルに合っている
今の住まいに不満はないが、家族に気兼ねなく仕事や趣味を行うためにあと1部屋ほしいという人には、同じマンション内の住み替えは合理的です。住み替え先を探す手間や新しい環境に慣れる手間もなく、人間関係やマンションの維持管理についても安心感があります。
都内から郊外への住み替え
・テレワークで出勤が週1~2日になった。今後もテレワークが続くので都内に家がなくても問題ない
・テレワークの拠点が郊外の街にできたので、その近くに住み替えたい
・同じ予算で都内より広く、希望の間取りの家が買える
・子どもが小さい、またはこれから子どもを希望しているので、のびのびと子育てができる一戸建てが欲しい
・家族の人数分の個室が欲しい
郊外に住みたい理由はさまざまですが、テレワークで毎日出勤しなくてもよくなった、今後もこうした働き方が定着するようだ、という理由が多いようです。また、1部屋増やしても価格が抑えられることも魅力の1つです。
新型コロナウイルスの影響でテレワークが注目されるようになってから2年余りが経過し、勤務先のオンラインによる遠隔会議やビジネスチャットの対応が一般化し、今後もテレワークが継続するという見込みが立ってきたことが、郊外の一戸建てへの住み替えにつながっているようです。
地方移住の相談
テレワークでも出社日があるためか、遠方への移住や田舎暮らしの相談は大きく増えているとは言えません。地方への移住を考える人は、新型コロナウイルスの影響で首都圏での仕事を辞めざるをえなくなった、転職を機に沖縄や北海道へ移住を希望する、転勤先で気に入った土地に将来家を建てたい、などが主な理由となっています。
住み替え希望者への注意点は?
FP相談は相談者の希望を実現するための資金計画を立てることが目的ですが、注意点を伝えるのも大事な仕事です。ここからは、住み替えを希望する相談者への基本的な注意点について整理しておきます。
1部屋増やす住み替えの場合、通常住まいのグレードアップとなります。そのため、一般的には自宅の売却価格より購入価格のほうが高くなります。立地の良い中古マンションの場合、現在は価格が高止まりしているため、購入時よりも高く売却できる場合が増えています。しかし、その分購入する物件の価格も高くなっています。売却資金で足りない部分は住宅ローンを借りなくてはなりません。
逆に値上がりした自宅マンションを売却して郊外に一戸建てを購入する場合は、1部屋増えても売却価格と同額程度で購入できる物件もあり、新居で借りる住宅ローンを抑えるメリットがあります。
また、中古マンションや中古一戸建てへの住み替えでは、自分のライフスタイルに合わせたリフォームを行いたいという人も増えています。希望をかなえるには大規模なリフォームになることもあります。リフォームを自己資金で行うのか、リフォーム資金を上乗せして住宅ローンを借りるのか、購入後にリフォームローンを借りるのかといったリフォームの資金計画も大切です。
注意点は他にも様々ありますが、相談者の最も大きな心配は、自宅が希望価格で売れるかどうかです。
特に新居の購入を先に決めた場合、売買契約後、通常1~2ヶ月後には資金を振り込み引き渡しとなります。その間に自宅を売却できなければ、新居と現在の自宅の二重ローンになってしまいます。二重ローンが借りられればよいですが、住宅ローンの残高によっては、そもそも年収に対する返済額の負担割合が審査基準をオーバーして、希望のローン額が借りられない場合もあります。ローンが借りられなければ住み替えがむずかしくなります。
新居の引き渡し期限を延ばす交渉も考えられますが、その間に確実に自宅を売却できるかどうかはわかりません。先に新居を購入するのは、住宅ローンを完済している人や自己資金で完済できる人、売却資金を新居の購入資金に充てなくても資金計画が立つ人、二重ローンを借りる余力のある人など、資金に余裕がある人です。
自宅が売れないリスクを回避する方法
自宅が売れない不安をなくすために、新居の売買契約書に「買い替え特約」を入れる方法があります。「買い替え特約」とは一定の期限までに契約上の最低価格で自宅が売れなかった場合、契約を白紙撤回できるという内容です。最低価格は実際の相場より低い価格で設定されるのが通常です。特約を入れるなら最低価格の売却でも新居の購入が可能な資金計画を立てなくてはなりません。
また、一定期日までに売却できない場合、相場より低い価格ではあるものの、不動産会社に買い取りを保証してもらう契約や、自宅の売却までの期間融資を受けられる買い替えローンなど、自宅が売れないリスクを回避する方法は複数あります。
住み替えには余裕を持った資金計画を
自宅が売れないリスクを回避する「買い替え特約」や「買い取り保証」を利用すると、希望価格で売れない可能性があります。また、「買い替えローン」を使うと金利や諸費用など、余分な費用がかかります。自宅を先に売却した場合でも、新居の購入に時間がかかれば仮住まいの期間が延びて、その分家賃などの費用が増えます。
こうしたことから、住み替えでは、初めて家を買う時以上に余裕を持った資金計画が大切です。
さらに、購入後間もない場合、全額ローンまたは諸費用上乗せのローンを借りていると、売却資金でローン完済ができないこともあります。住宅ローンを完済できなければ、手持ちの預貯金から残債を支払わなくてはなりません。
住み替えは新居の購入に目が行きがちです。しかし、自宅の査定額や自己資金、現在の住宅ローンの残高をよく確認してゆとりある資金計画を立てることが、テレワークもプライベートも充実する住み替えを成功させるコツとなります。