子育て世代にとって働きやすさと子育てのしやすさは、居住エリア選びの重要なポイントです。特に年々増加する共働き家庭にとって、「保活」の目安となる待機児童数は気になるところではないでしょうか。関西で最も面積が大きい兵庫県には、都会的な街も自然豊かなエリアもあります。今回は兵庫県の待機児童数をもとに、子育てしやすいエリアを考えていきます。
保育所整備が進み、県内全域で待機児童数が前年から約半減
2021年4月の兵庫県の待機児童数は769人で、前年度の1,528人と比較して約半減しました。兵庫県が豊かな未来に向けて「子ども・子育て支援新制度」を始めた2015年4月以降、最少となっています。保育所整備が進み、保育所等定員数が県全体で3,840人増の11万9,108人となったことが主な要因として挙げられます。
一方で保育所などの利用申込者数は11万6,947人で、前年からは581人増にとどまっていました。利用申込者の増加が鈍化した要因としては、ワークライフバランスの広がりや、コロナ禍における育休延長、在宅育児志向などが考えられます。また幼児教育・保育の無償化による、保育需要の高まりが落ち着いたことも要因として挙げられます。
兵庫県内で待機児童が存在するのは、全41市町のうち20市町と約半数です。県全体の待機児童数は半減しましたが、待機児童は都市部に集中している様子が見られます。
兵庫県内の市町別待機児童数ワースト10を見てみましょう。
待機児童数が多い市町は阪神南、阪神北、東播磨、中播磨エリアに集中しています。兵庫県の地域別人口構成比は神戸市が27.9%と最も高く、阪神南19.1%、東播磨13.2%、阪神北13.1%と続き、待機児童数ワーストランキング上位のエリアと重なります。なお、ワースト10圏外ではありますが、県庁所在地であり最多の人口を擁する神戸市の2021年4月1日時点の待機児童数は11人でした。
兵庫県の人口構成で約4分の3を占める県南エリアは利便性が高く、大阪や神戸などの都市で働きやすいため、子育て世代も多いと考えられます。待機児童の課題が解消しづらいですが、各市町ともに様々な施策や取り組みを行っており、年々減少しています。県内で人口が最も多い神戸市は、2021年度の待機児童数は11人です。3年前の平成30年は332人だったことを考えると、行政が重点的に課題解消に取り組んだことがわかります。
神戸市では保育所の整備による定員拡大はもちろんですが、新しい取り組みにもチャレンジしています。2020年にはJR兵庫駅前にパーク&ライド型を採用した保育園が誕生しました。こちらでは、希望する保護者は園の駐車場に自家用車を置いたまま、JRなどで出勤できます。「通勤途中での送迎がスムーズ」「クルマを使って地域外からも通園できる」と話題になりました。また、先ほどのワーストランキング上位の西宮市、明石市、尼崎市でも待機児童数は前年より約5割の減少に転じており、解消に向けて重点的に取り組んでいる姿勢が見られます。
都市部に多く発生している待機児童に関しては、今後も中長期的な保育定員の拡大が予定されています。また保育人材や保育の質の確保も重要課題とされており、「保育士・保育所支援センター」を活用し、保育士の再就職支援、処遇改善、キャリアアップ研修など、支援対策も進んでいます。子育てサービスの整備に県として注力しているため、待機児童の解消に向けて期待ができるでしょう。
待機児童ゼロの市町は約半数! 伊丹市は大都市圏の穴場エリア
人口が多いエリアでは待機児童数が多いことがわかった兵庫県ですが、待機児童ゼロの市町はどのくらいあるでしょうか。
【令和3年4月1日時点 待機児童数ゼロの市町】
阪神北/伊丹市、猪名川町
東播磨/高砂市、稲美町
北播磨/三木市、小野市、多可町
中播磨/神河町、市川町、福崎町
西播磨/たつの市、宍粟市、上郡町、作用町
但馬/養父市、朝来市、香美町、新温泉町
丹波/丹波市
淡路/南あわじ市、淡路市
出典:兵庫県「令和3年4月1日現在の県内の保育所等の定員・申込者の状況等(速報値)」
待機児童数ゼロの市町は21を数え、全市町41のうち約半数となります。そのうち18の市町で3年以上待機児童ゼロの状態が継続されており、保育先がないという不安は少ないと考えられます。多くが県中部から北部、西部に位置し、自然が豊かで古くから農業や水産業が盛んなエリアです。大都市圏とは異なるのびのびとした子育てが可能でしょう。また、阪神北エリアに位置する伊丹市は人口約20万人の都市です。大都市圏に属していますが、3年以上、待機児童数はゼロです。「保活」の面からは穴場的エリアと考えられます。
子育て世代に人気の神戸市・西宮市、注目株の尼崎市・明石市
兵庫県は神戸市、神戸と大阪を結ぶ阪神間エリアが経済の中心です。海陸交通の要所として、また国内外との交流拠点として発展してきました。そのため人口も古くからこのエリアに集中しており、生活面での利便性は申し分ありません。神戸~大阪間はJRと私鉄2線が走り、大阪にも京都にもアクセスがよく、通勤しやすい環境です。
また神戸空港や新幹線の新神戸駅があり、県外、国外へのアクセスも良好です。また神戸市、西宮市を中心とするこのエリアには、勉強やスポーツなど、子どもの教育に熱心な家庭が多く、関西圏の私学への通学に便利なため、中学受験率が高いことでも知られています。
ここ数年で注目を集めるのは、関西で住みやすい街としてイメージが変化している尼崎市、子育て世代に手厚い支援を提供する明石市ではないでしょうか。尼崎市は古くから庶民的な雰囲気で知られます。近年は、JR大阪駅から約5分で到着する立地が注目され、JR尼崎駅エリアの再開発が進行。駅チカマンションが多く誕生し、子育て世代が増加しました。
「ARUHI presents 本当に住みやすい街大賞2018 in関西」では、尼崎が1位に選ばれています。一方の明石市は「こどもを核としたまちづくり」を掲げており、子育て支援に関して高校3年生までの子どもの医療費、第2子以降の保育料、おむつなどの毎月の定期便など、5つの無料化が実施されています。ほかにも市内全公立幼稚園での給食実施(月額400円から)、全小学校区でのこども食堂の運営など、保護者の経済的な負担の軽減や地域での見守りといった子育て環境の整備に力を入れており、人口増加につながっています。
これまでに紹介したエリアは大都市圏にあって暮らしやすいため人気ですが、そのぶん待機児童数の課題は気になるところです。行政の積極的な取り組みによって年々減少していますし、小規模の認可外保育施設も増加しています。まずは情報を収集して、保育サービスが安心して受けられる街を探しましょう。
価値観に合わせて居住エリアを選べる兵庫県
兵庫県は北は日本海に面し、南は瀬戸内海の淡路島までと広く、大都市から農山村、離島とさまざまなライフスタイルを選択することができます。最近では、のびのびとした環境での子育てを求めて、大都市圏を離れ、丹波や但馬などの自然豊かなエリアへ移住する家族も増えているようです。それに合わせて移住促進に向けた独自の支援を提供する自治体もあり、新しいライフスタイルを確立できる県として注目が高まっています。
また兵庫県内からの移住だけでなく、2020年には東京の大手企業が淡路島へ一部本社機能を移転したことが話題になりました。神戸空港や関西空港へのアクセスがよいため、淡路島にあっても全国区の仕事が可能だと評価されたのです。
現在、兵庫県では県外からの定住を希望する移住者を対象にした「お試し居住制度(入居期間1~2年)」が、一部地域(明石市、加古川市、高砂市、稲美町、播磨町、神戸市西区、明舞団地)で実施されています。神戸市と県西部の中心都市である姫路市に挟まれたエリアで、JR姫路駅~大阪駅は新快速で約1時間です。公共交通機関のアクセスがよく、神戸市や姫路市、大阪などの大都市圏への通勤が可能です。明石市を除いて待機児童数が少なく、保育サービスが受けやすい地域でもあります。「お試し居住制度」を利用して、価値観に合わせた生活を検討することも可能です。
現状では待機児童が解消されていない市町も存在しますが、今後も保育所の拡充だけでなく、保育人材の確保や保育の質の向上など、ニーズに合わせて保育環境が整備されていくことで、子育て世代にますます魅力的な県になることでしょう。