「奨学金破産」を防ぐための救済措置とは? 弁護士が注意喚起する現状と対処法

大学進学に際して多くの方が利用している奨学金。返済は就職後からでよく、返済期間も長いことから安心して借りられるイメージがあります。その一方、近年は奨学金破産について取り上げるメディアも増え、実際のところはどうなのか気になりますよね。そこで今回は、奨学金問題に取り組む「奨学金問題対策全国会議(せたがや市民法律事務所)」の岩重佳治(いわしげよしはる)弁護士に、万が一返済に窮した場合の対処法についてお話を伺いました。

奨学金破産の現状

奨学金破産の現状
貸与型奨学金は、就職先も収入も未確定なうちに背負う“特殊な借金”(画像素材:Adobe Stock)

世界でもトップレベルの高額学費となっている日本の大学。特に私立大の授業料は年々上昇傾向にあり、文部科学省が実施した令和3年度の学費調査によると、卒業までの4年間で約470万円が必要という結果が出ています。

私学初年度納付金
出典:文部科学省「私立大学等の令和3年度入学者に係る学生納付金等調査結果について

「これはあくまで平均で、理系学部や医療系ならさらに高額になります。また、自宅外通学の場合は、住居費用や生活費も必要となり、家計の負担は決して軽いものではありません。一方で、平均所得はさほど上がっておらず、多くの家庭が、進学に際して何らかの奨学金に頼らざるを得ない状況です」と岩重弁護士は指摘します。

どんなに気をつけても破産は起こり得る⁉ 特殊な「借金」

学生の約3人にひとりが利用している『日本学生支援機構』の奨学金制度を例にとると、返済不要の「給付型」と、返済義務のある貸与型「第一種奨学金(無利子)」「第二種奨学金(有利子)」があります。

「2020年に「給付型」の条件が緩和されましたが、適用のハードルは高く、ほとんどの人が「貸与型」を利用しているのが実状です。「貸与型」とは、つまり「借金型」。多くの学生が、卒業と同時に数百万円もの借金を背負うこともあります」(岩重弁護士)

奨学金は特殊な借金

通常、住宅ローンにしても車のローンにしても、収入や資産が分かった上で借入額や月々の返済額を決めます。対して奨学金は、収入はもちろん就職先すらも未定。予測さえ困難な状況で借入をするという、ある意味特殊なものです。

「つまり、気を付けようにも気を付けようがない。奨学金破産のリスクを完全に回避する方法はないということです。したがって大切なのは、万一の場合に備えて救済措置があることを知っておくことです」(岩重弁護士)

知っておきたい救済措置

知っておきたい救済措置
返済に困窮したらすぐに利用できるよう、救済制度もチェック(画像素材:Adobe Stock)

『日本学生支援機構』では、万一返済困難に陥った場合に以下のような救済制度を設けています。

返還期限猶予制度

災害、傷病、経済的困難、生活保護受給中、在学中など、一定の返済困難な理由がある場合に、1年ごとに返還を猶予する制度。
適用期間:最長10年間(経済的困難の場合)
適用条件:年収300万円以下

減額返還制度

一定の要件に合致する場合、1回あたりの割賦金を2分の1または3分の1に減額して返還期間を延長する制度。
適用期間:最長15年間
適用の目安:年収325万円以下

死亡・心身障害による返済免除制度

精神、身体の障害で労働能力を喪失、労働能力に高度の制限を有する場合など、一定の事由がある場合に、返還の全部または一部を免除する制度。

参考:独立行政法人 日本学生支援機構「奨学金事業への理解を深めていただくために

恥ずかしいことではない。自己破産

残念ながら、これらの救済制度は申請までに返済の遅延があると適用が制限されます。

「返還期限の猶予は『一定期間返済を待ってもらえる』だけであり、決して返済そのものが免除されるわけではありません。万が一返済困難に陥ってしまった場合は、自己破産の手続きを取るのも一案です。ネガティブなイメージが先行する自己破産ですが、生活を立て直すために認められた手段です。恥だとか惨めだとか思わず、早めに専門機関に相談することが肝心です」(岩重弁護士)

機関保証にしておくこともポイント

奨学金の借主が自己破産で負債を免れても、連帯保証人や保証人の責任が残ります。

「奨学金を借り入れる際、専門機関が保証する機関保証を利用できる場合は、万が一に備えて機関保証にしておくことをお勧めします」(岩重弁護士)

『日本学生支援機構』のほかにも! 早めのリサーチが大事

好条件な奨学金をチェック
早めの進路決定としっかりとしたリサーチで好条件な奨学金をチェック!(画像素材:Adobe Stock)

今回は『日本学生支援機構』の奨学金を例に取りましたが、大学独自の奨学金や各自治体、民間団体が行っているものなど、ほかにもさまざまなものが存在します。大学進学を決意したら、早めにリサーチを開始するのも大切です。これらのなかには給付型のものもあり、場合によっては『日本学生支援機構』の奨学金よりも好条件なものも存在します。ただし、高校在学中でなければ申し込めない「予約採用」の仕組みになっているものも少なくありません。後悔することがないよう、志望大学や居住する自治体などのホームページを早めにチェックしておきましょう。

まとめ

「近年は、奨学金破産を考慮するあまり、極力借入額を控え、不足分はアルバイトで補おうとする傾向が見受けられます。ですが、それでは学業がおろそかになってしまうし、コロナ禍のような不測の事態でアルバイトが見つからないことも。それよりも、今回紹介したような救済制度の存在を知っておくことこそが最も重要です。知識がなかったばかりに、無理な返済を続け、遅延が発生してしまい救済制度が利用できない例も少なくありません」と岩重弁護士。難なく返済できることが一番ですが、もしもの場合の知識を備えておくことが一番のリスク回避と言えるかもしれませんね。

【取材協力】
弁護士 岩重 佳治(いわしげよしはる)さん
『奨学金問題対策全国会議(せたがや市民法律事務所)』事務局長/1997年弁護士登録(東京弁護士会)
「弁護士と依頼者とは二人三脚」を信条に、ひとり一人の相談に真摯に耳を傾け問題解決を目指す。「日本の奨学金はこれでいいのか!―奨学金という名の貧困ビジネスー」(あけび書房・共著)「なくそう! 子どもの貧困」全国ネットワーク編(かもがわ出版・共著)など著書多数。
せたがや市民法律事務所 

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