今年4月から多くの制度が新しく始まります。マンションの管理状況を認定する国の制度である「マンション管理計画認定制度」もその一つです。
国土交通省によると築40年を超えるマンションのストックは、2020年末時点で103万戸だったものが、2030年末には約2.2倍の232万戸に、2040年末には約3.9倍の405万戸になるなど、老朽化したマンションが急増していくものと見込まれています。
こうした状況の中、マンションを適正に維持管理し、課題のあるマンションには再生を促すための法改正が行われ、その一環として、マンション管理計画認定制度が2022年4月1日からスタートしました。
地方公共団体がマンションの適切な維持管理に関われる仕組み
国のマンション管理計画認定制度の前提にあるのが、地方公共団体が「マンション管理適正化推進計画」を作成することです。計画を作成した地方公共団体は、区域内にあるマンションに対して、適切な管理計画を持つものを認定したり指導や助言、勧告などを行ったりできるようになります。
マンションは本来、区分所有者共有の持ち物ですが、その維持管理に対して地方公共団体が関与できるようにしたわけです。例えば、管理組合が適切に運営されていない、大規模修繕工事に必要な修繕積立金が積み立てられていない、管理規約がないといった、維持管理に問題のあるマンションに対して、地方公共団体は助言・指導、勧告が行えるようになります。
一方で、維持管理が良好なマンションを認定していくことができます。公的なお墨付きとなるので、マンションの維持管理の向上に活用しようということです。
国の認定基準は適切な維持管理のための16項目
では、どういった認定基準が定められているのでしょうか?
国が基本とする認定基準について、次のチェックリストで確認できます。なお、地方公共団体で独自に認定基準を定めることもできますので、最終的な認定基準は地方公共団体によって増える場合もあります。
最もハードルが高いのは、長期修繕計画の内容に基づいて算定された修繕積立金であるかや、その金額が低額でないかだと思います。長期修繕計画と修繕積立金は維持管理に不可欠なものなので、国土交通省では「長期修繕計画標準様式」や「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を作成しています。これらに準じて計画されているかが、認定基準として確認されることになります。
また、最近は個人情報保護が重視されるようになっているので、組合員名簿や居住者名簿もハードルが高いものの一つでしょう。
なお、一度認定を受けた場合でも、5年ごとに更新する必要があります。
管理計画認定手続支援サービスを利用して地方公共団体に認定を申請
認定を申請する基本的な流れは、次のようになります(図も参照)。
(1)管理組合が総会の決議によって認定制度の申請を決め、「管理計画認定手続支援サービス」を提供する「マンション管理センター」に認定申請を依頼
(2)申請の依頼を受けたマンション管理センターは、マンション管理士にマンションの管理状況の評価を依頼し、マンション管理士は評価結果を報告
(3)マンション管理センターは評価結果を管理組合に伝え、基準に適合する場合に事前確認適合証を発行
(4)適合した場合は、管理組合は地方公共団体に認定の申請
(5)地方公共団体が認定をすると、マンション管理センターの認定マンション閲覧サイトにその情報を公開
また、管理組合が直接マンション管理士に事前の評価を依頼し、その結果をマンション管理センターに通知して申請する方法や、マンション管理センターを通さずに、管理組合が直接地方公共団体に申請をする方法もあります。
管理組合が認定を受けて登録をする場合、マンション管理センターの支援サービスを利用する手数料として1万円(税込み)、マンション管理士などに事前確認審査料(審査先により異なる)などが必要となります。
なお、事前確認を行うマンション管理士は、マンション管理センターが実施する事前確認講習を修了したマンション管理士に限られます。
マンション管理会社やマンション管理士の団体の独自の評価制度と同時申請も
申請方法はほかにもあります。
マンション管理会社の業界団体であるマンション管理業協会の「マンション管理適正評価制度」が、同じく2022年4月からスタートします。管理業協会独自の審査基準でマンションの管理状況を評価するもので、国の認定制度と同じ評価項目があり、管理会社に2つの制度の審査を同時に依頼し、管理会社を通じて申請することも可能です。
また、マンション管理士の団体である日本マンション管理士会連合会の「マンション管理適正化サービス」と同時に申請することもできます。こちらは主に、マンションの管理状況を診断したレポートを発行して管理組合の基礎資料として提供することや、提携損害保険会社にレポートを開示することで管理が良好なマンションの損害保険料を引き下げることを目的としたものです。
住宅ローン【フラット35】の金利引き下げなどのインセンティブも
認定を受けるには手間も費用もかかりますが、認定マンションは維持管理が良好だというお墨付きをもらうことになるので、住宅市場において安心して売買されることが期待されます。
また、住宅ローンの金利引き下げが適用されます。住宅金融支援機構と民間金融機関が提携する住宅ローン【フラット35】では、2022年4月以降で広範な制度変更が予定されており、その中に「管理計画認定マンション」が新たに加わることになります。
参考:【フラット35】2022年度4月以降の制度変更事項のお知らせ(住宅金融支援機構)
国の認定制度は既存のマンションが対象ですが、それとは別に、マンション管理センターが新築マンションの管理状況を認定する「予備認定制度」も始まります。4月からは管理計画認定マンションと予備認定マンションは【フラット35】維持保全型として、当初5年間適用される金利が0.25%引き下げられます。金融面で認定制度を後押しする形です。
なお、10月以降は【フラット35】の金利引き下げ方法がポイント制度(ポイントが多いほど、長く大きく引き下げられる)に変わり、管理計画認定マンションと予備認定マンションはそれぞれ1ポイントに換算されます。
認定制度が軌道に乗るには時間もかかる
さて、認定制度がスタートしたとはいえ、認定の申請が加速するにはまだまだ時間がかかります。国土交通省が実施した、2022年2月16日時点の地方公共団体へのアンケート結果を筆者が確認したところ、2022年4月までに「マンション管理適正化推進計画」を作成する予定と回答した地方公共団体は、東京都や神奈川県、愛知県、板橋区、京都市、大阪市などの31団体だけでした。
マンションが少ない地方公共団体では「マンション管理適正化推進計画」を作成しないこともあるので、まずは地方公共団体の動き次第ということになります。
また、管理組合側も認定制度を理解し、申請するかどうかを決めるのには時間もかかるでしょう。管理組合の総会の開催は一般的に1年に1回なので、申請について決議するタイミングも多くはありませんし、合意形成には時間もかかるでしょう。管理計画認定制度がスタートしたとはいえ、軌道に乗るまでには数年かかると見込まれます。
執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)