新型コロナウイルス感染症(以下:コロナ禍)拡大以前、世界では物を持たない「ミニマムな暮らし」が注目されていました。しかし、コロナ禍においては災害に備える暮らしが重要だと考えられるようになっています。
日本は従来、諸外国と比較して地震や豪雨といった自然災害が多発していることから、コロナという新たな災害が加わったことで、今まで以上に家庭内備蓄が必要になってきています。そのため、コロナ禍を機に、食料や生活用品の備蓄を見直している人もいるのではないでしょうか。
この記事では、コロナ禍における備蓄の考え方をわかりやすく解説します。家族構成別の備蓄や災害時・感染時の備蓄の情報をもとに、「何から用意すればいいかわからない」と悩んでいる人は参考にしてください。
万一の災害時に必要な備蓄品と備蓄量
万一の災害が発生した場合、停止したライフラインの復旧には1週間以上かかる可能性があります。自宅の周囲にスーパーやコンビニがあったとしても、食料や水を求める人が殺到するため、商品の供給が追いつかないことも考えられるでしょう。
だからこそ、ご家庭に最低でも3日~1週間✕人数分の食料品や生活必需品を用意しておく必要があるのです。
実際に農林水産省の資料によれば、2011年の東日本大震災発生時には東北電力管内で466万戸が停電、80%の世帯が復旧するまでに3日かかっています。各交通網の遮断や行政機能の麻痺により、被災家庭では深刻な食料不足・生活用品不足が問題となりました。
こうした過去の災害経験を元に、災害を想定した家庭内備蓄は最低でも3日分~1週間分×人数分が望ましいとされています。特に今後発生するといわれている南海トラフ地震では、広い地域に甚大な被害が及ぶことからライフラインの復旧までより多くの時間が必要となる可能性があります。
もちろん、家族の構成や人数によっても備蓄の考え方は変わってきます。
ここでは基本の備蓄品と家族構成別の備蓄の考え方について、詳しく解説していきましょう。
【共通】最低限必要な備蓄品リスト
家庭備蓄の基本は食料・水と生活用品ですが、非常用持ち出しバッグを用意しておくと避難時にも安心です。この機会にあわせて用意しておきましょう。
<最低限必要な備蓄品リスト>
備蓄品 |
量 |
食料 |
長期保存可能な食料を最低3日分~1週間分×人数分用意する。 ※子どもや介護が必要な人がいる場合は多めに用意 |
水 |
1日1人3リットルの飲料水を3日分用意する。 生活用水も別途給水タンクに入れて用意しておく |
衛生用品 |
ウェットティッシュ、トイレットペーパー、ティッシュペーパー、緊急簡易トイレ、マウスウォッシュ |
生活用品 |
マッチ、ろうそく、ランタン(各部屋に1こずつ)、懐中電灯、カセットコンロ+ガスボンベ、耐熱性のあるポリ袋、紙皿・紙コップ、ラップ、電池など |
非常用持ち出しバッグ |
自宅が被災したとき用の持出しバッグ。上記の飲料水や食料品、生活用品に加えて貴重品、救急用品、洗面用具、防災ずきん/ヘルメット、マスク、軍手、懐中電灯、携帯ラジオ、予備電池、衣類、下着、使い捨てカイロ、毛布、タオルなど |
食料と水はもちろん、ガスや電気停止時に使えるカセットコンロと補充用のガスボンベも欠かせません。また、「耐熱性のあるポリ袋」も忘れずに準備しておきましょう。調理器具を汚さずに調理できる「パッククッキング(食材を耐熱性のあるポリ袋にいれて、鍋などで加熱する調理方法)」で使うことができます。断水することを想定し、できるだけ水を使わずに調理・食事する方法を考えることが重要です。
東日本大震災時には、東北地方を中心に200万戸の家庭でガスが供給停止となり、全て復旧するまで2ヶ月かかりました。ガスは電気や水よりも復旧が遅れる可能性が高いため、普段は鍋用に使用しているカセットボンベを少し多めに買っておくと安心です。
他にも忘れがちなのが「ランタン」。電気が復旧するまでの夜間は想像以上に真っ暗です。懐中電灯だけではなく、全方位を照らせるランタンを、必ず各部屋に1つずつ用意することも忘れないでください。
過去に被災した方々の中には、避難生活の際に「温かいものが食べたかった」という声も多く聞かれています。不安が募る災害時でも、普段のように温かい食事ができることは精神的にも大きな支えとなるでしょう。普段食べ慣れている、お気に入りのレトルト食品を備蓄しておくのもおすすめです。
ひとり暮らしに必要な備蓄
多くのひとり暮らしの方が住むワンルームの物件は、備蓄品を収納できるスペースに限りがあります。まず3日分の食料・生活用品を用意したうえで、収納スペースに余裕があれば4日分を追加で備蓄しましょう。
近隣に家族がいないと、万一の災害時に頼れるのは自分だけです。加えて、災害時にコロナに感染すれば、ひとりで自宅療養期間を過ごすケースも考えられます。「ひとりだからと大丈夫」と油断せず、収納スペースがあるのなら多めに備蓄をしておくことをおすすめします。
ふたり暮らしに必要な備蓄
夫婦や同棲カップルなど、ふたり暮らしの備蓄準備で気をつけたいポイントは、それぞれ必要なものは自分で用意することです。パートナーに備蓄の用意と管理を任せてしまうと、いざというときに自分にとって必要なものが足りないかもしれません。
たとえば女性の場合、災害時でもスキンケア用品や生理用品のストックは欠かせません。コンタクトレンズを付けている人であれば、レンズの洗浄液やケース、メガネも必要です。
このように、人それぞれ必要なものは異なります。基本の備蓄品に加えて、それぞれ自分の日常に欠かせないものは自身で用意しておくようにしましょう。
子どものいる家庭に必要な備蓄
子どものいる家庭では、人数分の食料や生活用品を「1週間分」用意しましょう。特に小さな子どもが食べるベビーフードやミルクは、1週間分以上の備蓄をおすすめします。
小さい子どもは体調を壊しやすいうえ、消化機能も発達していません。用意していた備蓄食料を吐いてしまったり、機嫌が悪く食料を食べずに散らかしたりする可能性は十分あります。大人と違い、子どもは用意しているものを無駄なく食べることができないことを覚えておきましょう。また、災害時にこれまで一度も食べたことのない非常食を出しても子どもが食べられない可能性もあります。備蓄食を選ぶ際は必ず子どもと試食し、非常時でもおいしく食べられるものを選んでください。普段食べたことのあるものを災害時にも食べられると、子どもも安心します。
なお災害時は、停電や断水で粉ミルクを作りにくい環境になることが想定されます。停電時でも封を開ければすぐ飲める液体ミルクを備蓄品に入れておくと安心です。
また、非常用持ち出しバッグには子どもが好きな絵本やおもちゃ、お菓子を入れておくと災害時の不安やストレスを緩和することができます。災害時に不安を感じるのは、大人だけではありません。子どもは大人の感情を敏感に感じ取って不安になります。子どもがいる家庭では、子どもを不安にさせない備蓄品も忘れないようにしましょう。
また、停電している期間はスマホもテレビも見られないため、娯楽コンテンツが不足します。電気を使わずに遊べるボードゲームや、トランプなどのカードゲームを用意しておくとより安心です。
コロナ禍で考えたい備蓄
コロナ禍においては、以下の二つを想定した備蓄を考えなければなりません。
・感染予防対策のための備蓄
・感染して自宅療養する際の備蓄
それぞれ何をどれくらい用意すればいいのか、詳しく解説していきましょう。
コロナ禍では感染予防グッズの備蓄も必須
コロナ禍の災害発生では、各交通網の停止や行政、医療施設の機能麻痺といった問題が考えられます。
そのためコロナ禍では最低限必要な備蓄品にあわせて、以下の感染予防グッズを備蓄しておくといいでしょう。
<コロナ禍で必要な感染予防グッズの備蓄リスト>
備蓄品 |
量 |
不織布マスク |
最低限1日1〜2枚程度×家族人数分。加えて多めに備蓄しておく。 |
アルコール消毒液 |
2~3本 |
石けん |
2~3個 |
洗浄用の水 |
毎日給水用タンクに新鮮な水を入れるようにしておく |
ごみ袋、使い捨てゴム手袋 |
100枚入りパックを1箱 |
除菌ウェットティッシュ |
100枚入りの箱×家族人数分 |
水なしで使える衛生グッズ |
水なしで手洗いできる洗浄液、歯磨きシート、水不要の液体歯磨き液、緊急簡易トイレなどを1週間分 |
感染予防の基本である「不織布マスク」に加え、ウイルスの除菌や消毒に効果があると言われる「水と石けん」「アルコール消毒液」は必ず用意しておきましょう。
また、感染症の予防対策には適切な口腔ケアが欠かせません。災害時には水不足になりやすいため、水なしで口腔内を清潔に保てる歯磨きシートや液体歯磨き液も備蓄しておくことをおすすめします。
感染時の自宅療養に必要な備蓄
災害時以外でコロナに感染した場合、自宅療養をするうえでの備蓄も考えておきましょう。
自宅療養の必要日数は最低でも10日間~2週間程度です。 コロナ感染者には自治体から自宅療養のための食品セットが支給されます(※)が、 感染拡大状況によっては食品セットを受け取るまでに数日間かかることがあるため、食品セットとは別に自分でも2 週間程度の備蓄を用意しておくと安心です。
ここでは、感染時に使える自宅療養グッズをまとめました。
<感染時の自宅療養に必要なもの>
備蓄品 |
量 |
調理不要で簡単に食べられる食品(レトルト食品、缶詰、インスタント食品など) |
2週間分 |
経口補水液、スポーツ飲料 |
2週間分 |
体温計 |
1個 |
ボタン電池 |
2~3個 |
アルコール消毒液 |
|
マスク |
|
鎮痛剤や熱冷ましなどの医薬品 |
各2箱(2週間分) |
家族と別々に寝るための寝具 |
家族人数分 |
特に盲点になりがちなものが、ボタン電池と寝具です。
体温計の使用機会の増加により、ボタン電池は一時品薄になるほど需要が拡大しました。「電池は切れたら買う」という人も、万一に備え複数個の予備を用意しておきましょう。
また、普段家族と一緒に寝ていて布団や毛布を共有している人は、別々の部屋で寝るための寝具が必要です。災害時には暖房が使えない可能性も考えられます。家族一人一人の寝具を用意しておき、家族間感染や寒さをしのげるようにしましょう。
(※)配食サービス詳細については、お住まいの自治体のホームページで確認するようにしてください。
備蓄の置き場所は分散&ローリングストック
<定期的に備蓄の食料を日常生活で消費し、入れ替える>
備蓄として必要な飲料水は1人あたり1日3リットルですが、4人家族で1週間分の備蓄をするとなると84リットルとなります。2リットルのペットボトルでは42本、6本入りの段ボールでも7箱分になることを考えると、収納が難しく感じるのではないでしょうか。
しかし、リビングの収納ボックス、キッチンの床下収納、各居室のクローゼットなど取りやすい場所に1〜2箱ずつ分散すれば、収納スペースを削減できるほか、もしも家具が倒れてドアが開かなくなってしまった部屋があっても、別の部屋にある備蓄を無事に取り出せます。分散収納をした際は、あらかじめどこに何があるかをリスト化し、家族と共有しておくことも忘れないようにしてください。
また、備蓄した食料は「確認したら消費期限が切れていた」という失敗を無くすために、日常的に消費し、食べたら新たに買い足しておくといったローリングストック法を意識して行いましょう。ローリングストック法は備蓄品を無駄にしないだけでなく、普段食べ慣れているものを非常食として活用できるといったメリットもあります。
まとめ
万一の災害は、いつどこでどう発生するかわかりません。これまでの日常が避難生活によって大きく変わる不安から、体調を崩してしまう方もいるでしょう。
過去には震災後、「1日1食おにぎりのみ」といった避難所がある一方、1日3食の食料が供給された避難所もあったといわれています。避難所では、避難した人数や輸送状況によって供給される食料の数や内容も変わるため、必ずしも適切な量や種類の食料が供給されるとは限りません。そのため、普段食べ慣れているものを十分な量で保持しているだけでも、安心につながります。
「一度用意して終わり」ではなく、日常の中で「備蓄を当たり前にする」感覚が重要です。まずは食料や生活必需品を多めに買うことから始めてみてはいかがでしょうか。
【監修者】
yokoさん
1級整理収納アドバイザー・防災備蓄収納1級プランナー 1990年生まれ、東京女子大学卒業。企業勤めをしながら、第1子育休中に第2の仕事として整理収納アドバイザーの活動を開始。普段はIT企業に人事としてフルタイム勤務しながら、週末に個人宅向けの整理収納コンサルティングを行っている。「部屋を片付けた先にあるその人らしい人生に繋がるサポートをすること」がモットー。東日本大震災の際、福島県に住む家族が被災した経験から「片付けは防災」だと実感し、防災備蓄収納を取り入れた整理収納プランニングを行っている。
https://yokohome1.mystrikingly.com/