「事故物件」のガイドライン策定。告知義務はいつまで? どこまで説明してくれる?

世の中には「事故物件」とか「ワケあり物件」と呼ばれるものがあります。人が亡くなった家には、霊感が強いので住みたくないという人もいれば、住宅価格や家賃が安くなるなら買いたい、借りたいという人もいます。

「事故物件」に明確な定義はない

では、どういった物件が「事故物件」や「ワケあり物件」に該当するのでしょうか? 

不動産ポータルサイト「ライフルホームズ」の不動産用語集を見ると、事故物件については次のように説明されています。

「事故物件とは、床上浸水や自殺などの事故現場となった物件のことです。また、権利について係争中である物件なども、事故物件とよばれます。基本的には、重要事項の説明義務の対象となります。その経緯などから、取引価格が低くなるケースもあります。」

また、事故物件のサイトなどでは「殺人事件や自殺、火災による死亡事故などの嫌悪すべき事実があった物件」などして、人の死に焦点を当てているようです。

このように、実は事故物件、ワケあり物件などに明確な定義はありません。宅地建物取引業法(以下、宅建業法)でも、事故物件などの用語は全く使われていません。

契約前に説明すべき「心理的瑕疵(かし)」

一方、宅建業法では、宅地建物取引業者(以下、宅建業者)に、契約締結前に契約に関わる重要事項を説明すること(以下、重要事項説明)と定めています。説明すべき内容の中に、隠れた欠陥やキズのことを指す「瑕疵(かし)」があります。物件の性能や機能などに物理的な瑕疵がある場合だけでなく、買い主や借り主に心理的な抵抗感のある過去の事実についても、住み心地などに影響するため、瑕疵があるとされます。これを「心理的瑕疵」といいます。

心理的瑕疵は、人の死に限ったことだけではありません。近隣に反社会的組織の事務所などの嫌悪・迷惑施設がある場合、近隣から騒音や異臭が発せられる場合なども該当します。宅建業法では、こうした心理的な瑕疵については、契約するかどうかの判断に重要な影響を及ぼす可能性があることから、売り主や貸し主はそのことを把握していたら告知する義務があると定めています。また、宅建業者が売り主であったり、仲介や代理を行ったりする場合は、買い主や借り主にそのことを告知する義務があるとしています。

とはいえ、心理的に抵抗を感じるかどうかは、受け手によっても異なります。自宅は生活の拠点ですから、自宅で病死することは日常で起こりうることです。自然死でも抵抗を感じる人もいれば、気にしない人もいます。10年前の自殺でも気になる人もいれば、一度人が住んで問題がないなら気にしないという人もいます。このように、心理的瑕疵の線引きはとても難しいものなのです。

宅建業者で違っていた「人の死」の告知基準、国がガイドラインを策定

宅建業法で心理的瑕疵の告知が義務づけられていますが、宅建業者によって、どこまで告知するかはさまざまでした。後でトラブルにならないようにと、売り主が知っているすべての瑕疵をかなり前の事例まで告知する場合もあれば、一度人が住んだら、あるいは一定年数が経ったら告知しない場合もありました。

同じようなケースでも、宅建業者によって告知したりしなかったりするのは、混乱を招きかねないということで、「人の死」についてどこまで告知するかを国土交通省が線引きしました。それが2021年10月に策定された「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」です。

このガイドラインでは、宅建業者が「人の死についてどこまで調査すべきか」、「どこまで告知すべきか」についての指針を示しています。

宅建業者は「人の死」についてどこまで告知するのか?

まず、「告知しなくてよい場合」を見ていきましょう。

■宅建業者が告知しなくてもよい場合
1. 自然死・日常生活の中での不慮の死(老衰、持病による病死などの自然死や転倒事故、誤嚥(ごえん)などの事故死)
2.(賃貸借契約の場合)「1以外の死」「特殊清掃等が行われた1の死」が発生し、おおむね3年間経過した後 ※日常使用する集合住宅の共用部分を含む
3. 隣接住戸、日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分で発生した死

日常生活で起こりうる自然死や不慮の事故死などは告知不要としていますが、長期間にわたって人知れず放置されたことで、消臭・消毒などの特殊清掃や大掛かりなリフォームが行われた場合は、契約締結の判断に影響するので原則として告知が必要としています。

また、対象物件の近隣住戸や通常使わない共用部分で発生した人の死は告知しなくてよいとしていますが、日常使うエントランスやエレベーター、階段、廊下などで発生した場合は告知が必要としています。

ただし賃貸借契約については、告知義務があるのはおおむね3年間としています。

一方で、1~3のケースであっても、事件性、周知性、社会に与えた影響などが大きいなどで広く知られた場合については告知が必要としているほか、たとえば買い主や借り主から問われた場合、把握しておくべき事情がある場合などは、契約締結に影響を及ぼすと考えられるので告知が必要としています。

宅建業者は「人の死」についてどこまで調査すべきか?

ガイドラインによると、宅建業者は原則として、自ら近隣に聞き込みを行ったり、インターネットで調べたりといったことまで調査をする必要はないとしています。

宅建業者は通常、売り主や貸し主に、「告知書(物件状況等報告書)」などの書面に、契約の相手に知らせるべきことを記載してもらいますが、人の死についても過去に生じた事案について記載を求めることで調査の義務を果たすとされます。ただし、宅建業者が、販売活動などをする過程で人の死の発生について知らされた場合、自身が人の死の発生を認識した場合で、契約締結に影響を及ぼすと考えられる場合は告知しなければなりません。

以上がガイドラインの主な内容になります。ガイドラインが策定された2021年10月以降は、住宅の売買契約の際に宅建業者がこのガイドラインに沿って、重要事項説明を行っていると考えられます。

住まいの選択基準は人それぞれ

筆者自身は霊感のないタイプなので、人の死についてはあまり気になりませんが、大きな事件となって周囲の人は知っているのに、住んでいる自分だけは知らないといった事態は避けたいと思います。ガイドラインでは、告知が必要とされる内容なので、一安心です。

住まいの選択基準は人それぞれです。筆者のようなタイプもいれば、霊感が強くて生活に影響を及ぼすという人もいるでしょう。何を重視して住まい選びをしているかを、宅建業者である不動産会社にしっかり伝えて、必要な情報を事前に入手するのがよいでしょう。伝えるのは、人の死に関することだけでなく、ペット飼育の有無なども同様です。住まい選びの重視項目を共有しておくと、担当者も気にかけて情報を集めてくれるはずですから。

執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)

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(最終更新日:2024.04.19)
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