政府は、菅政権時代に宣言した「2050年カーボンニュートラル」に向けて、脱炭素化・省エネ化に力を入れています。住宅も、もちろんその対象です。2022年に使える補助制度として「こどもみらい住宅支援事業」を創設し、住宅の省エネ化を促進しようとしています。では、どんな補助制度なのでしょうか?
登録事業者が手続きをすべて行い、住宅価格や工事費用が安くなる仕組み
政府はこれまで「グリーン住宅ポイント制度」や「次世代住宅ポイント制度」「省エネ住宅ポイント制度」など、ポイント還元という方法で省エネ住宅などの促進をしてきました。今回創設された「こどもみらい住宅支援事業」は補助金の制度です。
ただし、補助金を直接受け取る形ではありません。住宅を販売する事業者や注文住宅の建築、またはリフォーム工事を施工する事業者が、補助金の申請を行い、交付された補助金を受け取ります。住宅を取得したり工事を発注したりする側は、交付された補助金の額だけ住宅価格や工事費用から差し引かれるという形で恩恵を受けます。
つまり、販売事業者または施工事業者が大きな鍵を握ります。補助事業の主体はこれらの事業者となり、住宅を買ったり発注したりする消費者は共同事業者という契約を結び、交付される補助金を工事費用などに充当するのか、いったん全額支払って後で補助金を受け取るのかなどの取り決めを行います。これだけ大きな役割を果たすので、事前に登録をした事業者だけが対象になります。
この事業者の登録は2022年1月11日から開始されています。補助金をもらえるかどうかの1つ目の鍵は、住宅を販売あるいは工事の施工をする事業者が、この登録事業者になっているかどうか、これから登録するのであれば登録後に住宅の工事に着工するかどうか、を確認することです。
新築住宅を取得する子育て世帯・若者夫婦世帯とリフォームする世帯が対象
次に、なぜ「こどもみらい住宅支援」という名称なのでしょうか?
それは、住宅の省エネ化促進と合わせて、子育て支援として、子育て世帯や若者夫婦世帯が住宅を取得するのを後押しするという側面があるからです。
住宅を買ったり建てたりして補助金を受け取れるのは、子育て世帯や若者夫婦世帯に限定されます。また、リフォーム工事については、子育て世帯や若者夫婦世帯であれば、上限額が引き上げられる優遇を受けられます。では、子育て世帯や若者夫婦世帯とは、誰のことを指すのでしょうか?
申請時点において、「子育て世帯」は18歳未満の子どものいる世帯、「若者夫婦世帯」は夫婦のいずれかが39歳以下の世帯で、その年齢は2021年4月1日時点のものとなります。
リフォームについては上限額の優遇がないだけで対象に制限はありませんが、新築住宅の取得については対象が限られるというのが2つ目の鍵になります。
新築で60~100万円の補助金がもらえる省エネ性能とは?
住宅についても省エネという条件が付きます。新築の建築または購入では、一定の省エネ性能を有する住宅であること、リフォームでは、住宅の省エネ化を含む一定のリフォーム工事を行うことが条件です。また、省エネ性能のレベルやリフォーム工事の内容によって、補助額が変わります。
最初に、子育て世帯や若者夫婦世帯が新築のマイホームを取得する場合で、詳しく見ていきましょう。
まず、補助対象から外れる要件についてです。住宅の延べ床面積が50平方メートル未満の場合は対象外となります。また、土砂災害防止法による土砂災害特別警戒区域に立地する住宅も対象外となります。
次に、メインとなる省エネ性能と補助額についてです。詳しくは下表のようになります。
新築住宅であれば、少なくとも(3)の基準を満たすかというと必ずしもそうではありません。(3)で要求されるのは、「建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)」による「平成28(2016)年基準」と呼ばれるものです。住宅については、現在はまだこの省エネ基準に適合させることが義務づけられていないので、適合している住宅もあれば適合していない住宅もあるというのが現状です。なお、住宅についても2025年度までには義務化されると言われています。
では、省エネ基準に適合する「断熱等級4かつ一次エネ等級4以上を満たす住宅」とはどういったものかは、実は説明するのがとても難しいのです。簡単に言うと、建築物の構造や窓まわりなどの断熱性能を高めて熱の出入りを少なくすることに加え、住宅設備による消費エネルギーの違い(省エネ性の高い給湯器やエアコンを使ったり太陽光発電で発電したり)なども加味して住宅のレベルを測り、さらに、地域の気候条件の違いも考慮するなど、複雑な計算をしたうえで総合的に測るものです。ですから、注文住宅の建築をする事業者や新築住宅を販売する事業者に、適合するかを確認するのが最も簡単な方法です。
(2)の条件も、それぞれの法律で細かい条件が定められているので、やはり事業者に確認するとよいでしょう。
(1)のZEH(ゼッチ)は、「Net Zero Energy House」を略したもの。住宅の断熱性能・省エネ性能を上げることに加え、太陽光発電などによってエネルギーを創り、年間の「一次エネルギー消費量」を正味(ネット)で、おおむねゼロ以下になる住宅のことです。エネルギーを創っていても、ゼロ以下には達しない場合、そのレベルなどに応じてNearlyやReady、Orientedなどが付きます。
新築住宅を購入する場合は、住宅の省エネ性能を確認し、補助金の対象になるかどうか確認することになります。一方、注文住宅を新築する場合は、発注する側が省エネ性能を決めることも可能です。省エネ性能のレベルが高くなるほど補助金の額も増えますが、建築コストなどが高くなる傾向もありますので、施工する事業者とよく相談するのがよいでしょう。
上限額30~60万円の補助金がもらえる所定のリフォームとは?
次に、リフォームをする場合について説明しましょう。まずは、ざっくりと下表のようになります。
住宅の省エネ改修などが必須の条件で、同時に子育て対応改修や耐震改修など一定のリフォームを行った場合も補助金の対象になります。工事の内容ごとに細かく補助金の額が定められていて、その額を合計したものの上限が30万円となります。
ただし、子育て世帯や若者夫婦世帯であれば上限は45万円に、さらに中古住宅を買ってリフォームして(売買契約締結後3カ月以内にリフォームの請負契約を締結する場合)住む場合などでは上限は60万円まで引き上げられます。また、「安心R住宅」と言われる中古住宅を購入する場合も上限が45万円に引き上げられます。
なお、安心R住宅とは、耐震性があり、インスペクション(建物状況調査等)が行われた住宅であって、リフォーム等について情報提供が行われる中古住宅のことで、以下の標章を付けることができます。ただし、住宅市場に出回っている数が少ないのが現状です。
次に、リフォーム工事の内容についてもう少し見ていきましょう。大雑把には以下のようになります。
必須とされる(1)の開口部の断熱改修は、どんなものをどの程度交換新設するかによって、それぞれの補助額が異なります。(2)の外壁、屋根・天井または床の断熱改修も、外壁だけなのかすべて行うのかなどで補助額が変わります。(3)のエコ住宅設備は、具体的には、太陽熱利用システム、節水型トイレ、高断熱浴槽、高効率給湯器、節湯水栓のことで、それぞれに5,000円~2万4,000円の補助額が設定されています。
該当する工事を実施し、それぞれの補助額を合計した額が上限を超える場合は、上限額で頭打ちになります。ただし、補助額の合計額が5万円未満の場合は、補助事業の対象にはなりません。また、工事方法や住宅設備の商品などにも細かい条件が付けられています。
さて、リフォーム工事についても、発注する側がどんなリフォームをするかを決めることができます。とはいえ、補助金ほしさに不必要なリフォームまで行うのは本末転倒。やろうとしているリフォーム工事について、補助の対象になるかをしっかり確認するといったスタンスがよいでしょう。
契約・着工・申請の期限に注意
そのほかにも、いくつか条件があります。新築住宅を購入する場合は登録事業者と「売買契約書」を、注文住宅の新築をする場合とリフォームをする場合は登録事業者と「工事請負契約書」を締結する必要があります。
次に、2022年10月31日までという期限に注意する必要があります。契約を締結する期限も、住宅の建築工事に着工する期限も、補助金の交付を申請する期限もこの日までとなっています。ただし、全体の補助金の申請額が補助事業の予算枠に達してしまうと、この期限が早まる可能性もあります。
説明してきたように、補助事業の適用条件をクリアし、段取り良くスケジュールをして、書類を整えて申請するといった一連の流れを事業者が行うことになりますから、事業者と信頼関係を築けることがとても重要になります。住まいについてだけでなく、事業者選びという観点も忘れないようにしましょう。
なお、この記事では、国土交通省の2021年12月27日時点の資料に基づいて、個人が持ち家に居住する場合における、主なポイントについてまとめています。記載していない細かい条件もあれば、その後に条件が追加されたりする場合もあるので、こどもみらい住宅支援事業を利用される際には、登録事業者によく確認してください。
こどもみらい住宅支援事業事務局ホームページ https://kodomo-mirai.mlit.go.jp/
執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)