首都圏中古マンション価格の上昇が止まりません。新築物件の減少によって、中古マンションへの注目度がますます高まっていますが、変化の兆しが見られるようになってきました。これまで2年以上のもの間減り続けてきた新規売出し件数が、2021年年末から増加に転じているのです。
中古マンションが市場の主役になっている
マンション市場を見る場合、どうしても新築マンションに目が向きがちですが、実は首都圏の市場の中心は中古マンションに移っています。
年間の新築マンションの発売戸数は図表1にあるように、減少傾向が続いています。もともと東京23区や郊外ターミナル駅などの人気エリアでの用地取得が困難になっており、先細り傾向が強まっています。加えて、この1、2年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあります。
それに対して、中古マンションの成約件数は着実に増加しています。2020年はコロナ禍の影響で少し減っていますが、新築マンションの発売戸数のような大きな落込みではありません。数字を見る限り首都圏においては、明らかに新築より中古が中心になっているといっていいでしょう。
価格面でも中古マンションが主役に
価格は、当然ながら新築のほうがかなり高いのですが、最近の価格の上昇率を見ると異なる面が見えてきます。
2011年の新築の発売価格の平均は4,578万円で、中古の成約価格の平均は2,530万円でした。中古は新築の約55.3%で手に入った計算です。それが、2020年には新築が6,083万円で、中古3,599万円ですから、中古は新築の約59.2%です。新築、中古の価格差は縮小してきています。
また2011年から2020年の間の上昇率を見ると、新築は約32.9%に対して、中古は約42.3%です。新築より中古の上昇率が高く、結果として新築価格に対する割合が高くなっています。
むしろ価格上昇は新築ではなく、中古が牽引しているのかもしれません。つまり、いまや首都圏のマンション市場では量的な面においても、価格面においても中古マンションが主役になっているわけです。
前年比で中古マンション成約価格は19ヶ月連続上昇
その主役である中古マンションの動向に変化の兆しが見られるようになってきました。マンション市場全体に影響しかねない動きなので注目しておく必要があります。
首都圏の2021年12月の中古マンションの成約件数は、2,881件で、成約価格の平均は4,116万円でした。成約件数は前年同月比で13.7%の増加で、成約価格の平均は10.1%の上昇です。成約価格の前年比からの上昇は2020年6月から19ヶ月連続になります。
依然として成約価格の上昇傾向が続いており、2022年も中古マンション価格の上昇が続くのではないかと考えられますが、実は気になるデータがあります。
新規登録件数が27ヶ月ぶりに増加に転じる
それが、新規登録件数、つまり新たに売りに出される件数が増え始めているという点です。
首都圏の中古マンション新規登録件数は、長く減少が続いてきました。東日本不動産流通機構の調査では、前年同月比の数値は2019年9月から2021年10月まで、26ヶ月連続して減り続けてきました。それも前年同月比で二桁台の減少が多かったのです。
恐らく、中古マンション成約価格が上がり続けているため、「まだまだ上がる」「今売るのは損」「もう少し待ったほうが得策」と考える売主が多かったのではないでしょうか。ですから、仲介会社の営業担当者からは、「とにかく物件が出なくて困っている」「出ればすぐに売れるのに、様子見をされている人が多い」という声がしばしば聞かれました。
ところが、その流れが20年後半には変化し始めたのです。図表2は首都圏中古マンションの新規登録件数と前年同月比の推移を示しています。オレンジの折れ線グラフが、新規登録件数の前年同月比ですが、明らかに右肩上がりになっていて、2021年11月には、実に27ヶ月ぶりにプラスに転じ、12月には2ヶ月連続して増え、増加率も大きくなっています。
在庫件数が増加して選択肢が増えている
中古マンション価格が高くなり過ぎていることもあって、「いつまでも上がり続けるとは限らない」「そろそろ売り時かもしれない」「いまのうちに売っておいたほうが得策」と考える人が増えて、売り物件が増加しているのかもしれません。
その結果、新規に売り出される新規登録件数を含めて、仲介市場で販売されている件数を意味する在庫件数にも変化の兆しが見られます。
かつて5万件近かった在庫件数が、最近では4万件を切って、3万件台の半ばで推移していますが、前年同月比の減少率は急速に縮小しています。2021年7月までは前年同月比-20%台の減少だったのが、8月から-10%台、11月には-8.1%と一桁台になり、12月は-6.4%とさらにマイナス幅が縮小しました。
図表3のオレンジの折れ線グラフでも分かるように、急速な右肩上がりになっており、±ゼロの水面まであと一息のところに近づいています。このピッチで推移すれば、近いうちに新規登録件数と同様、プラスに転じるのではないでしょうか。
購入希望者にとってはそれだけ選択肢が増えて、値引きなどの交渉もしやすくなっているはずです。
“売り手市場”から“買い手市場”に移行?
図表4は、首都圏中古マンションの在庫価格、新規登録価格、成約価格の1平方メートル当たりの単価の推移を示しています。
いずれも右肩上がりの上昇カーブを描いているのですが、新規登録価格と在庫価格に比べて、成約価格は月ごとの上下動が大きく、2021年後半は、2021年前半に比べて新規登録価格・在庫価格と成約価格の差が大きくなっています。
2021年前半のように、新規登録価格・在庫価格と成約価格の差が小さいと、ほとんど新規登録価格・在庫価格のままか、わずかな値引きで契約が成立するケースが多かったのではないかと推測されます。売値かそれに近い状態で売れる、“売り手市場”だったわけです。
それに対して、新規登録価格・在庫価格と成約価格の差が大きくなった2021年後半には、新規登録価格や在庫価格から一定の値引きを経て契約が成立したケースが多いのではないかと推測されます。つまり、買い手優位の“買い手市場”になってきているということです。
市場の見極めが大切な時期になっている
先に触れたように、新規登録件数が増え始め、在庫件数の減少率が縮小している市場の動きを考慮すると、売り手市場における強気の値付けから、買い手市場の弱気の値付けに移行する可能性もありそうです。そうなると、成約価格にも影響して、長く上がり続けてきた成約価格に変化が出てくるかもしれません。
住まいを売却しようと考えている人も中古物件を購入しようと考えている人も、市場の見極めが大切な時期にさしかかっているようです。