住宅購入の判断に大いに関係する住宅ローン。不動産や金融について多くの知見をもつ、公認会計士ブロガー千日太郎さんより、2022年2月の住宅ローン金利について世界情勢や国内金融市場にインパクトを与えそうな事柄を踏まえ、解説いただきます。
2021年12月には新型コロナウイルスの変異型であるオミクロン株の感染拡大によって金利が下がり、これを反映して2022年1月の【フラット35】買取型の金利は少し下がりました。
しかし2022年1月初頭には米長期金利の上昇が波及して国内金利が急上昇しています。こうした状況下で2022年2月の【フラット35】金利はどうなるのか。その動向を予想します。
岸田政権下の株価下落と米金利上昇の波及
2021年10月19日から2022年1月11日までの日経平均株価と長期金利の動向をグラフにしました。
青い折れ線グラフの日経平均株価については、概ね2万8千円以上の高い水準で推移していますが、3万円を超えることはありませんでした。特に12月の上旬にかけて大きく下げている要因は新型コロナウイルスのオミクロン型の感染拡大によるものです。
オレンジの折れ線グラフは日本の長期金利を表しています。2022年初にかけて長期金利が上昇している理由は、米国の好調な経済指標を背景としたインフレ懸念や、米中央銀行が量的緩和政策の引き締めを急ぐとの見方から、市場関係者の間で米国の利上げの時期が前倒しとなると受け止められたことで、米長期金利が上昇し日本の長期金利に波及したためです。
債券価格と金利(利回り)の間には負の相関関係があり、逆方向に動きます。債券価格が上がると利回りが下がり、債券価格が下がると利回りが上がります。
米中央銀行が量的緩和政策の引き締めにかかると、債券価格が下がることが予想されるため、その前に売ろうとして米国の投資家がこぞって債券を売ったのです。投資家による債券売りは米国債のみならず日本国債にも及ぶため、これによって日本国債の価格も下がり、日本の長期金利が上昇しているのです。
今後の長期金利の動向と【フラット35】の2022年2月金利動向の関係
今後も高い水準で国内金利が推移していくとすれば、2022年2月の【フラット35】の金利は前月よりも上がる可能性があります。
太平洋を隔てて遠く離れた米国の中央銀行の金融政策や投資家の動向がまわりまわってわたしたちの借りる住宅ローンの金利に影響してくるのです。
【フラット35】(買取型)の資金調達の仕組み(※記事最下部参照)からすると、住宅金融支援機構が毎月発行する機構債の表面利率が発表されるタイミングで長期金利が下がっていると、機構債の表面利率が下がるため、【フラット35】の融資金利も下がるためです。
過去の長期金利の推移と【フラット35】の金利推移
2021年10月19日から2022年1月11日の長期金利と【フラット35】買取型の金利推移を振り返ってみましょう。青い棒グラフ(左の軸)が【フラット35】買取型で、オレンジの折れ線(右の軸)が長期金利です。
長期金利(オレンジの折れ線)の縦軸と、【フラット35】買取型の金利(青い棒グラフ)の縦軸を同じレンジに合わせています。ふつうはオレンジの折れ線と青い棒グラフが接するようにして推移するのですが、直近の3か月は長期金利の急上昇に対して【フラット35】の金利が低く抑えられているため、間隔が空いています。これは住宅金融支援機構が取り扱う公的融資であることによるものと考えています。
今月の長期金利は目に見えて急上昇しており、公的融資として【フラット35】の金利上昇を抑えるべき局面にあると思われます。【フラット35】(買取型)の資金調達の仕組みからすると、長期金利上昇に伴って住宅ローンの金利が上がってしまうことは避けられませんが、その上昇幅はある程度の範囲で抑えられる可能性があります。
先行きが不透明な局面ではゆとりある計画を
2022年に入ってからの長期金利上昇については、特に目新しい要因があったというよりは、前からくすぶっていた米インフレ懸念と米中央銀行による量的緩和政策の引き締め観測によるものです。ここ最近は、新型コロナウイルス以外の取引材料に乏しい反面、これまでの金融緩和政策によって資金だけは潤沢にあることから、きっかけとも言えないような些細なことで債券の売り買いが入り、長期金利が動きやすい状況にあります。
そうした場合の金融市場の金利動向は必ずしもセオリー通りになるとは限らず正反対に動く可能性も十分にあります。金利が想定外の動きになったとしてもある程度吸収できる、無理のない資金計画を立て、実行していく必要があります。住宅ローンの返済計画は無理せず、出来るだけゆとりのあるものにするようにしてください。
※参考【フラット35】(買取型)の資金調達の仕組み
住宅ローンの【フラット35】(買取型)は、上図のように住宅金融支援機構が民間金融機関から債権を買い取って証券化し、機関投資家に債券市場を通じて機構債という形で販売するという仕組みになっています。この機構債は毎月20日前後に表面利率を発表し募集します。投資家たちは機構債を安全資産という考えで購入しますので、その表面利率は10年国債の利回り(長期金利)に連動する傾向があります。
※本記事は、執筆者の最新情勢を踏まえた知識や経験に基づいた解説を中心に、分かりやすい情報を提供するよう努めておりますが、内容について、弊社が保証するものではございません。