新型コロナウイルス感染症拡大の影響の長期化で、住宅の選び方が変化し、より広い住まいを求める人が増えているといわれています。そこで、民間調査機関の株式会社東京カンテイが、首都圏の3LDKの新築マンションの広さに変化が起きているかを調査したところ、コロナ禍前の2011年とコロナ禍後の2022年を比較すると、全体的にはむしろ狭くなる傾向が強いのに対して、東京23区だけは広がっているという結果になったようです。
コロナ禍で住まいに“広さ”を求める人が増えている
新型コロナウイルス感染症拡大の影響が長引き、外出自粛、在宅勤務などによって、住まいでの生活時間が長くなり、住まいに対する考え方が変化しています。
たとえば、大手仲介会社などの業界団体である一般社団法人不動産流通経営協会の「不動産流通業に関する消費者動向調査(2021年度)」によると、2020年度にマイホームを買って引渡しを受けた人のうち、34.2%が新型コロナウイルスが住宅購入に影響を与えたとし、そのうち54.3%の人が「当初予定よりも、購入時期を早くした」としています。在宅勤務が増えたので、都心近くではなく郊外の住宅に買った、部屋数の多い住まいを買ったといった人たちなどがいるようです。
さらに、株式会社リクルートの「『住宅購入・建築検討者』調査(2021年)」では、コロナ禍でどんな変化があったのかを聞いていますが、そのトップ3には、「収納量を増やしたくなった」「広いリビングがほしくなった」「部屋数がほしくなった」が並び、さまざまな面で住まいに“広さ”を求める傾向が強くなっていることが明らかです。
広いリビングに間仕切りでワークスペース設置
巣ごもり時間が長くなり、自宅での生活を楽しむためのさまざまな商品をEC(電子商取引)で求める傾向が強まっています。そうすると、リビングなどにモノが増え、整理するための空間の必要性を感じ、結果的に収納の多い住まいへの住み替えを考えたり、トランクルームを利用したりする人が増えているようです。
さらに、仕事に集中できるワークスペース、趣味やフィットネスに取り組める空間を希望する人が増え、家族が同時に在宅しても、干渉されず、ゆったりとコミュニケーションできるような広い住まいが求められています。部屋数の多い住まいが一番ですが、そうでなくても広いリビングに間仕切りを設置して、子どもたちの様子を見守りながら仕事ができるスペースを確保する人も増えているようです。
千葉市の3LDKは7年で6.67平方メートルも狭くなっている
こうした動き、変化を踏まえて、現在の新築マンションの主流である3LDKの専有面積は広くなっているのでしょうか。
東京カンテイによると、首都圏の主要都市の3LDKの専有面積は図表1のように推移しています。コロナ禍のニーズの変化に対応して専有面積が広くなるのではなく、むしろ全体としては縮小傾向にあるようです。もともと首都圏で最も専有面積が広かった千葉市がその典型で、2014年には78.85平方メートルでしたが、2021年には71.98平方メートルまで狭まっています。さいたま市も同様に、2011年には73.39平方メートルだったのが、2021年には70.15平方メートルになっています。
分譲する不動産会社としては、用地取得費や建築費の高騰を価格に転嫁して引き上げたいのですが、あまり上げ過ぎると消費者がついてきてくれなくなります。そこで、専有面積を狭くすることによって、上昇幅を極力抑えようとする動きが強まっているのではないかとみられます。いわゆる“専有面積圧縮”です。主要都市のなかでも平均価格が最も安い千葉市で、その傾向が顕著になっているわけです。
東京23区は100平方メートルの物件が2倍以上に
それに対して、東京23区だけは、むしろ3LDKの専有面積が広くなっています。2011年には73.18平方メートルだったのが、2021年には75.05平方メートルに拡大しています。10年間で1.87平方メートル広くなっているのです。
東京23区は価格水準が最も高いのですから、その分、価格を抑えるために大幅な専有面積圧縮が起こってもおかしくないように思われますが、そうはなっていないのです。なぜなのでしょうか。
理由のひとつに挙げられるのが、富裕層向けの専有面積の広いマンションが増えているという点です。図表2にあるように、東京23区の新築マンションの3LDKタイプの専有面積帯別の推移をみると、2021年は70平方メートル台前半が38.7%と最も多いのですが、80平方メートル台以上の広い3LDKの2011年と比べて割合が高まっていることが分かります。
なかでも、100平方メートル以上の物件は2011年の2.5%から、2021年は5.7%と2倍以上に増加しています。80平方メートル台~90平方メートル台も10.7%から12.4%に増えているのです。
中古マンション:3LDKの価格が大きく上昇
特に、都心近くの全住戸が1億円以上の富裕層向けの物件になると、プレミアム住戸として、100平方メートル以上の物件が何戸か設けられます。200平方メートル、300平方メートル台で10億円を超えるような住戸も珍しくありません。
プレミアム住戸の存在が、東京23区における3LDK面積の平均値を押し上げていると言っていいでしょう。
ただ、東京23区にける3LDK面積の拡大は、プレミアム住戸の増加によるものだけはないかもしれません。中古マンションの動向をみると、3LDKのなかでも、専有面積70平方メートル以上の広さの物件の価格上昇率が高くなっている印象です。
図表3は、東京23区の中古マンションの専有面積帯別の価格を、2019年第1四半期を100とした指数が、その後どう変動しているかを示しています。30平方メートル未満は、103.6ポイントとあまり上がっていないのですが、専有面積が広くなると上昇カーブがきつくなり、特に70平方メートル以上では127.4ポイントと、わずか2年半ほどで、3割近くも上がっています。
コロナ禍が終息しても広めのマンション人気が続くか
コロナ禍で、より広い住まいを求める傾向が強まり、70平方メートル以上の広めのマンション需要が急増した結果、価格が大きくアップしているのではないかと推測されます。
東京23区に特にその傾向が強く、図表4でも分かるように横浜市やさいたま市では東京23区ほどの急上昇ではありません。
利便性の高い東京23区なので、もともとニーズが高いうえに、コロナ禍で広めのマンションの人気がさらに高まり、それが価格の上昇につながっているのでしょう。
コロナ禍がいつ終息するのかなかなか先が見えない状態であり、終息に向かったとしてもニューノーマルのライフスタイルが定着しているので、しばらくはこの流れが続くのではないでしょうか。広めのマンションを希望する人にはとっては、ちょっと気がかりな傾向といえそうです。