近年の日本は、地震や台風、大雨など大規模な自然災害の増加に伴い、停電のリスクも高まっています。企業にとってITネットワークはビジネスインフラであり、パソコンを始めとしたIT機器の電源喪失は死活問題です。同様に、家庭にとっても電気は欠かすことのできない生活インフラであり、いざ停電となればスマホの充電すらできなくなり、大切な連絡手段が断たれます。
自然災害対策として家庭用蓄電池に注目する人が増えてきました。
家庭用蓄電池を導入する人は今後増える?
家庭用蓄電池は単独でも使うことはできますが、もっとも大きなメリットを生むのは太陽光発電システムとの併用です。
2009年11月1日にスタートしたFIT(固定価格買取制度:Feed-in Tariff、※余剰電力買取制度からの移行)により、太陽光発電で作った電気のうち、自宅で使いきれない余剰分を、電力会社に一般的な価格よりも高い価格で買い取ってもらうことができました。ただし、FITには買取期間が設けられており、一般家庭に設置されることが多い容量10kW未満の太陽光発電システムの場合、期間は「10年間」と定められています。その期間を過ぎてFITの適用期間が終了することを、一般的に「卒FIT」と言います。
卒FIT後も引き続き余剰電力を電力会社に買い取ってもらうことはできますが、買取単価が大幅に下がるため、家庭用蓄電池を導入して自家消費に切り替える人が増えると見込まれています。
家庭用蓄電池の価格は高い? 安い?
家庭での蓄電方法は主に2つあります。1つは家庭用蓄電池を設置すること。もう1つは、EV(電気自動車)やPHV(Plug-in Hybrid Vehicle:外部から電源をつないで充電できるハイブリッド車)に充電すること。ただし、EVやPHVの電気を家庭で利用する場合は、V2H(Vehicle to Home)機器を導入することが必要です。V2Hは、EVやPHVなどに搭載されている大容量バッテリーに蓄えられた電気を、家庭用の電気に戻して有効活用するシステムです。
幅広くエネルギーデータ事業を展開するENECHANGE株式会社によれば、国内で販売されている主なメーカーの家庭用蓄電池について導入費用相場は次のようになっています。
■パナソニック
創蓄連携システムS+ システム価格
7.0kWh 2,992,000円11.2kWh 3,938,000円
■シャープ
クラウド蓄電池システム 6.5kWh 2,860,000円
■ニチコン
ハイブリッド蓄電システムESS-H1L1
12 kWh ¥4,620,000(希望小売価格)
■TESLA
Powerwall
13.5kWh ¥1,089,000(サポートするハードウェア込み)
※ENECHANGE株式会社調べ(11月12日現在)、価格は税込み
現状は一番安くても100万円程度
EVで有名なテスラ社の製品が一番安いのですが、それでも100万円を超えています。以前に比べてかなり安くなったとはいえ、家庭用蓄電池は現状でもまだまだ高額という印象です。さらに、本体費用だけでなく設置費用等の諸経費も必要となってきます。
単純に蓄電池の組立設置を行う以外にも、蓄電池を固定するための基礎工事なども必要になりますし、設置費用や電気系統の工賃は設置施工業者によって違いが出てきます。複数社での相見積もりをしたほうがよいでしょう。
家庭用蓄電池の蓄電容量はおおむね「4.0kWh~16.6kWh」で、販売価格は上記の通り「100万円~420万円」程度です。
なお、蓄電池と言っても、鉛蓄電池、リチウムイオン電池、NAS電池、ニッケル水素電池などがありますが、現在の主流は、パソコンやスマホ、EVにも使われているリチウムイオン電池です。
ENECHANGEの執行役員・有賀一雅さんは、容量や価格以外にも導入の際に注意すべき点があると言います。
「家庭用蓄電池が停電のときに使えるというのは確かにそうですが、家の中の一部しか使えないのか、家全体で使えるのか、そこは確認すべきです」
家庭用蓄電池には、特定負荷と全負荷という2タイプあり、特定負荷タイプだと、あらかじめ決めた冷蔵庫のコンセントや仕事部屋のパソコン用コンセントなど必要最低限の回路のみ停電時に使用できます。それに対して、全負荷タイプはすべての部屋で電気の使用ができるものです。
特定負荷を選ぶか全負荷を選ぶか、電気の契約内容にもよりますが、蓄電池を購入する際に、販売店もしくはメーカーに確認しましょう。
将来的に安くなる? 今後の見通しは
家庭用蓄電池の価格は、海外に比べて日本が特に高額というわけではないそうです。ただ、日本で海外ほど普及しないのは、価格以外の理由もあるようです。
「例えば、海外では、特定の時間帯の電力販売価格を高く設定している地域や、電力需給対策として電気料金の基本料金部分を高く設定しているケースもあります。そのため消費者目線では、高い金額で電気を買うより蓄電池システムを活用したほうがいいというモチベーションが働きやすくなります」(有賀さん)
では、日本で家庭用蓄電池は将来的に安くならないのでしょうか。
どんな工業製品でも量産効果が働きます。すなわち、発売開始当初は高くても、販売量が増えるに従って価格は安くなるものです。
「量産効果でいえば、車のほうがかなり顕著に出ています。例えば、テスラのモデル3に内蔵されている蓄電池は50~60kWhもあるのに、それでも車体価格が400万円台。1kWhあたりの単価は、家庭用蓄電池よりもEVの蓄電池のほうが安く、量産効果も出ている領域だと思います。世界的な脱炭素の流れから、より一層の普及拡大が見込まれるEVですので、さらに量産効果が出てくると想定されます」(有賀さん)
「脱炭素」により政策的に蓄電池価格は下がる
10月22日、国のエネルギー政策の中長期的な指針「第6次エネルギー基本計画」が閣議決定されました。
2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にするため、太陽光や風力などの再生可能エネルギー(以下、再エネ)による電源を現状から倍増させ、主力の電源化を目指す方針です。
ただ、再エネ比率を引き上げるには解決しなければならない課題があります。発電量が天候に左右され、コントロールするのが難しいという弱点があります。そうした再エネの不安定性という問題を解決する装置として期待されているのが蓄電池です。
現状では導入コストの高止まりが普及拡大のネックとなっているので、政府は補助金などの支援策で価格低減を推進していきます。家庭用蓄電池は1kWh当たりのコストを2019年度の19万円弱から2030年度には7万円に引き下げる計画です。
経済産業省はEVとPHVの普及台数について、2040年にEVが4億1100万台、PHVが1億8400万台、2050年にEVが9億1100万台、PHVが3億4200万台と予測しています。
世界は脱炭素社会へと向かっており、日本でもEVが急速に増えていくのは確実です。家庭用蓄電池とEVを併せて、蓄電池価格は将来的に下がっていくでしょう。
<取材協力>
ENECHANGE株式会社