コロナ禍は私たちの生活に大きな影響を与えました。住宅選びも例外ではありません。購入時期、購入価格、購入場所などはどう変わったのでしょうか。今後もその傾向が続くのでしょうか。
コロナ禍の変化は今後も尾を引く可能性
大手不動産仲介会社を中心とする業界団体の不動産流通経営協会では、毎年「不動産流通業に関する消費者動向調査」を実施しています。このほど公表された2021年度版は、首都圏で住宅を購入、2020年4月から2021年3月までの間に引渡しを受けた人を対象としています。
調査内容は、購入に当たっての資金調達から中古住宅への意識など多岐にわたりますが、最新の2021年版では新型コロナウイルス感染症拡大が、住宅の購入にどんな影響を与えているかも調査しています。
ウィズコロナからポストコロナに移行できたとしても、ニューノーマルなライフスタイルがすっかり定着しています。コロナ禍における変化は今後も継続する可能性が高いとみられるだけに、どんな変化が起こっているのかに注目しておきたいところです。
3人に1人は「コロナ禍が住宅購入に影響」と回答
調査では、コロナ禍の影響としてまず、住宅購入に与えた影響の有無を聞いています。
図表1にあるように、全体としては「影響した」が34.2%で、「影響しなかった」が65.7%となっています。ほぼ3人に1人が影響したとしているものの、3人中2人は影響はなかったとしており、全体としてはコロナ禍にかかわらず、住宅取得を考えている人は、購入計画をそれまで同様に進めて、実際に住宅を取得しているようです。
この割合は、購入した住宅の形態によってかなりの違いがみられます。「影響した」とする割合が最も高かったのは新築戸建て住宅を買った人で、44.3%に達しています。「影響した」とする既存(中古)戸建て住宅、既存(中古)マンション購入者は4割前後ですが、新築マンション購入者では15.2%にとどまっています。
これは、あくまでも筆者の推測ですが、新築マンションを取得する人はその価格の高さからみて、比較的年収が高く、生活が安定している人たちが多く、コロナ禍だからといってアタフタする必要はない、じっくり構えて、本当にほしい物件が出てきたときに動けばいいと考える人が多いのではないでしょうか。
取得価格は当初の予定通りが6割を超える
次に、コロナ禍が住宅購入に影響したとする人に、実際にどんな変化があったのかを、さまざまな角度から質問しています。
購入価格については、図表2にあるように、全体としては「特に影響はなかった」とする人が62.9%と最も多く、「当初予定よりも、高くなった」が20.3%、「当初予定よりも、低くなった」が16.6%でした。このところ住宅価格は新築・中古、マンション・戸建てに限らず価格上昇が続いていますから、当初予定より高くなった人がやや多くなっているのは、コロナ禍の影響というよりは、市場動向を反映したものにすぎないのかもしれません。
コロナ禍で購入時期を前倒しにした人が多い
コロナ禍の取得価格の影響はさほど大きくなかったようですが、購入時期には大きなインパクトを与えたのかもしれません。
図表3にあるように、全体としては54.3%と半数以上の人が「当初予定よりも、購入時期を早くした」と答え、「当初予定よりも、購入時期を遅くした」は8.6%にとどまっているのです。「特に影響はなかった」とする人が36.8%いるものの、全体としてコロナ禍で購入時期を前倒しした人が多かったようです。
注目したいのは、購入時期を早くしたという割合が、世帯年収によってかなり違っているという点です。年収400万円未満では36.8%ですが、年収400~800万円未満では47.0%に増え、さらに800~1,200万円未満では62.1%と6割を超え、1,200~1,600万円未満でも55.0%とやはり半数を超えています。
コロナ禍の先行き不安な環境でしたから、年収が低い人ほど職場環境が不安定な人が多いと推測され、それが住宅購入を遅らせる結果になったのかもしれません。反対に、一定の年収のある人だと、安定的な職場環境の人が多く、不透明な環境だからこそ、マイホームの取得で生活を安定させておきたいと考えたのではないでしょうか。
コロナ禍でも8割以上の人が立地先に影響はなし
新型コロナウイルス感染症が拡大した当初は、在宅勤務が増えたため、高くて狭い都心やその近くの利便性の高い住まいではなくても、郊外や地方でもいいのではないかと考える人が増えたといわれています。事実、それまで売れ行きの悪かった郊外のマンションのなかには、コロナ禍になってからはそれまでの不振がうそのように売れだしたといった例もありました。
そうした変化が住宅の立地先選びにどう影響したのでしょうか。その結果をみると、図表4にあるように、全体としては「コロナ前は利便性の高い場所にする予定だったが、コロナの影響で郊外の住宅を選択した」とする人が16.1%で、逆に、「コロナ禍前は郊外の住宅にする予定だったが、コロナ禍の影響で利便性の高い場所の住宅を選択した」が3.0%となっています。
たしかに、コロナ禍の影響で郊外の住宅を選ぶようになったとする人が多いのですが、全体としては80.7%の人が「特に影響はなかった」と答えています。郊外への流れが若干あったものの、トレンドとなるほどの勢いはなかったのかもしれません。
この調査は、2021年3月までに住宅の引渡しを受けた人が対象ですから、その後に取得した人だと、「特に影響はなかった」あるいは、「コロナ禍前は郊外の住宅にする予定だったが、コロナの影響で利便性の高い場所の住宅を選択した」とする人が増えたかもしれません。
年収が高い人ほど当初予定より部屋数を増やしている
コロナ禍で、在宅時間が長くなったこともあって、ワークスペースや趣味の空間など、より広い住まい、部屋数の多い住まいを求める傾向が強まったともいわれています。
その点については、全体としては「当初予定よりも、部屋数を増やした」とする人が13.1%で、「当初予定よりも、部屋数を減らした」は1.4%にとどまっています。「特に影響はなかった」が85.5%に達しているものの、部屋数の希望から変化があったとする人のなかでは、部屋数を増やしたとする人のほうが圧倒的に多くなっています。
当然のことかもしれませんが、世帯年収別にみると、年収の高い人ほど部屋数を増やした人の割合が高くなっています。年収400万円未満では5.3%が、400~800万円未満では9.7%に、800~1,200万円未満では13.6%に、1,200万円~1,600万円未満では16.7%、そして1,600~2,000万円未満では23.3%に増えています。図表5にある通りです。
ニューノーマル時代の住まい選びの基軸
2021年11月末段階では日本国内の新型コロナウイルス感染症の感染者数は急減して、落ち着いた状態ですが、欧米などではむしろ増加しており、この先、いつ以前の生活を取り戻せるのか、簡単には見通せない状況です。
また、今回の新型コロナウイルス感染症を終息させることができたとして、いつ、別の感染症に襲われるかわかりません。ニューノーマルの生活は今後の私たちの生活の基本になるのかもしれません。
その意味では、今回のコロナ禍によって生じた住宅選びに関する変化は、今後の基軸になる可能性があります。新たな時代の住まい選びにおいて念頭に置いておきたいところです。