次亜塩素酸水を入れた加湿器は安全なのか? 専門機関のデータから考える

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響で、さまざまな除菌・消毒グッズが話題となっています。たとえば、加湿器に次亜塩素酸水を使用するのもその一つです。除菌・消毒効果について話題に上がる次亜塩素酸水ですが、加湿器で使用することは本当に有効なのでしょうか。今回は厚生労働省や各種国際機関の見解を紹介、加湿器における次亜塩素酸水の使用について有効性や安全性を確認していきます。

加湿器での次亜塩素酸水利用は意見が割れている

実は、加湿器で次亜塩素酸水を使用することの有効性については、現在も意見が割れている状況です。厚生労働省も「国際的に評価方法は確立されていない」としており、有効性について明言は避けています。

次亜塩素酸水とは

テーブルなどの除菌には有効な次亜塩素酸水
テーブルなどの除菌には有効な次亜塩素酸水(画像素材:PIXTA)

そもそも次亜塩素酸水とは、消毒剤として広く使用される次亜塩素酸を主成分とする、酸性の溶液のことです。酸化作用によって新型コロナウイルスを破壊し、無毒化する作用があるとされています。

実際、NITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)の検証では、一定濃度以上の次亜塩素酸水が新型コロナウイルスの感染力を一定程度抑える効果があるとされています。ただし、手指消毒への使用については効果が未評価であり、テーブルやドアノブといった「モノ」の消毒をする際に有効です。

消毒効果が認められている次亜塩素酸水ですが、洗浄効果はありません。そのため、次亜塩素酸水を使う前に、消毒したいモノの汚れをしっかり落としておく必要があります。また、少量では効果が薄まってしまう可能性があるため、使用する際は十分な量を用意する必要があるそうです。

出典:厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」

出典:独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE) 「新型コロナウイルスを用いた代替消毒方法の有効性評価について(報告の概要)」

 

次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムは違う

次亜塩素酸ナトリウムとは別物
塩素系漂白剤として使われる次亜塩素酸ナトリウムとは別物(画像素材:PIXTA)

次亜塩素酸水と似た名前の物質に「次亜塩素酸ナトリウム」がありますが、異なる物質なので要注意です。

一般的に次亜塩素酸水と呼ばれるものにはいくつかの製法があります。厚生労働省の「消毒・除菌」についてのページによると、このうち食塩水や塩酸の電気分解によって作られた次亜塩素酸水のなかには、食品添加物(殺菌料)の1種として規格が定められているものがあり、食品加工工場での野菜の洗浄などに用いられることもあるのです。有機物と反応してすぐ水に分解されるため、皮膚などについても特に害はありません。

対する次亜塩素酸ナトリウムはアルカリ性で、塩素系漂白剤に用いられている物質です。塩素系漂白剤に「混ぜるな危険」と書かれているのは、アルカリ性の次亜塩素酸ナトリウムを酸性物質と混ぜることにより、有毒ガスが発生する危険があるためです。次亜塩素酸ナトリウムは人体にとって有毒で、低濃度でも皮膚につくと肌荒れなどを引き起こす可能性があります。

研究機関などは「有害の可能性あり」と警鐘

研究機関は否定的
研究機関はどこも亜塩素酸水の空間噴霧に否定的(画像素材:PIXTA)

国際機関・著名な研究機関・厚生労働省などは、加湿器に次亜塩素酸水を入れて空間噴霧することに否定的です。新型コロナウイルスに対する効果は引き続き検証試験が行われているものの、2021年10月時点で有力な検証結果がないため、空間噴霧はやめるよう呼びかけています。

世界保健機構(WHO)の見解

NITEが公表している「新型コロナウイルス対策における『次亜塩素酸水』の空間噴霧について(ファクトシート)」によると、世界保健機構(WHO)は「COVID-19について、噴霧や燻蒸による環境表面への消毒剤の日常的な使用は推奨されない」との見解を示しています。「消毒剤を人体に噴霧することは、いかなる状況であっても推奨されない。これは、肉体的にも精神的にも有害である可能性があり、感染者の飛沫や接触によるウイルス感染力を低下させることにはならない」とも指摘しており、次亜塩素酸水を含むすべての消毒剤を日常的に噴霧することを推奨していません。

出典:独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE) 「新型コロナウイルス対策における『次亜塩素酸水』の空間噴霧について(ファクトシート)」

 

米国疾病予防管理センター(CDC)の見解

同じくNITEのファクトシートでは、米国疾病予防管理センター(CDC)の見解も紹介されています。CDCは医療現場の空気消毒に関する一般論として「消毒剤噴霧は、空気や表面の除染のためには不十分な方法であり、日常的な患者ケア区域の一般感染管理には推奨されない」と指摘。アメリカの医療施設においてはほとんど使用されていないと述べています。WHOほど強い言い方ではないものの、消毒剤噴霧のウイルス感染予防効果は不十分であると結論づけているのです。

出典:独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE) 「新型コロナウイルス対策における「次亜塩素酸水」の空間噴霧について(ファクトシート)」

厚生労働省の見解

厚生労働省も「これまで、消毒剤の有効かつ安全な空間噴霧方法について、科学的に確認が行われた例はありません」と述べています。また、WHOやCDCの見解を踏まえ、消毒剤やウイルスの量を減少させるそのほかの物質に関し、人体や皮膚に付着したり吸いこんだりするおそれのある場所における空間噴霧を推奨していません。

先ほど紹介したとおり、次亜塩素酸水自体は人体に大きな影響を及ぼす物質ではありませんが、厚生労働省は「消毒効果を有する濃度の次亜塩素酸水を吸いこむことは、推奨できません」としています。次亜塩素酸水の空間噴霧については有効性や安全性の明確な基準がないため、ほかの消毒剤と同様におすすめできないというのが厚生労働省の見解です。

出典:厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」

メーカーには否定派・肯定派の両方がある

加湿器を製造しているメーカーにおいては、否定派と肯定派が分かれています。たとえば、加湿器や暖房機器を製造するダイニチ工業は、自社製品の加湿器で次亜塩素酸や次亜塩素酸水を使用することはできないと明言しています。

出典:ダイニチ「よくあるご質問:加湿器 次亜塩素酸、二酸化塩素を使用することはできますか?」

 

一方、パナソニックは次亜塩素酸空間除菌脱臭機「ジアイーノ」を販売。この製品から揮発する次亜塩素酸の安全性について、「次亜塩素酸は濃度が高すぎると取扱に注意が必要ですが、本製品から揮発する次亜塩素酸は空気中の塩素ガスの環境基準(0.5ppm)より低く、有人空間での使用に配慮した濃度となっております」と説明しています。

パナソニックの製品は、電気分解によって生成した次亜塩素酸を気体状に揮発させたものを放出するものであり、加湿器のように液体のまま次亜塩素酸水を噴霧する空間噴霧とは異なるとも説明しています。ただし、パナソニックも次亜塩素酸を使用する製品の新型コロナウイルスに対する効果は検証しておらず、感染対策の有効性は明らかにされていません。

出典:パナソニック「次亜塩素酸 空間除菌脱臭機「ジアイーノ」から揮発する次亜塩素酸の安全性について」

現時点では加湿器に次亜塩素酸水を使うのは控えよう

厚生労働省やWHO、CDCの見解を紹介してきましたが、いずれも次亜塩素酸水を含む消毒剤を空間噴霧することには否定的です。今後さらに研究が進んでいくことが考えられますが、2021年10月時点においては安全性や有効性が証明されているわけではないため、加湿器に次亜塩素酸水を使うのは控えたほうがよいと言えるでしょう。

(最終更新日:2021.12.15)
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