配偶者の扶養範囲内に収まるように、年収を気にしながら働いている人は多いでのではないでしょうか。扶養を外れる年収の基準は、税法上と社会保険上とで異なります。それぞれ年収いくらまでが扶養範囲になるのでしょうか。また、扶養を外れるとどうなるのかも気になるところです。
そこで今回は、扶養範囲内で働きたい場合に注意したい年収の基準や、扶養を外れるメリット・デメリットなどを解説します。
年収がいくらになると扶養から外れるの?
「103万円の壁」や「130万円の壁」といった言葉を耳にしたことがないでしょうか。103万円は税法上の扶養範囲内、130万円は社会保険上の扶養範囲内に収まる年収の上限です。なお、扶養に入るには年収以外にも条件があります。ここでは、税法上・社会保険上それぞれの扶養の条件について解説します。
そもそも「扶養に入る」とは?
「扶養に入る」とは、親族から経済的援助を受けることを指します。
国税庁によると扶養親族とは、その年の12月31日(納税者が年の中途で死亡し又は出国する場合は、その死亡又は出国の時)の現況で、次の四つの要件のすべてに当てはまる人と定義しています。
【扶養親族に該当する人の範囲】
(1) 配偶者以外の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族をいいます。)又は都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。
(2) 納税者と生計を一にしていること。
(3) 年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること。
(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
(4) 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。
引用元:国税庁「扶養控除」
親族の扶養に入ると、扶養控除による税負担の軽減や、保険料を支払うことなく社会保険に加入できるなどの優遇が受けられます。
ただし、一定以上の収入があると扶養から外れるため、世帯全体では税金や社会保険料の負担が増えることになります。扶養を外れないように働きたい場合は、収入がいくらまでなら扶養範囲に収まるのかを把握しておくことが大切です。
税法上の扶養は年収103万円超えで外れる
税法上の扶養とは、扶養家族の給与年収が103万円以下の場合に適用される制度です。税法上の扶養が適用されると、所得税や住民税の負担を軽減できます。
基本的に年収103万円以下の場合、所得税はかかりません。所得税は、給与から給与所得控除や基礎控除などを差し引いた残額に課税されます。年収103万円に対する基礎控除は48万円、給与所得控除は55万円です。これらを合わせると103万円となり、差し引き0円となるためです。
扶養対象が配偶者の場合は、扶養する配偶者が最大38万円の配偶者控除が受けられます。年収が103万円以下なら本人に所得税がかからないうえ、扶養する配偶者の所得税も軽減されます。そのため、103万円を上限として働き方を調整する人も多いようです。
なお、収入が103万円を超えても、扶養者の年収が1,000万円を超えない年は配偶者特別控除が受けられます。控除額は本人と配偶者の年収に応じて段階的に引き下げられますが、被扶養者の年収が201万6,000円未満なら配偶者特別控除の対象となります。
社会保険の扶養は年収130万円以上で外れる
全国健康保険協会によると、社会保険の扶養に入るには、年収130万円未満、かつ収入が被保険者本人の収入の2分の1未満であることが条件とされています。なお、被扶養者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は、年収180万円未満とされています。
収入がパートやアルバイトの給与所得のみであれば、総支給額が月給10万8,333円以下という条件も満たさなくてはなりません。総支給額は、給与・賞与・各種手当などを含めた税引き前の金額です。
年収130万円未満かつ総支給額が月給108,333円以下という条件を満たして、限度額いっぱいまで収入を得たい場合は、12ヶ月間働く必要があります。たとえば、6ヶ月間働いて年収120万円を得たとしたら、月額は20万円となり、社会保険の扶養に入ることはできません。
ただし、保険組合によって扶養者になれる基準に多少の違いがあるため、収入の規定については加入している健康組合に確認してください。
扶養を外れるとどうなる?
年収が増えて扶養から外れるとどうなるのでしょうか。ここでは、夫あるいは妻が配偶者の扶養から外れた際にどのようになるのかを解説します。
世帯全体で所得税の納付額が増える
税法上では年収103万円を超えると所得税が発生し、手取り収入が減少します。さらに、年収150万円を超えると段階的に配偶者特別控除の額が減り、配偶者の所得税額は増えていきます。家計の足しにするために始めたパートやアルバイトも、所得税が増えることでかえって家計はマイナスになってしまうかもしれません。
自分で社会保険に加入する必要がある
年収が130万円を超えて社会保険の扶養に入れなくなると、自分で社会保険に加入する必要があります。勤務先で厚生年金などの社会保険に加入する場合は、毎月の給与から社会保険料分が天引きされるため、手取り額が少なくなります。勤務先の社会保険に加入できない場合は、国民健康保険と国民年金への加入手続きが必要です。
扶養を外れるメリットもある!
扶養から外れて働くと税金や社会保険料の負担が増えるというデメリットがありますが、一方で次のようなメリットがあることも知っておくとよいでしょう。
年収を気にせずに働ける
扶養範囲内で働く場合は、年収や月収が一定額を超えないように労働時間を制限する必要があります。
扶養を外れると年収を気にせず働けるので、フルタイムの仕事にも就けるようになります。正社員と同じ労働日数・時間で働くうち、会社への貢献度が高いと評価され、正社員登用につながるケースもあるかもしれません。また、年収の制限がなくなれば仕事選びの幅が広がります。時給の高い仕事を選ぶことも、正社員として働くことも可能です。
社会保障が手厚くなる
扶養から外れて自分で厚生年金に加入すると、社会保障が手厚くなるというメリットもあります。
ここで、公的年金加入者の三つの分類を確認してみましょう。
・第1号被保険者:自営業者や農業従事者など第2号・第3号に該当しないすべての人
・第2号被保険者:サラリーマンや公務員など厚生年金の加入者
・第3号被保険者:第2号被保険者の配偶者で20歳以上60歳未満の人
被扶養者(第3号被保険者)は社会保険料の支払いが免除されますが、扶養を外れると自分で社会保険に加入し、保険料を納めなくてはなりません。その分、将来もらえる年金が増える、万一の保障が手厚くなるなどのメリットが受けられます。
会社に勤務している間に納める厚生年金保険料には国民年金保険料が含まれていますが、保険料の半分を会社が負担してくれるので、保険料の負担は少なくて済みます。受給開始後は基礎年金と厚生年金の両方が受給できるため、第1号被保険者や第3号被保険者よりも多額の年金が期待できるのは嬉しいところです。障害年金・老齢年金・遺族年金についても、厚生年金分が上乗せされます。
ちなみに、パート勤務でも労働時間や雇用期間などの条件を満たせば第2号被保険者になれるので、会社に確認するとよいでしょう。
また、健康保険についても、自分で加入すると傷病手当金や出産育児一時金などの保障内容が手厚くなります。
世帯収入が増えて生活が安定する
扶養にかかわる年収の壁を気にせず働けるようになれば、世帯年収が増えて生活が安定します。配偶者が病気やケガで働けない期間があっても、家計を支えられるでしょう。住宅ローンを借りる際にも夫婦の収入を合算して審査を受けられるので、希望額の融資を受けられる可能性が高くなります。
所得税や社会保険料を支払っても手取り収入が増えるのは、年収160万円くらいからです。年収103万円を超えると所得税や住民税の納税義務が、年収130万円を超えると社会保険への加入義務が発生します。税金や保険料の負担が年間24万円ほどと仮定すると、130万円を少しオーバーする程度の年収では、かえって出費を増やしてしまうことになります。扶養から外れて働きたいと考えるなら、年収160万円以上を目指せる仕事や働き方を考えてみてください。
まとめ
扶養から外れると、所得税や社会保険料などが給与から引かれます。手取り額が減るため、損をしたような気持ちになるかもしれません。ただし、社会保険の加入には、将来受け取れる年金額が増えたり、手厚い社会保障が受けられたりといったメリットがあります。積極的に働けばキャリアアップにつながりやすいことに加え、世帯の年収が増えて生活がより安定するでしょう。
(最終更新日:2021.11.22)