長引くコロナ禍や、多様な働き方の広まりを受け、都市圏では地方への移住に関心を持つ人が増えています。ただ、移住への一歩を踏み出したくても何から始めたらよいか分からないという人も多いようです。そこで今回は、自らも移住経験者である「移住推進員」が常駐する岡山県和気町に注目。移住経験者ならではの視点を生かした取り組みについて紹介します。
移住推進員とは?
和気町の移住推進員・飯豊信(いいとよまこと)さんは、自身も2012年に、35年ほど暮らした東京からやってきた移住者。移住当時、町には今のような移住者支援制度はなく、飯豊さんは行政の手を借ることなく、自力で移住活動をしたそうです。
「移住にかかる労力や時間、そして経済的な負担を痛感した」と当時を振り返る飯豊さん。2016年に和気町が初めて募集した「移住推進員」に応募。就任後は、移住希望者への町案内をはじめ、土日祝日や夜間も利用できる移住相談、下見時の宿泊費補助やお試し住宅制度、都市圏での出張相談会、移住後のサポートなど、現在和気町が力を注いでいる細やかな移住支援を担う一員として活動を続けています。
「先輩移住者」の視点を取り入れた、和気町の移住サポートとは?
先輩移住者でもある移住推進員として、飯豊さんが日頃心がけていることを聞きました。
密度の濃い情報提供
飯豊さんによると、移住先を選ぶ時に最も信頼できるのは「自分の目と感覚」。「移住前には、何度も現地を訪ねてほしいですね」と話します。
「それゆえ、移住希望者に町案内をする際、事前に家族構成や理想の移住像などをしっかり聞き、限られた時間の中でその人にとって密度の濃い情報を提供できるよう心がけています」と飯豊さん。
例えば、幼い子どもがいる夫婦なら幼稚園に立ち寄ったり、古民家に憧れる人なら古民家に住んでいる先輩移住者を訪ねたりと、臨機応変に対応。下見をする時の宿泊補助やお試し住宅など経済的な移住支援制度も充実しているそうです。
「いいこと」ばかり言わない
「移住地のいい面しか知らないと、移住後にミスマッチが起こりがち」と飯豊さん。そこで、「古民家は虫が入りやすい」「この辺の道はとても狭い」など、マイナスと思われそうな情報も積極的に伝えています。
「先輩移住者を訪ね、移住後の生の声を聞く機会もなるべく設けているんですよ」(飯豊さん)
地域とつながるきっかけを作る
「移住者が地域の人々とつながりを深め、“移住”から“定住”へとさらなるステップを踏むためのナビゲートをしたい」という飯豊さん。移住者同士や地域の人を交えたイベントの開催、移住者が受け入れられやすい環境整備、出身地や子どもの年齢が近かったり趣味が似ていたりする人との橋渡しなど、移住者が地域に溶け込むきっかけ作りにも取り組んでいます。
移住者に聞く、「和気町の移住推進員はここがスゴイ!」
実際に飯豊さんのサポートを受け、和気町への移住を叶え、町の地域おこし協力隊として活躍中の井方克明(いがたかつあき)さんに、移住推進員・飯豊さんの「ここはスゴイ!」と感じた点を聞きました。
移住するまでのフォローがスゴイ!
1年半前に大阪から移住した井方さんは、自分達の家庭状況をしっかり聞き、現状を把握して、移住への道筋をちゃんと立ててくれる飯豊さんの手腕に驚いたそうです。車での町案内も、限られた時間内でのスケジューリングが完璧で、内容がとても濃かったと絶賛。
「幼い子どもがいる僕達のペースに合わせてくれたのもありがたくて。町案内は5回もお願いしましたが、基本的な生活エリア、幼稚園などの子どもを中心としたコース、家探しや移住者訪問、仕事や出産に関する内容、引っ越しのフォローと、毎回違う内容でとても参考になりました」と井方さん。
初めて和気町を訪れた後、次に飯豊さんに連絡を取ったのは数年後だったそうですが、「お久しぶりです、井方さん!」と、以前の案内時のエピソードまでしっかり覚えてくれていたことも、とても嬉しかったとか。移住前にヒアリングや町案内をしっかりしてもらったおかげで、移住後も和気町の印象がほとんど変わらなかったことも感謝しているそうです。
移住後のサポートもスゴイ!
移住者同士のコミュニティー作りや、同じ趣味を持つ地元の人との橋渡しなど、移住後も飯豊さんのサポートに助けられているという井方さん。ゴミの出し方をはじめ、この地域ならではの情報をまめに教えてくれるのもありがたいそう。
移住後も、井方さんにとって飯豊さんは、「頼ったらちゃんと打ち返してくれる安心感」を与えてくれる大きな存在なのだとか。「今移住を考えている人も、あまり気負わず、飯豊さんのような移住推進員さんがいれば、ぜひ頼ってください」とアドバイスしてくれました。
まとめ
移住経験者ならではの視点を取り入れたサポートは、移住希望者にも、すでに移住した人にも、とても心強い存在なんですね。ちなみに、飯豊さんが移住推進員に就任後、2016年から2020年の5年間で、和気町には500人以上が移り住んだとのこと。移住候補先に移住推進員がいたり、同様のサポート体制が整っていたりするなら、しっかり頼って幸せな移住を叶えてください。
参考サイト
岡山県和気町移住情報サイト「WAKESUM」