住宅金融支援機構が民間金融機関と提携して提供している住宅ローンの【フラット35】。さまざまな金利の引き下げ制度が実施されていますが、2021年10月からその対象が拡大され、一段と利用しやすくなっています。
【フラット35】の金利引き下げには3つの種類
住宅金融支援機構の【フラット35】は、当初の金利が完済まで確定している全期間固定金利型の住宅ローンです。借入後に市場の金利が上がっても、それに連動して適用金利が上がることはないので、安心して利用できます。
金利水準は変動金利型や固定金利期間選択型に比べるとやや高く設定されているのですが、各種の金利引き下げ制度が実施されており、その適用を受ければ変動金利型や固定金利期間選択型に近い金利に下がります。
金利引き下げ制度には、大きく4つの種類があります。
(1)フラット35】S
長期優良住宅など、一定の基本性能を満たす住宅が対象。
(2)【フラット35】地域連携型
住宅取得に対する地方公共団体による補助金交付などの支援とあわせて金利が引き下げられる。
(3)【フラット35】地方移住支援型
地方公共団体による移住支援金の交付とセットで金利を一定期間引き下げる。
(4)【フラット35】リノベ
リノベーションされた中古住宅や、中古住宅を買ってリノベーションする場合に適用される。
このうち、2021年10月1日から対象が拡大されたのは、(2)の【フラット35】地域連携型です。
「地域木材利用」「街なみの景観形成」が引き下げ対象に
図表1にあるように、これまでは、子育て支援のための助成などを積極的に行っている自治体や、防災対策などに力を入れている自治体など、対象となるのは5つの事業を行っている自治体でしたが、10月から「地域木材利用」「景観形成」が加わり、7分野となりました。
図表1 【フラット35】地域連携型を利用できる政策分野
地域木材利用は、地域産木材の利用促進、住宅需要喚起のために地域木材を利用した住宅の取得を支援する補助事業を実施している地方公共団体が対象。具体的には図表2にあるように、岩手県、山形県などの5県と新潟県糸魚川市と佐渡市の2市です。
一方、景観形成は良好な都市景観の保全や魅力あるまちづくりなどに貢献する住宅の取得を支援する制度で、2021年10月現在、対象となるのは岐阜県飛騨市のみです。
この制度を利用するためには、通常の【フラット35】の手続きのほか、地方公共団体に【フラット35】地域連携型利用対象証明書の申請を行い、証明書の交付を受けて【フラット35】取扱金融機関に提出する必要があります。
対象となっている地方公共団体と補助事業(2021年9月28日現在)
1 地域木材使用
・岩手県 いわて木づかい住宅普及促進事業
・山形県 やまがたの家需要創出事業(住宅新築支援分)
・栃木県 とちぎ材の家づくり支援事業費補助金
・鹿沼市 鹿沼産木材による住宅新築等報奨金
・新潟県 新潟県産材の家づくり支援事業
・糸魚川市 いといがわ木の香る家・店づくり促進事業
・佐渡市 佐渡産材利用促進事業
・長野県 信州健康エコ住宅助成金
2 景観形成
飛騨市 飛騨市景観形成地区建築物等助成金
出典:住宅金融支援機構 令和3年9月28日ニュースリリース
栃木県産出材を使った住宅なら最大40万円の補助金
たとえば、栃木県の「とちぎ材の家づくり支援事業費補助金」は、県産出材を利用した木造住宅の建設を支援することにより、木造住宅供給の促進および林業・木材産業の活性化を図るとともに、木材の地産地消による二酸化炭素の排出量の抑制を図ることを目的としています。
申請者が自ら居住する戸建てで、原則として木造軸組工法の木造住宅、延床面積が75平方メートル以上(車庫部分を除く)であることなどの条件があり、県産出材の使用量によって補助金額が変わります。県産出材の使用量10立方メートル以上15立方メートル未満が10万円、15立方メートル以上20立方メートル未満が15万円、最大では40立方メートル以上が40万円となっています。この40万円の補助金をもらえる上に、【フラット35】の金利引き下げ制度が利用できるわけです。
2021年度の受付は5回にわたって実施され、第3回が2021年12月1日~28日、第4回が2022年1月4日~31日、第5回が2022年2月1日~21日となっています。
飛騨市での新築住宅の建築には最大40万円の補助金
飛騨市の「飛騨市景観形成地区建築物等助成金」は、市内の古川町歴史的景観地区、神岡町自然景観融和地区において、景観建築物の新築、改修などを行う人が対象になります。
岐阜県では高山市の古い街並みが有名ですが、その高山市の奥座敷として残るもうひとつの古い街並みが飛騨市古川町です。白壁の土蔵やお寺の石垣の間を水路が流れ、1000匹以上の色とりどりの鯉が泳いでいます。
神岡町は鉱山の町として栄え、鉱石探査中に温泉が噴出したという割石温泉もあります。いまも当時の繁栄を感じさせる街並みが残り、昭和レトロタウンとして人気があります。
この歴史的景観地区、自然景観融和地区を保全するため、エリアにふさわしい住まいを建てる場合、板壁、出窓、出格子などを対象に、工事費の4分の1、最大40万円を限度する補助金制度が実施されています。その補助金を貰った上で、フラット35の金利引下げを利用できることになります。
これらの制度は、自治体があらかじめ予算を設定して実施しているので、予算に到達した場合には年度途中でも打ち切りになることがあるので、ホームページなどでご確認ください。
【フラット35】Sとあわせて利用できる
【フラット35】地域連携型の金利引き下げ幅は年0.25%で、引き下げ期間は当初の5年間です。
2021年11月の【フラット35】の貸出期間35年で、最も多くの金融機関が採用して、一番低い金利(最頻・最低金利)は1.33%です。そこから、当初5年間は0.25%引き下げられ、1.08%が適用されたあと、6年目から1.33%に戻ることになります。返済期間が20年以下だと最頻・最低金利は1.21%ですから、当初5年間は0.96%と1%を切る水準に下がります。
さらに【フラット35】地域連携型は、先に触れた【フラット35】Sと併用できます。
【フラット35】Sは、長期優良住宅などの基本性能の高い住宅には金利Aプランが適用されて、当初10年間は金利が0.25%引き下げられます。やや基本性能の低い金利Bプランだと金利引き下げ期間は5年になります。
【フラット35】Sの適用率は、【フラット35】を利用している人の9割前後に達しており、ほとんどの人が金利引き下げの適用を受けています。【フラット35】地域連携型を利用する人の多くも、【フラット35】Sとの併用が可能になるのではないでしょうか。
【フラット35】Sの金利Aプランとの併用であれば、当初5年間は【フラット35】Sの金利引き下げ 0.25%と、【フラット35】地域連携型の金利引き下げ0.25%が適用され、金利引き下げ幅は0.50%になります。6年目からは【フラット35】地域連携型の金利引き下げが終了、【フラット35】Sの0.25%の引き下げのみになって、11年目からは通常の金利に戻ることになります。
図表2【フラット35】地域連携型・地方移住支援型の金利引き下げイメージ(金利Aプランの場合)
【フラット35】Sの金利Bプランだと当初5年間の金利引き下げ0.25%は変わりませんが、6年目からは通常金利が適用されることになります。
35年間の総返済額が110万円も少なくなる
では、この金利引き下げ制度による負担軽減効果はどれくらいあるのでしょうか。
借入額3,000万円の例で試算してみると、金利引き下げ のない通常の【フラット35】だと、毎月返済額は9万円近くで、35年間の総返済額は約3,754万円です。
それが、【フラット35】地域連携型で、金利が0.25%引き下げられると毎月返済額は3,569円減って、総返済額は約3,715万円に減少します。
さらに、【フラット35】地域連携型と、【フラット35】Sの併用で、当初の金利が0.50%引き下げられるようになれば、毎月返済額は当初5年間が7,000円以上減少、総返済額は3,643万円と通常の【フラット35】より111万円も少なくなります。
しかも、それに同時に自治体の補助金も利用できるのですから、メリットは小さくありません。
今回の【フラット35】の金利引き下げ 対象の自治体はあまり多くありませんが、今後は拡大される可能性があるので、住宅の建設、購入を考えている人は定期的に住宅金融支援機構のホームページをチェックするなど、きめ細かく目配りしておきたいところです。