新型コロナウイルス感染症の拡大によって、外出自粛や在宅勤務の増加など、私たちの生活は大きく変化しました。それが、私たちの暮らし方や住まい選びにどんな影響を与えているのでしょうか。ARUHIとクックパッドでは共同で調査を行い、その結果を『料理と暮らしの白書2021』にまとめました。その中から、住まい選びについてどんな変化を生じているのかを見てみましょう。
日当たりが良く、ゆったりできる住まいを求める傾向
コロナ禍で家族全員の在宅時間が長くなったことで、住まいについて考える時間が増え、住まいに求める条件も変化しているようです。
図表1にあるように、「今の住まいを選んだ時」の選択条件のトップは「間取り」の45.3%で、次いで「日当たりの良さ」が42.3%、「広さ」が33.9%で続いていました。それに対して、「次に住まいを選ぶ時」の条件としては、「日当たりの良さ」が49.4%でトップに立ち、「間取り」は48.8%の2位、3位は「収納スペースの多さ」の47.1%でした。コロナ禍によって、日当たりが良く、間取りや収納スペースが適切で、ゆったりと過ごせる住まいが重視されるようになっているようです。
調査結果はこちら:コロナ禍で重視したい「住まい」の条件は? 『料理と暮らし白書2021』
ほかの調査でも、ほぼ同様の結果が出ています。たとえば、リクルートの調査では、図表2にあるように、コロナ禍の拡大で「部屋数がほしくなった」「広いリビングがほしくなった」「日当たりの良い住宅がほしくなった」「遮音性に優れた住宅に住みたくなった」などが上位に挙がっています。
在宅時間長期化で防音性や遮音性への関心が上昇
前出のARUHIとクックパッドの共同調査では、「今の住まいを選んだ時」と「次の住まいを選ぶ時」を比較できるようになっています。その変化を見ると、コロナ禍で住まいに求める条件がどう変わったのかがわかります。コロナ後にポイントが高まった項目を見ると、(1)「防音性・遮音性」(18.0ポイントアップ)、(2)「家事動線のスムーズさ」(14.6ポイントアップ)、(3)「キッチンの使いやすさ」(14.5ポイントアップ)といった順位になります。
コロナ禍によって、子どもたちを含めて在宅時間が長くなり、隣近所に迷惑を掛けないかと気になる人も多いでしょう。また、反対に隣近所からの物音も気になる人も少なくないはずです。このような背景もあり、防音性や遮音性への関心が高まっているようです。周りを気にしないで生活でき、在宅勤務などに集中できる環境が求められているのではないでしょうか。
同時に、「家事動線のスムーズさ」や「キッチンの使いやすさ」など、在宅時間や調理時間の増加などに対応した、使いやすい住まいを求める傾向も強いようです。
玄関からの動線を変えて家族全員で家事をシェア
こうした住まいに求める条件の変化に対応して、住宅メーカーや不動産会社などでは、注文住宅や分譲住宅などでさまざまな工夫を施しています。
たとえば、大和ハウス工業の注文住宅では、共働き世帯、在宅勤務が増える中、誰か一人に負担がのし掛かるのを防ぐため、家族全員で家事をシェアする「家事シェアハウス」という考え方を提案しています。
例にあるように、一般的な住まいでは、玄関からそのままリビングに向かいがち。コートを脱ぎ捨て、かばんも放置され、テーブルの上は郵便物などでいっぱいになるなど、リビングに物や服が散乱して困っている家庭も多いのではないでしょうか。
それに対して、この「家事シェアハウス」では、玄関のそばに家族全員分の「カタヅケロッカー」が設置されています。そこに各自の靴を収納し、コートやかばんなどを置くこともできますから、玄関はスッキリし、リビングに物や服があふれることを防げます。しかも「カタヅケロッカー」は洗面所につながっているので、手洗い・うがい・着替えなどを済ませてからリビングへ行くことが可能。居住部分にウイルスを持ち込まないという、コロナ禍ならではの効果も期待できます。
2021年4月に発売された注文住宅の「ライフジェニックダブリュー」では、この「家事シェアハウス」のほか、独自のテレワークスペースも設置できるようになっていて、コロナ禍でも快適に生活できる住まいづくりを提案しています。
大和ハウス工業の「家事シェアハウス」の間取りと自分専用カタヅケロッカーの例
LDKにワークスペースを取り込んだ「LWDK」スタイル
分譲住宅や注文住宅などを手掛けるオープンハウスグループで、住宅の設計・建築事業を担うオープンハウス・アーキテクトは、コロナ禍の在宅勤務の普及に対応して、新たなワークスペースを盛り込んだ「LWDK」の提案を行っています。
日本の戸建て注文住宅では、リビング・ダイニング・キッチンの3要素からなるLDK空間が住まいの中心に据えられてきました。しかし、コロナ禍によって住まいの中に「働く」ための機能が求められるようになっています。そこで、LDKにワークスペースを設置する「LWDK」のある住まいづくりを進めているのです。
たとえば、「LWDK」プランの例(下図)に見るようなオープンタイプであれば、リビングの広い空間の一部にワークスペースを設け、家族とコミュニケーションを取りながら、仕事ができるようになります。小さな子どもの見守りにも便利で、学習机代わりにもなります。
このオープンタイプだけではなく、収納によって仕切りをつけるセミオープンタイプ、間仕切りとドアを付けるプライベートタイプも可能。それぞれのライフステージ、ライフスタイルに応じたLWDKとすることができます。
オープンハウス・アーキテクトの「LWDK」プランの例
ダイニングテーブル一体型の「ピアキッチン」
ポラスグループの中央住宅では、在宅時間が増えたコロナ禍で、家事をしながら子どもを見守りやすい「ピアキッチン」を提案しています。画像からもわかるように、キッチンとつながるダイニングテーブルが一体型カウンターとなっていて、実用新案取得済みだそうです。
このピアキッチンなら、カウンターに座っている小さな子どもの話に耳を傾けながら料理ができますし、お絵描きや宿題をしたりする様子を見守ることができます。家族の気配を感じながら家事ができるので、親は安心ですし、子どもも退屈しないで夕食までの時間を過ごすことができます。
リビングだけでなく、キッチンから目の届く位置に洋室がレイアウトされているので、家事で忙しい時間帯でも安心です。さらに、調理、配膳、後片付け、洗濯、掃除などの家事を並行して進めやすい動線が確保されているので、家事時間を短縮でき、労力を軽減できます。子どもも後片付けなどの家事に参加しやすいレイアウトですから、自然とお手伝いが進みます。
ポラスグループの「ルピアコート津田沼」のピアキッチン
コロナ禍に対応した新たな住まい選びの時代に
コロナ禍で経済の停滞感が強い中でも、住宅は新築・中古、戸建て・マンションの別にかかわらず順調に売れています。その背景には、コロナ禍によって住宅に求められる条件が変化し、新たな住まいを求める人が増えたことがあるでしょう。加えて、住宅メーカーや不動産会社でも、コロナ禍に対応しやすい機能を持った住まいの提供を行うようになっていることもあって、コロナ禍でも売れているのではないでしょうか。
コロナ禍というこれまでにない環境の中、自分たちは何を重視するのか、優先順位をしっかりと再確認したうえで新たな視点での住まい選びが必要になってきそうです。
(最終更新日:2021.11.02)