分譲マンションでは、1960年代の黎明期から現在まで、さまざまな設備が開発され、採用されてきました。これまでどんな設備が開発され、どのように発展してきたのか見ることは、今後のマンショントレンドを考えるうえで参考になるはずです。システムキッチンから最新の全館空調まで、それぞれの変遷を見てみましょう。
システムキッチンの誕生は1973年にさかのぼる
今ではすっかり当たり前になっているシステムキッチンですが、戦前から終戦直後の集合住宅では木製の板に亜鉛を張ったものがほとんどでした。1956年に日本住宅公団(後の住宅・都市整備公団、現在のUR都市再生機構)の晴海団地で、初めてステンレスの流し台が採用されたといわれています。
その後、1973年にキッチンメーカーのクリナップがショールームでステンレス製の新商品を「システムキッチン」と名付けて紹介。1970年代後半からドイツメーカーの日本進出が相次ぎ、国内メーカーもそれを追い掛け、分譲マンションに浸透しました。
形状としては横一列のI字形から、壁に沿ってかぎ形になったL字形、キッチンを囲むように配されたU字形などが開発されました。最近では壁などから離れたアイランドキッチン、キッチンの一方が壁に接しているペニンシュラキッチンが人気です。どちらもダイニング・リビングに面して作業できる対面型なので、コミュニケーションが進み、また子どもの見守りにも適しているなどの利点もあります。
コロナ禍ではなかなか外食できませんし、調理や食事を通して家族の交流が深まるこうした対面型のキッチンがますます人気になるのではないでしょうか。
小規模マンションでは設置率が低いディスポーザー
キッチン関係では、シンクの排水口に取り付ける生ゴミ処理設備「ディスポーザー」を設置するマンションが増えています。生ごみを粉砕して水と一緒に流してくれるので、生ごみが発生せず、人気の高い設備の一つです。
1930年代にアメリカで開発されたそうですが、日本では下水道の普及が遅れていたので、本格的に普及が始まったのは1990年代のことです。
最近では、ほとんどの大規模マンションで設置が標準化していますが、小規模マンションではそうはいきません。図表1にあるように、首都圏で2020年に完成した総戸数50戸未満の小規模マンションでの設置率は17.3%にとどまっていますが、100戸以上では69.2%と7割近くに達しています。さらに、規模の大きなマンションだと、もっと設置率は高くなっているはずです。
これほど差がある要因としては、処理した下水をそのまま流すわけにはいかないので、マンション内に浄化槽の設置が不可欠であるという事情が挙げられます。戸数の少ない小規模マンションでは1戸当たりの価格を大きく押し上げてしまうため、設置をためらう不動産会社が多いのです。
しかし、小規模マンションでも富裕層向けの高額物件では設置が進んでいますから、今後は比較的低価格帯の小規模マンションでも設置が進むことを期待したいものです。
一定価格帯以上の物件では標準化進む食洗機
ディスポーザーと並んで、キッチンに欠かせない設備になりつつあるのが、食器洗い乾燥機(食洗機)です。ひと昔前まで、標準設備として設置されているのは高額物件でしたが、最近は5,000万円台、4,000万円台クラスまで標準化が進んでいます。ビルトインされていない物件でも、後付けできるようにキッチン下などにスペースが確保されているマンションが増えています。
食洗機はアメリカの電機メーカーGEが20世紀の初めに開発し、キッチンスペースの広いアメリカでは、早くから普及が進みました。日本では1960年代に松下電器産業(現在のパナソニック)が販売を開始しましたが、広いスペースが必要な上に価格が高いこともあって、なかなか普及しませんでした。
日本のマンションで広がり始めたのは、1980年代後半にコンパクトタイプが登場し、価格が下がり始めてから。そして1999年、前方に引き出すプルオープンタイプが登場し、普及に弾みがつきました。その結果、現在では一定価格帯以上の物件では標準化が進んでいます。
床暖房の設置率は規模にかかわらず8割を超える
「グランスイート」シリーズのマンションを展開する丸紅都市開発が、同社マンションに住んでいる人を対象にした調査によると、「入居前に、魅力を感じた専有部設備」「入居後に、満足度の高い専用部設備」ともに、床暖房がトップに挙がったそうです。
日本でマンションに床暖房が採用されるようになったのは、1970年代のこと。1980年代にフローリング用の床暖房が開発されてから、本格的に広がりました。現在では、前出の図表1にあるように、マンションの規模にかかわらず採用率は8割を超えています。
参考:丸紅都市開発「入居前も後も大満足!人気の専有部設備ランキング1位は?」
床暖房には床下に温水を回して温める温水式と、電気で温める電気式があります。温水式は室内に火気がなく、省エネ性能も高いため、オール電化ではないマンションの場合には、温水式が採用されることが多いようです。
温水式の床暖房の代表格である東京ガスのガス温水システムTES(テス)の仕組みは下図の通りです。高効率給湯器で作った湯を各部屋に循環させ、浴室やキッチンなどに給湯し、各部屋で床暖房や浴室暖房乾燥機などとして機能、住まい全体を快適にするセントラルシステムになっています。
防犯システムは指紋認証、顔認証の時代に
マンションが戸建てに比べて優れている点の一つとして、一般的に挙げられるのが防犯性能の高さです。1970年代にはエントランスのオートロックシステムが高級マンションを中心に広がり、1980年代には大規模マンションでセキュリティー会社と提携した監視システムが定着、さらに、電子キーも広がりました。2000年前後にピッキング、サムターンまわしなどによる侵入盗が問題になったときには、防犯性の高いディンプルキー、ダブルキーなどが採用されました。
コロナ禍では、非接触型のエントランスキーや住戸キーへの関心度が高まっています。かざすだけで入館、入室が可能なので、安全・安心であるだけではなく、大きな荷物を持っているとき、小さな子どもを連れているときでもスムーズに入ることができます。
前出の図表1にあるように、非接触型のエントランスキーを採用するマンションが増えていますが、住戸キーについてはまだまだです。非接触型にすると、玄関ドアの近くにキーを置くとドアが開いてしまうというリスクがあるため、その改善が大きな課題になっているそうです。
さらに、各住戸ドアなどで指紋認証、顔認証などの先端技術が導入されるようになってきました。しかし、それでも前の人に付いていけば認証を受けなくても不法侵入を許すリスクがありますから、最も安心なのは人の目でしょう。富裕層向けの超高額物件では、居住者全員の顔と名前が一致するコンシェルジュが24時間駐在して、外部の人間の侵入を防いでいます。いずれは、それも機械が果たしてくれる時代が来るのでしょうか。
冷凍品も宅配ボックスで受け取れるようになる!?
最後に、コロナ禍で注目されているマンションの共用設備として宅配ボックスを挙げることができます。非接触で荷物を受け取ることができるだけでなく、最新の宅配ボックスには荷物の発送ができるタイプもあります。
日本に宅配ボックスが登場したのは1980年代のことですが、マンションでの普及が本格化したのは2000年に入ってからです。特に、2010年代には再配達の削減による、宅配便ドライバーの負担軽減、CO2排出量削減という観点からも、宅配ボックスの設置への関心が急速に高まりました。今では、前出の図表1にあったように、新築マンションでは規模にかかわらず、100%設置されるようになっています。
それでも、宅配便の利用が増えボックスが常に満杯になってしまうと、再配達削減効果が薄れてしまいます。そのため、このところ、メールボックスと一体となった全戸の宅配ボックスを設置するマンションや、各住戸の玄関脇に全戸設置するマンションなどが登場しています。
そんな中、最大の課題は冷蔵・冷凍食品の扱いです。2021年10月現在、冷凍食品を扱える宅配ボックスが設置されたマンションはありませんが、パナソニックが冷凍食品の受け取り可能な商品を開発、2021年1月から東急不動産と協力して実証試験をスタートしています。近いうちに冷凍食品の受取り可能な宅配ボックスが登場することになるのではないでしょうか。
時代に合わせてさまざまな設備が開発される
時代のニーズに合わせて、マンションには新たな設備が登場し、進化しています。現在もコロナ禍という未曽有の事態に対応して、非接触キー、冷凍食品も受け取れる宅配ボックスの開発などが進んでいます。
今後も大きな社会変化によって課題を解決するために新たな設備が生み出されていくことでしょう。私たちの生活はいっそう安全・安心で便利になっていくことが期待できます。どんな設備が登場するのか楽しみです。