住宅購入の判断に大いに関係する住宅ローン。不動産や金融についてその業界の人に匹敵する知見をもつ、公認会計士ブロガー千日太郎さんが、連載形式で住宅を買う側・住宅ローンを借りる利用者側の視点で情報発信。2021年10月の住宅ローン金利について世界情勢や国内金融市場にインパクトを与えそうな事柄を踏まえ、解説いただきます。
2021年6月から9月までは新型コロナウイルスの感染再拡大に伴い長期金利が低下していき、連続して【フラット35】の金利は下がり続けてきました。
東京オリンピックが閉会した後、9月3日には菅首相が自民党総裁選への不出馬、事実上の辞意を表明しました。これに伴い9月5日の時点で株価は約2ヶ月ぶりの高値を付けており長期金利が上昇しています。2021年10月の【フラット35】金利について動向を予想します。
株価の高騰と長期金利の動向
2021年5月20日から2021年9月3日までの日経平均株価と長期金利の動向をグラフにしました。
青い折れ線グラフは日経平均株価、オレンジの折れ線グラフは日本の長期金利を表しています。6月から8月にかけての日経平均株価と金利は概ね同じペースで下がり続けてきました。先行きの不透明な状況を反映してリスク資産の株式が売られて株価が下がり、そのお金で比較的安全資産とされる債券が買われ、債券価格が上がる(金利が下がる)ということです。
しかし、9月3日に「菅義偉首相が辞任の意向 総裁選も不出馬」という衝撃的なニュースが発表されたことで、日経平均株価は6月ぶりに2万9千円を突破しました。この株高に反応して相対的に安全資産とされる債券には売りが優勢となり、9月3日の長期金利終値も上昇しましたが、株価ほどの急伸とはなっていません。
この株価上昇の背景には、過去約30年で衆院解散実施日から総選挙の投開票日までの期間中の株価はほぼ上昇してきたという経験則によるものだと思います。日本経済新聞が9月2日の朝刊で公開しているデータによると、過去10回の解散総選挙における解散実施日から総選挙の投開票日までの株価指数は日経平均株価については10回すべて、TOPIXについては10回中9回が上昇しているとのこと。高い関連性があるようです。
今後の長期金利の動向と【フラット35】の2021年10月金利動向の関係
執筆している9月5日の時点で自民党総裁選スケジュールは未定のようです。しかし実施時期が多少前後しても、前述の経験則に当てはめれば少なくとも9月末までの株価は高値を維持する見込みが高いと言えそうです。
株高となると、その株を購入するために比較的安全資産とされる債券は売られて債券価格が下がります。債券価格と金利(利回り)の間には負の相関関係があり、逆方向に動きます。債券価格が上がると利回りが下がり、債券価格が下がると利回りが上がるのです。つまり、今後9月末までの長期金利は上昇傾向となる可能性があるということです。
今後の長期金利が上昇するならば、2021年10月の【フラット35】の金利についても9月と比べて上昇する可能性があります。
【フラット35】(買取型)の資金調達の仕組み(※記事最下部参照)からすると、住宅金融支援機構が毎月発行する機構債の表面利率が発表されるタイミングで長期金利が上がっていると、機構債の表面利率が下がるため、【フラット35】の融資金利も上がるのです。
過去の長期金利の推移と【フラット35】の金利推移
2021年6月から9月の長期金利と【フラット35】買取型の金利推移を振り返ってみましょう。青い棒グラフ(左の軸)が【フラット35】買取型で、オレンジの折れ線(右の軸)が長期金利です。
長期金利(オレンジの折れ線)の縦軸は0.4%とし、【フラット35】買取型の金利(青い棒グラフ)の縦軸も0.4%としてレンジを合わせています。2021年6月から9月までの長期金利の変動幅と【フラット35】の変動幅はほぼ合致しています。
前述したとおり株価上昇が長期金利に波及してきており、このまま長期金利が上昇したならば、10月の【フラット35】の金利は9月より若干高めで推移する可能性があります。
先行きが不透明な局面ではゆとりある計画を
菅首相が辞任を表明したことによって一時的に株価が高騰しており、長期金利は上昇が予想されます。しかし、そもそも金融市場の金利動向はセオリー通りに動くとは限らず、特にコロナ禍においてはシンプルにセオリーだけで説明することが難しい金利動向が観測されています。
突発的な事象で金利が上昇しても、その月に住宅ローンの実行となれば、高い金利で借りなければならないことがあります。想定外の上昇でもある程度吸収できる、無理のない資金計画を立て、実行していく必要があります。住宅ローンの返済計画は無理せず、出来るだけゆとりのあるものにするようにしてください。
※参考【フラット35】(買取型)の資金調達の仕組み
住宅ローンの【フラット35】(買取型)は、上図のように住宅金融支援機構が民間金融機関から債権を買い取って証券化し、機関投資家に債券市場を通じて機構債という形で販売するという仕組みになっています。この機構債は毎月20日前後に表面利率を発表し募集します。投資家たちは機構債を安全資産という考えで購入しますので、その表面利率は10年国債の利回り(長期金利)に連動する傾向があるのです。
※本記事は、執筆者の最新情勢を踏まえた知識や経験に基づいた解説を中心に、分かりやすい情報を提供するよう努めておりますが、内容について、弊社が保証するものではございません。