この秋、銀行が相次いで振込手数料を引き下げようとしています。今回、各銀行のプレスリリースから、どのくらいの引き下げ幅になるのかを調査しました。さらに今回の振込手数料の引き下げにはどのような背景があるのか、私たち消費者はどのように考えていくべきなのかをまとめました。
2021年秋から振込手数料が引き下げへ
2021年秋以降、「他行口座宛て」の振込にかかる手数料の値下げを発表する銀行が、大手銀行を中心に相次いでいます。値下げの幅や対象となる振込方法は、銀行によってさまざまですが、具体的に見ていくことにしましょう。
まずは、3大メガバンクである、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行から。
振込金額3万円未満では値下げ幅が55円〜70円、振込金額3万円以上では110円〜120円値下げされます。
次に、ゆうちょ銀行の手数料を見てみましょう。
窓口およびATMによる振込手数料が据え置かれている点、ならびにネットバンキング(ゆうちょダイレクト、ゆうちょBizダイレクト)の手数料が一律165円に引き下げられている点が、3大メガバンクと異なる点です。
引き下げ額は、55円から275円となります。
ネット銀行も見てみましょう。
ネット銀行の多くは、対面の店舗を持たず、インターネット上での取引を中心に営業しています。パソコンやスマートフォンを利用して取引できるため、店舗を持つ銀行と比べて、ATM利用手数料や振込手数料が安いのが特徴です。
ネット銀行も他行宛て振込手数料の改定が相次いで発表されています。引き下げ額は、銀行によって55円から184円とさまざまです。
50年近く続いたルールがようやく変更に
今回の振込手数料引き下げは、国からの要望を受けたものという側面があります。
公正取引委員会が2020年4月21日に発表した報告書において、キャッシュレス決済に関する実態調査が行われました。報告書の中には、銀行間の振込取引の仕組みと現状の問題点についても記載されていました。
まず、銀行間における送金の仕組みを、図で確認しましょう。
送金の際に発生する、金融機関のコストは、2つあります。
1つ目のコストは「システム経費」です。A銀行からB銀行へ送金を行う際には、全銀ネットというシステムを利用します。そのため、A銀行およびB銀行の両社とも、全銀ネットへ利用料を支払うのです。
2つ目のコストは「銀行間手数料」です。A銀行がB銀行に対して、送金に係る手数料を支払います。
今回の報告書では、2つ目のコスト「銀行間手数料」について、「事務コストに対して金額が高過ぎる」とメスが入ったのです。
「銀行間手数料」は、1件当たりの振込金額が3万円未満の場合は117円、3万円以上の場合は162円と設定されています。この金額は、全銀ネットが運用を始めた1973年(昭和48)4月から現在まで、50年近くも見直されてきませんでした。
その一方で、銀行へのヒアリングでは、「送金を受ける際の事務コストは、現在では100円もかからない」「銀行間手数料の金額は高過ぎると思う」「なぜ銀行間手数料が発生するのかわからない」という声が挙がっていました。
これらの指摘を受けて制度の見直しが行われ、銀行間手数料は10月1日から送金額にかかわらず、振込1件当たり一律62円となります。この見直しを受けて、各銀行は、他行宛ての振込手数料を引き下げることにしたわけです。
振込手数料の引き下げが、消費者に与える影響は?
消費者の側から見ると、振込手数料の引き下げはコストの低下に直結するので、良い話と言えるでしょう。その一方で、銀行の側から見ると、振込手数料に代わる新たな収入源を見つける必要が出てくるかもしれません。
多くの銀行では、新しく口座を開設する利用者に対して、別に手数料を設けるという流れも生まれています。主なものとしては、以下の2点です。
・紙の通帳を発行する際に、手数料を徴収する
・長期(2年以上)にわたり利用がない口座に対して、管理手数料を徴収する
また、ゆうちょ銀行は上記に加えて、既存の利用者に対してもさまざまな手数料を設定しています。
このような点を踏まえると、「どの銀行と付き合っていくか」だけでなく、「同じ銀行でも、どう利用していくか」という点も考えていく必要がありそうです。
預貯金の超低金利状態が続く昨今、10円、20円の手数料の違いもバカにできません。最新情報を収集しながら、比較検討していくことが重要でしょう。