世界各国で変異ウイルスの感染拡大が続いており、日本国内でも新規感染者や重症者の増大が連日報じられています。一方で、ワクチン接種が着実に進んでいることも報じられており、コロナ禍がいつ収束するのかにも注目が集まるところ。今回はワクチン接種が進むにつれて私たちの消費に何か変化があったのかを見ていきたいと思います。
コロナ禍で家計は依然として厳しい
まず、消費の源泉となる私たちの給与の状況を見ていきましょう。厚生労働省が発表している「毎月勤労統計調査」からコロナ禍(2020年1月~2021年6月)における現金給与総額の推移を見ていきます。1つ注意してほしいのは、通常は前年同月比の数字を使うのに対し、今回は2年前同月比の数字を使っていることです。これはコロナという特殊要因を考慮してコロナ前との変化を明確にするためにしています。
下図を見てみると、コロナ禍において現金給与総額は減少している月がほとんどだということがわかります。これだけ給与が下がれば消費が減るというのは容易に想像できますが、実はデータ以上に家計は厳しい状況にあると思っています。
現金給与総額が減少している理由の一つが所定外労働時間の減少によるものです。在宅勤務が普及したこともあり、残業時間が減り、それに伴って企業から支給される残業代が減少したということです。しかし、在宅勤務だからといって、本当に残業は減ったのでしょうか。むしろ、常にオンライン上で仕事をするため、夜中でも早朝でもSlackやChatworkでメッセージのやり取りをしたり、ZoomやTeamsで隙間時間に何度も会議をしたりしていないでしょうか。
このように、実際に働いているのに残業としてカウントされずに、事実上サービス残業をしている人は多いと思います。こうなってしまうと、給与を正確な労働時間で時給換算すると、上図のデータ以上に給与が下がっていると思います。
コロナ禍において消費される品目は変わらず
それでは、外出に制約があり、かつ前述のように給与も減少傾向にあるコロナ禍において、私たちはどのような品目に支出をしているのでしょうか。経済産業省が発表している「商業動態統計」のデータから、身近なドラッグストアの商品別の販売額の推移を見てみましょう。消費増税やコロナといった特殊要因の影響を除くため、2016年から2018年の平均値をベースラインとして、そこからの乖離率(かいりりつ)を図にしたものが下図です。
やはり、コロナ禍ということもあり調剤医薬品が大きく売れていますが、外食産業が夜間の営業を自粛していることや、在宅勤務の普及など「おうち時間」が増えた影響もあり、食品や日用品も売れています。
一方で、外出の機会が減ったことや、外出をしたとしてもマスクをすることが一般的なこともあり、化粧品などの売り上げは芳しくありません。
徐々にワクチン接種の影響は出ている
このような消費動向はなんとなく予想できる内容かもしれません。それでは、ワクチン接種が進むことによる変化はあったのでしょうか。首相官邸のウェブサイトで発表されているデータを見てみると、6月から急速に接種率が上昇していることがわかります。
総務省が発表している「家計調査(二人以上の世帯)」において、品目別の消費支出をグラフにしたものが下図です。マスクなどを含む保健用消耗品がコロナ禍においては消費支出の対象になっていることは理解できると思いますが、注目すべきは今年の5月、6月から感冒薬への支出が増えていることでしょう。
この品目は風邪薬を意味しますが、解熱鎮痛剤も含まれています。ワクチンでは副反応が出る人も多く、SNS上では接種後に解熱鎮痛剤を買ったという投稿もよく目にします。それが統計にも表れたと考えられます。また、外出を伴う整骨・鍼灸院への治療代も直近では徐々に増えていますが、これは優先的にワクチンを接種していた高齢者の影響かもしれません。
消費が二極化している可能性
コロナ禍が私たちの消費に変化を生じさせ、ワクチン接種が進むことによってさらなる変化が生じ始めています。消費の変化として、実はここ最近で若年層と高齢者の間で消費の二極化が起きている可能性も出てきました。クレジットカードの決済データや携帯電話の位置情報を見ていくと、高齢者が優先的にワクチン接種を受け始めた5月は高齢者の消費や移動が活性化していましたが、最近ではむしろ若年層や現役世代の消費の方が目立っています。
感染拡大に伴い国内の医療資源もひっ迫する中、「症状の重篤化リスクなどを考えると、ワクチンも3回目を打つ方がいい」、「デルタ株にはそれほど効果がない」などの情報をテレビやネットで目するなかで再びリスク回避的な動きに転じているのかもしれません。依然として東京をはじめとする大都市では緊急事態宣言も延長され続けており、少なくとも年内は消費が本格的に回復していくというシナリオは現実的ではないでしょう。