住宅購入の判断に大いに関係する住宅ローン。不動産や金融についてその業界の人に匹敵する知見をもつ、公認会計士ブロガー千日太郎さんが、連載形式で住宅を買う側・住宅ローンを借りる利用者側の視点で情報発信。2021年9月の住宅ローン金利について世界情勢や国内金融市場にインパクトを与えそうな事柄を踏まえ、解説いただきます。
2021年4月から8月までは経済正常化への期待が後退するに伴い、長期金利が低下。連続して【フラット35】の金利は下がり続けてきました。
新型コロナウイルスの感染者数が連日最多数を更新するなかで開催された東京オリンピックが閉会しました。この状況で2021年9月の【フラット35】金利はどうなるのでしょうか、その動向を予想します。
日米長期金利の動向
2021年4月1日から2021年8月9日までの日米長期金利の動向をグラフにしました。
オレンジの折れ線グラフは日本の長期金利、青い折れ線グラフは米国の長期金利の推移を表しています。米国の金利が高いので、同じグラフ内に表示するために縦軸のベースとなる金利を変えていますが、目盛りのレンジは同じにしています。
日米ともに長期金利は右肩下がりとなっていますが、米国の長期金利がより大きく下がっています。
特に2021年6月あたりからの低下が著しいのですが、これはFOMC(米連邦公開市場委員会)が、2023年末までに2回の利上げに動く可能性を表明した時期にあたります。
通常、中央銀行が利上げを示唆し、金融緩和政策を縮小する可能性を示唆すると、債券が売られて長期金利が上がるのがセオリーです。しかし、これを境に債券が買われて債券価格が上がり、長期金利は下がったのです。
セオリーから外れて債券がさらに買われている背景には、各国政府がコロナ関連の巨額の財政出動を行ったことによって経済の市場には大量の資金が供給されており、それが飽和状態になっていることがあると考えています。これらの資金は株や不動産、投資信託などに投入され、不況にもかかわらず価格相場が上昇することが世界中で起きていて、「コロナバブル」と呼ばれています。
コロナバブルによる株価高騰は2020年末ごろから顕在化しています。既に業績が上がっている企業は株価が本来の企業価値以上に高値を付けている状態で、株を買い増すことができない状態になっています。そこで行き場を無くした資金が安全な債券に流れているのです。
債券価格が上がると利回りは下がります(負の相関関係)。つまり米国の長期金利が下がっているということは、米国の国債が上がっていることを意味します。
最近になって長期金利の低下が止まったということは、そろそろ債券価格も上限に近いということでしょう。
そしてこの動きは日本の長期金利にも波及しています。同じ期間の日本の長期金利をクローズアップしてみました。
米国の長期金利は2021年6月から低下していますが、日本は4月からすでに右肩下がりで推移しています。さらに6月から大きく低下しているのは、米国の長期金利の低下が波及したものと思われます。
そして7月に入ってから8月上旬にかけては0.01から0.02%の間で概ね横ばいで推移しています。記事の執筆時点においてはマイナス圏にまで下がる勢いはなく、米長期金利の低下が止まったのとリンクしているようです。
今後の長期金利の動向と【フラット35】の2021年9月金利動向の関係
日本の長期金利が概ね横ばいで推移するならば、2021年9月の【フラット35】の金利についても8月から横ばいとなる可能性があります。
【フラット35】(買取型)の資金調達の仕組み(※下記に詳細を解説しています)からすると、住宅金融支援機構が毎月発行する機構債の表面利率が発表されるタイミングで長期金利が下がっていると、機構債の表面利率が下がるため、【フラット35】の融資金利も下がるのです。
過去の長期金利の推移と【フラット35】の金利推移
2021年5月から8月の長期金利と【フラット35】買取型の金利推移を振り返ってみましょう。青い棒グラフ(左の軸)が【フラット35】買取型で、オレンジの折れ線(右の軸)が長期金利です。
長期金利(オレンジの折れ線)の縦軸幅、【フラット35】買取型の金利(青い棒グラフ)の縦軸幅も0.4%に合わせています。2021年5月からの長期金利の変動幅と【フラット35】の変動幅はほぼ合致しています。
前述したとおり長期金利は下がってきており、7月からは横ばいになっています。このまま長期金利が横ばいで推移したならば、9月の【フラット35】の金利は8月から概ね横ばいで推移していくことになるでしょう。
日々の金利動向に目を配っておくこと
東京オリンピックは無観客で開催され、無事に閉会しましたが、国内では人流の増加に伴って新規感染者数の増加が止まらず連日最多数を更新しています。内閣支持率は節目の30%を下回っており、国内では依然として景気回復への道筋は見えていません。
しかし、金融市場の動向についてはもとから不確定要素が大きいうえにコロナ環境下ということで、さらに予想が困難となっているのが今の状況です。複数の金融機関、金利タイプで審査を通しておき、日々の金利動向に目を配っておくことをお勧めします。
また、コロナ禍で自分の収入が減ってしまったとしても継続できる、無理のない資金計画を立て、実行していく必要があります。住宅ローンの返済計画は無理せず、出来るだけゆとりのあるものにするようにしてください。
※【フラット35】(買取型)の資金調達の仕組み
住宅ローンの【フラット35】(買取型)は、上図のように住宅金融支援機構が民間金融機関から債権を買い取って証券化し、機関投資家に債券市場を通じて機構債という形で販売するという仕組みになっています。この機構債は毎月20日前後に表面利率を発表し募集します。投資家たちは機構債を安全資産という考えで購入しますので、その表面利率は10年国債の利回り(長期金利)に連動する傾向があるのです。
※本記事は、執筆者の最新情勢を踏まえた知識や経験に基づいた解説を中心に、分かりやすい情報を提供するよう努めておりますが、内容について、弊社が保証するものではございません。