いつのまにか軒先にハチの巣ができていた…という経験のある人は多いのではないでしょうか。刺されると痛いし、命に関わることもあるため早々に駆除したいものですが、業者が来るまでに時間がかかる場合もあります。そこで今回は、アース製薬研究部の有吉立さんへの取材をもとに、ハチの巣を見つけた際の対処法や刺された時の応急処置、そもそも巣を作らせないために何をすべきかについて解説します。
こんなお宅は要注意! ハチが巣を作りやすい環境とは?
日本において、人の近くにいる代表的なハチは、ミツバチ、アシナガバチ、スズメバチの3タイプ。
ハチは、風雨が防げるところに巣を作ろうとします。
ミツバチは、屋根裏や樹木の空洞などの閉鎖空間を好んで巣作りをします。
軒下や木の枝に巣を作ることが多いのはアシナガバチです。育房と呼ばれる六角形の小さな部屋がむき出しになった形状で、ハチの巣というと、このアシナガバチの巣をイメージする人が多いかもしれません。
スズメバチは、軒下や木の枝、がけ、屋根裏、樹木の空洞などに、球状の巣を作ります。スズメバチは穴から出入りしており、外から育房は見えません。
戸建住宅は、ほとんどのお宅に、軒先や木の枝、屋根裏などがあるため、ハチが巣を作りやすい環境であるといえます。
ハチの巣を発見! とっさの対処法は?
いずれのハチも、巣を発見したら、まずは近づかないようにしましょう。もし、うっかり接近してしまった場合は、刺激しないように気を付けて、なるべく距離をとることが大切です。
ハチの攻撃性は、種類によって違います。それぞれの特性を知っておくと、対処に役立ちます。
・ミツバチ
ミツバチは、一度刺すと針がちぎれて死んでしまいますが、その際に興奮物質が出て拡散され、仲間が大群で襲ってくる可能性があります。
・スズメバチ
最も攻撃的なのはスズメバチ。時期によっては、巣に近づくだけで働きバチに威嚇され、それを払いのけたりすると、警戒フェロモンが出て仲間が興奮し、集団で襲ってくることもあります。スズメバチは、何度も刺してくるためとても危険です。ふいに遭遇してしまっても、騒いだりするのは禁物です。大きな音や急な動きに反応するので、低姿勢でゆっくり、静かに後ずさりしてその場を離れましょう。
・アシナガバチ
アシナガバチは、スズメバチほど攻撃的ではないものの、急に接近したり、刺激を与えたりすると刺すことがあります。
自分で駆除できる? 自信がないなら専門業者へ
巣のでき始めの時期であれば、エアゾールタイプの駆除剤を使い、飛んでいるハチや巣を駆除するという手もあります。ただし、駆除剤を中途半端にかけた場合、逆に興奮させてしまうこともあるので、スプレー缶を全部使い切るつもりで駆除するようにしましょう。駆除中にスプレー缶が空になった場合も同様に危険なので、余分に用意しておくこともとても大切です。
駆除剤は、商品説明をよく読み、ハチの種類ごとの使用方法を厳守して使ってください。スズメバチの巣なら、専用の防護服などを着用して行う必要があります。防護服は、貸し出している自治体があるので、調べてみるといいでしょう。いずれにしても、駆除には危険が伴い、準備作業も煩雑なので、慣れていない場合や自信がない人は、専門業者に依頼するのがおすすめです。屋根裏にハチの巣を発見した場合も、速やかに専門業者に相談してください。
エアゾールタイプの駆除剤を使う時のポイント
[スズメバチ]
●防護服、手袋、長靴、保護メガネを着用する
●日没後に行う
●実施前に巣を振動しない
●25㎝以上の巣は駆除エサ剤を使うか、業者に依頼する
[アシナガバチ]
●白い服装に白い帽子を着用し、できるだけ皮膚の露出を少なくする
●ハチが巣にいて活発でない夕暮れ時から明け方に行う
[ミツバチ]
●一般的に駆除の対象ではありません
知っておこう! 刺された時の応急処置
ハチに刺されると痛みが出て、刺されたところが赤くなります。特にスズメバチは、毒性が強く、刺されるとひどく腫れあがります。たくさん刺された場合は重症化するケースもあるので注意が必要です。さらには、刺されたために抗体ができ、次に刺された際に激しいアナフィラキシーショックが起きて、命をおびやかす全身症状が現れることもあります。
日本では、ハチに刺される被害が増えるのは9~10月ごろ。1年に平均30~40人の尊い命が失われています(出典:アース製薬「害虫と虫ケア用品の基礎知識」)。
ハチに刺されたら、毒を絞り出すようにして、患部を流水で洗い流します。この時、口で毒を吸い出すのは危険なのでやめてください。しっかり洗い流したら、冷やしておくといいでしょう。心配であれば、早めに病院で診てもらうこと。特に刺されるのが2回目なら、念のための受診をおすすめします。
ちなみに、ハチは、黒い色を襲ってくるといいますが、正しくは、色のコントラストに反応しています。明るい昼間は、黒い服を着ていると感知されます。夜間はその逆で、黒い服は、ハチにとっては目立たない色となります。
ハチが巣を作るのを未然に防ぐには? “予兆”を素早く察知しよう
恐がられることの多いハチですが、イモムシなどの害虫を捕食してくれる益虫であり、私たちは「はちみつ」という恩恵も享受しています。むやみに害虫扱いするのではなく、人の生活圏に巣を作らせないよう工夫してみましょう。
そのために知っておきたいのが、ハチの巣予防のタイミング。女王蜂は、4月~6月中旬ごろ、たった1匹で巣作りを始めます。その時季に、軒下や庭木など、巣を作りそうなところに、市販のハチ用忌避剤を施しておくのは、大変有効です。
また、この頃の女王蜂は、攻撃性が低いため、駆除のねらい目です。巣作り前の女王バチを捕らえて鈴栗を防止する捕獲機のほか、巣作り阻止効果が1カ月ほど持続するエアゾールタイプの駆除剤もあり、これなら再発も防止できます。特に、アシナガバチは、同じ場所に巣を作る習性があるので、過去に巣を見つけた場所には、早めに処置しておくといいですね。
5月中旬~9月、働きバチが誕生し、共同で巣作りする最中は、攻撃的になっています。「最近ハチが多いな…」思った時は、すでにある程度の大きさの巣ができていると思って間違いありません。
ハチの巣の対策は、予兆に気づいたり、早期に対処したりすることが肝心です。女王蜂の単独営巣期であれば、1匹の駆除で済みます。自宅の外回りや幼稚園、小学校などの周辺、通学路などは、定期的に点検しておきましょう。
まとめ
恐いからといって、自然界に存在しているハチを無理に駆除する必要はありません。正しい知識を持ち、早めの対策や対処を心がければ、被害を未然に防いだり、最小限に抑えたりすることが可能です。それでも身近に巣ができてしまったら、専用の駆除剤の活用や、専門業者への相談を検討しましょう。
【取材協力】
アース製薬研究所生物研究課
課長 有吉立さん
東京の美術専門学校を卒業後、家具店店員、陶芸教室講師などを経て入社し、害虫の飼育員になったという、珍しい経歴の持ち主。
有吉さんが働く研究所があるのは、兵庫県赤穂市。瀬戸内海に面した風光明媚な場所に建つ近代的な施設で、ゴキブリだけでも18種100万匹を飼育。ほかにも、蚊とハエで10万匹、ダニ1億匹など、約100種の害虫を飼育し、研究しています。
著書に幻冬舎刊「きらいになれない害虫図鑑」があります。