2022年NHK大河ドラマの主人公は、北条政子の弟で2代執権となった北条義時。鎌倉も舞台の一つになります。鎌倉に源頼朝が幕府を開いて800年超。禅寺など鎌倉時代から継承された独特の文化が残り、年間2,000万人前後が訪れる人気のエリアとなっています。今回は、古都・鎌倉での暮らしと住宅事情について紹介します。
86.9%が「住み続けたい」。地元の人に愛される街・鎌倉
「三方向を山に囲まれ、一方向が海」という敵から守りやすい鎌倉の地形を選んで、源頼朝が街づくりを進めたのはよく知られた話です。「鎌倉」駅を降りて街を歩くと、今も鎌倉を囲う山々の自然が目に入ります。
鎌倉へ入る道として山や丘を掘削して作った古道「切通し」がいくつもあり、一部は今も鎌倉へアクセスするための道路として使われています。
日本で初めて本格的な武家政権が誕生した鎌倉では、鶴岡八幡宮をはじめ建長寺や円覚寺などの歴史ある寺社が多く残っています。また、明月院や長谷寺はアジサイでも知られ、花の時季は多くの人の目を楽しませてくれます。
鎌倉は、1889年に横須賀線(「大船」駅−「横須賀」駅)、1910年に江ノ島電気鉄道(「藤沢」駅−「鎌倉」駅)が開通し、政財界人や文化人の別荘地・保養地として発展しました。
高度成長期に都市近郊のベッドタウンとして宅地需要が高まりますが、鶴岡八幡宮の近くで宅地造成計画が持ち上がると、一般市民や僧侶、文化人、学者らが景観を守る運動を展開。「古都保存法」の制定につながりました。
1966年に制定された「古都保存法(古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法)」では、古都における歴史的風土を保存するために必要な土地を歴史的風土保存区域として指定。そのなかでも特に重要な地域を歴史的風土特別保存地区に指定しています。歴史的風土特別保存地区では、新たな建築物の建築や土地の造成などは許可されません。
さらに、開発や建設に関するさまざまな指導要綱を定め、鎌倉市街づくり条例などの制定によって自然を守り、無秩序な建設事業を防いでいます。
こうした結果、鎌倉の誇る歴史的景観は今に受け継がれています。鎌倉市の玄関口でもある「大船」駅は、鎌倉市と横浜市が交わる市境がありますが、高い建物があるのは横浜市側です。
2019年度に実施された「鎌倉市民意識調査」によれば、「鎌倉に住み続けたい」と回答した人が86.9%にも上ります。その理由としては、「住み慣れていて愛着がある」が45.4%、「緑や自然が豊か」が23.5%でした。
こうした環境を守る施策によって、鎌倉市の人口は抑制されています。鎌倉市発表の「人口と世帯の推移」によると、鎌倉市の人口は1989年は17万5,769、2020年は17万2,948と途中増減はあるものの、ほぼ横ばいで推移しています。2021年1月以降の鎌倉市の人口データ見ると、転入が転出を上回る月がほとんどです(2021年5月のみ転入・転出が同じ人数)。
【鎌倉市のデータ】
市制施行日…1939年11月3日
総面積…39.67平方キロメートル
海岸線延長…7.00キロメートル
人口…17万2,948人(2020年)
世帯数…7万5,859世帯(2020年)
自然や歴史が残る街
鎌倉への主要アクセスは、東京都心とも結ばれる「大船」駅から三浦半島の「久里浜」駅を結ぶJR横須賀線です。「東京」駅までは、「鎌倉」駅から50分台でアクセス。湘南新宿ラインも乗り入れがあり、「新宿」駅へも1時間足らずで移動できます。
鎌倉市の中心「鎌倉」駅を訪ねれば、9割近くの人が鎌倉に住み続けたいと思うのが理解できます。緑に囲まれた山々に青い空。駅から南下すると由比ヶ浜や材木座海岸の浜辺が広がります。国道134号線を江の島方面に向かう途中には七里ヶ浜や腰越海岸もあり、一部エリアでは海水浴やサーフィンなどのマリンスポーツも楽しめます。
歴史や自然が残る鎌倉は、多くの文学者のゆかりの地としても知られています。川端康成をはじめ、明治以降多くの作家・詩人・歌人などが居住・滞在し、創作活動を行いました。1985年には鎌倉市に寄贈された旧前田侯爵家の別邸(国登録有形文化財)を活用し、鎌倉ゆかりの文学の常設展示を行う鎌倉文学館がオープンしています。
こうした文士に愛された土地柄もあってか、食が充実しているのも「鎌倉」の魅力。「鎌倉」に拠点を持つ人に話を聞くと、老舗の名店やおいしいレストランが多いとのこと。明治創業の鳩サブレーで有名な豊島屋本店、ホットケーキで知られる1945年創業のイワタコーヒー店など歴史ある店が立地しています。
また、鎌倉ハムの創業地としても知られ、海に寄り添う立地だけに新鮮な食材も多いとのこと。「鎌倉」の繁華街である小町通りには、多彩な飲食店や食事処が並んでいます。また、北鎌倉などには、古民家を利用したレストランやカフェも多く、食だけでなく心地の良い時間を楽しめます。
海、山、自然、歴史、レジャー、食とさまざまな楽しみがあるのは、鎌倉で暮らす大きな魅力と言えるでしょう。
マンションは低層かつ小規模なものが中心。「鎌倉」駅周辺は高根の花
「鎌倉」駅周辺は住宅用地が限られ、かつさまざまな規制があるため新築マンションの供給戸数は限られます。2020年に若宮大路沿いの好立地で供給されたマンションは、地上5階建ての全23戸。駅徒歩5分圏としては10年ぶりの供給で、分譲された全戸が販売価格1億円以上の億ションでした。にも関わらず、事前反響が1500件を超えるなど注目を集め、モデルルームの正式オープンから2カ月で完売する人気ぶりでした。
鎌倉市内でのマンション供給は規制が厳しく、マンション適地の少ない「鎌倉」駅周辺よりも「大船」駅などが主体です。「鎌倉」駅周辺のマンションは居住用だけでなく、セカンドハウスとしての需要もあります。他県からの購入が多い点は京都にも似たマーケットです。
若宮大路を歩くと、鎌倉市が景観を大切にしていることがよく理解できます。たとえば2012年に建てられた鎌倉警察署は、3階建ての低層の作りで格子をファサードに施し、まるで美術館のようです。鎌倉市景観計画では、鎌倉地域などの旧市街地の住宅地は接道部の緑化の充実を図るなど景観形成基準が設けられています。
「鎌倉」駅周辺は新築マンションの供給が限られています。中古マンションも駅から近い場所で販売されている物件は少なく、駅から離れた立地やバス便エリアが流通の中心です。価格は築20年程度かつ徒歩20分程度の3LDKなら4,000万円台から検討できます。
戸建ても「鎌倉」駅周辺で物件を見つけるのは難しく、江ノ島電鉄線や湘南モノレール線沿線、JR横須賀線「北鎌倉」駅の中古戸建てが流通の中心です。こちらは、土地面積132平方メートル程度の3LDKを3,000万円台から探すことが可能です。
また、JR横須賀線「大船」駅周辺では、大型商業施設「グランシップ(GRAND SHIP)」と一体で整備されたマンションが分譲されるなど新築マンションの供給が活発です。「北鎌倉」は隣駅、「鎌倉」へは2駅で行けますが、新築マンションの価格は、80平方メートル台が5,000万円台で購入可能。中古マンションなら駅徒歩約20分、築20年前後、3LDKタイプが4,000万円前後で購入可能です。鎌倉を楽しむ拠点として「大船」駅周辺を選ぶのも良いかもしれません。
鎌倉市は「大船」駅や「鎌倉」駅を除くと「北鎌倉」駅のように買い物施設が少ない街が多くあります。バス便エリアが多く、バスの本数もそれほど多くありません。観光地だけに、週末の車の渋滞は激しく、週末の車移動の混雑は避けられません。また、海沿いの街だけに津波に対する備えは必要です。鎌倉の寺社の多くは標高のある高台にあり、鶴岡八幡宮の境内なども広域避難場所に指定されています。こうした防災面は物件を探す際に事前に確認しておきましょう。
鎌倉では京都のようにセカンドハウスとして家を買う人も多いようです。それだけ古都・鎌倉の暮らしはほかでは得難い魅力があるのでしょう。
800年以上も受け継がれてきた文化と歴史、そして自然と美しい景観。住宅街を歩いていると聞こえるカッコウなどの小鳥の声は、まるでBGMのようです。これだけ自然が身近に残された都市はそうそうないでしょう。いざ鎌倉へ、新たなライフスタイルの実現に転居を考えてみてはいかがでしょうか。