配偶者の扶養範囲内で働きたい人にとって、「~万円の壁」は気になるところでしょう。2016年の制度改正では、パートやアルバイトでも年収が約106万円を超える場合、条件次第では社会保険の扶養から外れることになりました。2022年からの法律改正により、さらに社会保険の加入条件の適用範囲が拡大されるため、今後の働き方を見直す方もいるでしょう。そこで今回は、「106万円の壁」についてわかりやすく解説します。
扶養範囲内で働きたい人は「106万円の壁」に注意
給与所得者の配偶者で、家事や育児をしながら扶養の範囲内で短時間だけ働く人は多いでしょう。その際に気になるのは「106万円の壁」です。ここでは、「106万円の壁」の言葉の意味と社会保険の加入条件について説明します。
「106万円の壁」とは?
「106万円の壁」とは、社会保険の加入条件となる年収の目安の金額を指します。従来は年収130万円までなら、配偶者の被扶養者として健康保険が使えました。しかし、2016年からは制度改正により、106万円以上の年収があり適用条件に当てはまる人は配偶者の扶養から外れ、自分で社会保険に加入しなければならなくなります。
2022年10月からは従業員数が101人以上、2024年10月からは51人以上の企業に段階的に適用されるため、いよいよ自分の身に降りかかる人も出てくるでしょう。106万円をギリギリ超えるくらいの収入を得ていた人は、今までと同じ時間働いても、今後は社会保険料を差し引かれるため、かえって手取りの収入金額が減ってしまうのです。
社会保険加入の適用条件は?
社会保険の加入は、年収以外にもいくつかの条件があります。以下に説明する要件をすべて満たしたパートやアルバイトの従業員のみ、社会保険に加入することになります。
まずは、「フルタイムの従業員」と「週換算の労働時間がフルタイムの3/4以上になる従業員」を足した合計が501人以上いる企業に勤め、週の所定労働時間が20時間以上の人。
次に、月額賃金が88,000円以上あることです。つまり、12ヶ月分の年収が105万6,000円以上となるため、106万円の壁と表現されるのです。さらに、2ヶ月を超えて雇用される見込みであることと、学生ではないことが条件です。
これらのすべての要件を満たす場合は、勤務先の社会保険に加入して、月々の賃金の中から天引きで社会保険料を支払うことになります。今後は対象者が拡大し、2022年10月から従業員数が101人以上の企業に、さらに2024年10月からは51人以上の企業に適用されます。
「106万円の壁」には交通費も含まれる?
社会保険の加入条件の一つである月額賃金の88,000円以上とは何を指しているのでしょうか。この月額賃金は、基本給と諸手当を含めた金額を指します。ただし、残業手当や休日出勤手当、賞与、結婚祝い金などの臨時に支払われるものは含みません。また、通勤にかかる交通費は賃金には含みませんので、通勤手当などは除外されます。
そのため、総支給額が月に88,000円以上の場合でも、賃金が88,000円未満なら社会保険加入の適用外となります。イメージしやすいように、社会保険加入の有無による手取り額の違いをケース別に説明します。
・ケース1 賃金が88,000円未満
時給1,000円で週20時間勤務として、月に10,000円の通勤手当が支給された場合は、月額賃金80,000円と合わせて90,000円の手取りになります。月額賃金は88,000円に満たないため社会保険加入の適用外です。
・ケース2 賃金が88,000円
時給1,100円で週20時間勤務として、通勤手当がない場合は、月額賃金が88,000円になります。この場合、社会保険の加入対象になり仮に保険料が10,000円差し引かれた場合、月の手取り額は78,000円になります。
このケース1とケース2で興味深いのは、ケース2のほうが時給は高いのに、手取り額が少なくなっている点です。このように、働く条件によって手取り額にも影響を与えるケースがあるため「~の壁」と呼ばれているのです。
106万円・130万円の壁で注意したいポイント
ここでは、扶養範囲内で働きたい場合に気にしなければならない「106万円の壁」と「130万円の壁」について、注意したいポイントを解説します。
106万円の壁
「106万円の壁」は、あくまでも月額賃金の88,000円を基準として、社会保険加入の条件に当てはまるかどうかを判断します。所定の月額賃金が88,000円未満であれば、繁忙期に残業や休日出勤などがあり時間外手当が多額になり、年収が106万円を超えたとしても社会保険加入の適用にはなりません。
また、賞与や報奨金、精皆勤手当などの一時的な収入も月額賃金には含みません。月額賃金が88,000円以上でも、2ヶ月未満の雇用契約や、週に20時間未満の労働など、そのほかの加入条件にあてはまらない場合は、130万円までは扶養範囲内となり社会保険の加入は必要ありません。
130万円の壁
「130万円の壁」とは、「106万円の壁」を超えない場合に、社会保険の加入適用となるかどうかを判断する際の基準となる年収のことをいいます。ただし、この場合は月額賃金ではなく、標準報酬月額を使って算出するため注意が必要です。
社会保険料の算定基礎となるのは、4~6月の3ヶ月分の給与を平均した報酬月額です。ここには、基本給のほか、残業代や交通費、住宅手当や家族手当等の諸手当が含まれます。この報酬月額から標準報酬月額を割り出します。たとえば、報酬月額が107,000~114,000円の場合の標準報酬月額は110,000円になり、12ヶ月分に換算すると130万円を超えることになります。つまり、従業員数に関係なく、標準報酬月額×12ヶ月が130万円を超える見込みがあれば社会保険の加入が義務付けられるわけです。
社会保険の扶養から外れるメリット・デメリット
社会保険の扶養から外れることは何も悪いことばかりではありません。自分名義で社会保険に加入すれば手厚い公的保障が受けられます。健康保険なら、傷病手当金や出産手当金などの保障や給付がさらに充実します。また、厚生年金に加入することで、受け取る基礎年金部分に報酬比例部分が上乗せされるため将来の安心につながるでしょう。
扶養範囲内で仕事をしようと思えば、労働時間や収入額を常に気にして働かなければなりませんが、扶養から外れればそれらを一切気にする必要がありません。好きなだけ働けますし、責任ある仕事を任されるようにもなればキャリアアップも望めるでしょう。
一方、社会保険の扶養から外れるデメリットは、106万円や130万円の壁に近い年収では、ともすれば手取り額が今までより減ってしまうことです。年齢や条件などによっても異なりますが、概ね年収150万円くらいまでは扶養範囲内で働いていたときより手取りが少なくなる、いわゆる「働き損」という逆転現象が起きます。ただし、長い目で見ればさまざまな保障の充実があるため、それらをどう捉えるかにもよります。
まとめ
家計の足しにと働き始めたのはいいものの、アルバイトやパートなどの短時間勤務者の前に立ちはだかるのが「106万円の壁」です。従業員が一定数を超える企業に勤めている人は、扶養範囲内で働きたければ年収106万円以内に抑える必要があります。
ただし、この場合、交通費や残業代、賞与などは年収に含まれません。社会保険の扶養から外れると手取りが低くなる場合もありますが、そのぶん社会保険の保障内容が充実するメリットもあることを踏まえて、どちらの働き方を選ぶか検討してみることをおすすめします。