衰えない住み替えニーズ、コロナ禍で住まい選びの基準はどう変化した?

長引く新型コロナウイルス感染拡大の影響で、「新しい生活様式」が定着するなか、住まい選びの基準に変化が見られるようになっています。各種の調査結果から、どういった変化が起きているのかを見ていくことにしましょう。

コロナ禍でも住み替えようとする人はいる!

まず、(公社)全国宅地建物取引業協会連合会と(公社)全国宅地建物取引業保証協会による「2020年『不動産の日アンケート』結果」(以下、全宅連の調査)を紹介しましょう。調査時期は、2020年9月23日~11月30日で、有効回答者数が2万4,863件の大規模調査です。調査対象の住宅形態には、持ち家も賃貸も含まれています。

全宅連の調査で、「新型コロナウイルスの影響により、今後働き方が変わることなどを視野に入れ、住み替えを検討または実施しましたか?」と聞いたところ、「既に住み替えた」が3.1%、「住み替えを検討した」が6.3%で、全体の1割ほどの人が住み替えを実施または検討したと回答しました。なかでも、「住み替えを検討した」という回答は、20代(13.7%)と30代(10.7%)が、ほかの年代より多くなっています。若い世代ほど、コロナ禍で住み替えを検討する人が多いのが特徴です。

もう1つ、消費者参加型覆面調査「ファンくる」を運営する株式会社ROIの「コロナ禍における住宅事情についての意識調査」(以下、ファンくるの調査)の結果を見ましょう。調査時期は2021年4月26日~5月6日で、調査対象者は一般消費者とあるので、住宅形態は持ち家・賃貸の双方を含んでいると思われます。

ファンくるの調査で、「コロナの流行をきっかけに引っ越しをしたいと思いましたか?」と聞いたところ、「引っ越し済み」が3%、「引っ越しを検討中」が15%で、全体の2割近くの人が引っ越しを実施または検討中と回答しました。

この調査では、現在の住まいの間取りと世帯人数から、1人当たりの部屋数(ダイニングは除外、リビングは居室同様にカウント)を割り出して分析しています。その結果、1人当たりの部屋数が少ない人ほど「引っ越し」ニーズが高いことがわかりました。1人当たり1部屋の人では、3割以上もの人が引っ越し済みか検討中と回答しています。

ファンくる(株式会社ROI)調べ

コロナ禍であっても、若い世代や1人当たりの部屋数の少ない人ほど、住み替えをしようと実際に実行したり検討したりしていることがうかがえます。

欲しいのは、仕事ができる環境と住宅の性能

次に、住み替えの動機となる現在の住まいへの不満について見ていきましょう。ファンくるの調査で、「コロナ禍において、自宅で不便に感じていることは何ですか?」と聞いたところ、最多は「オンオフの切り替えがしづらい」でした。

これ以外では、運動できるスぺースや仕事ができるスペースがない、部屋が狭いといった自宅内のスペースへの不満が多く挙がっています。また、仕事に集中したりオンライン会議をしたりということからか、音が気になるという不満も挙がっています。

ファンくる(株式会社ROI)調べ

一方、全宅連の調査では、「新型コロナウイルスの影響により導入を検討・実施した住まいの設備」について聞いています。在宅勤務やオンライン授業などで必要となる「インターネット(Wi-Fi)環境」(30.7%)、「パソコンやモニター、プリンターなどの機器」(15.4%)が上位に挙がるとともに、コロナ禍ならではの「空気清浄機」(22.3%)、「宅配ボックス」(19.8%)、「換気設備」(17.9%)や、おうち時間の長期化による、「エアコンなどの空調」(19.0%)が上位に挙がった点も注目したい点です。

出典:全宅連「2020年『不動産の日アンケート』結果」より転載

次に、株式会社リクルートの『住宅購入・建築検討者』調査(2020年)の結果(以下、リクルートの調査)を見てみましょう。調査時期は2020年12月11日~12月21日で、過去1年以内に住宅の購入・建築、リフォームについて具体的に一定の行動(情報収集や見学等)を取った人が対象です。つまり、マイホームの取得などに強い関心のある人への調査というのが特徴です。

リクルートの調査で、「コロナ拡大による住宅に求める条件の変化」について複数回答で聞いたところ、まず「部屋数」や「広いリビング」など自宅のスペースに関する条件が挙がりました。次いで、「日当たり」といった快適性や「遮音性」、「省エネ性」、「換気性能」といった性能面についての項目が上位に挙がっています。

出典:リクルート「『住宅購入・建築検討者』調査(2020年)」より上位10位を抜粋 ※:9月調査から選択肢に追加した項目(5月調査では選択肢に含まれず) 1:5月時調査では「冷暖房効率に優れた住宅に住みたくなった」選択肢

在宅ワークや外出自粛による在宅時間の長期化によって、自宅のスペースの問題はもちろんのこと、長時間家にいても快適な日当たりや遮音、冷暖房効率や換気性能の良さなど、住まいの快適な環境を求めるようになったと考えられます。特に、長く住むであろうマイホームであれば、設備の設置だけではなく住宅の性能そのものを求めるということの現れでしょう。

戸建て志向や郊外志向は本当?

最近、コロナ禍の住まい選びの変化について、戸建て志向や郊外志向が指摘されています。最近の調査結果にも、そうした傾向は表れているのでしょうか。

まず、リクルートの調査を見ていきましょう。「広さか駅からの距離か」、「戸建てかマンションか」という迷いがちな選択肢が並びます。「どちらでもよい」を除いた、「ぜったい」と「どちらかといえば」の合計で傾向を見たところ、前年の2019年と比べて次のような変化が見られました。

●重視するなら「広さか駅距離か」
2020年調査全体:広さ派47% 駅距離派38%
2019年調査全体:広さ派43% 駅距離派40%

●住み替えるなら「マンションか戸建てか」
2020年調査全体:戸建て派61% マンション派25%
2019年調査全体:戸建て派59% マンション派28%

駅からの距離よりも広さを求める人が前年より増加して、その影響もあってか、もともと多い戸建て派がさらに増加するという結果になっています。戸建てのほうが広さや部屋数、庭などのスペースを確保しやすいため、戸建て人気が高まっているということがうかがえます。

ほかの調査結果を見ても、戸建てニーズが高まっていることを示すデータが多いのですが、部屋数など広さの問題と関係性がありそうです。

次に郊外志向についてですが、前出の全宅連の調査結果で見ていきましょう。「住み替えを検討・実施した地域」を聞いたところ、多かったのは「郊外から郊外」(36.0%)や「都市部から都市部」(30.6%)と同じような地域内の住み替えでした。郊外志向につながる「都市部から郊外」は17.4%あったものの、「郊外から都市部」も16.0%あり、郊外に出る人もいれば都市部に入る人も同程度いるという結果となりました。

出典:全宅連「2020年『不動産の日アンケート』結果」より転載

郊外志向については、リモートワークによって毎日通勤しないのであれば、自然豊かな、あるいは子育て環境が整った郊外を志向する人が増えたということが指摘されました。しかし、リモートワークが普及したとはいえ、リモートワークが可能な企業や職種が限定されるため、自然の豊かな郊外へという流れが起きる一方で、より通勤時間を短縮できる都市部へという流れも同時に起きているのでしょう。

郊外志向が指摘された背景には、SUUMOなどの不動産会社ポータルサイトで郊外エリアの物件検索数がコロナ前より増加しているということがありました。最近は、住み替えるのではなく、「二拠点居住」なども注目されるようになり、都市部と郊外部や地方を行き来する暮らし方への関心が高まっています。検索数については、そうした影響もあるのかもしれません。

さて、株式会社矢野経済研究所では、「戸建て住宅市場に関する調査を実施(2020年)」というプレスリリースで、コロナ禍の戸建て市場を分析しています。それによると、「2020年度始めの最初の緊急事態宣言で住宅展示場での営業停止などによって市場は縮小した」が、ウィズコロナ時代を見据えた新たな住宅商品の展開や「リモートワークの普及による在宅時間の長期化から、広さや快適性を求めるために郊外へ戸建て住宅を求めるニーズも増加しており、特にハウスビルダーが供給する建売住宅は値ごろ感とも相俟って販売増加につながっているなどの傾向もみられる」としています。

単純に郊外へ住み替えるというよりも、郊外×戸建てや二拠点目を探すなど、多様なニーズがコロナ禍で生じていると見るのがよいと思います。

これからの住まいは多様な機能が求められる

以上の3つの調査結果から、コロナ禍の住まい選びの変化について見ていきました。コロナ感染対策のためのおうち時間の長期化で、自宅は家族で食事をしたり就寝したりするためだけの空間ではなく、仕事をする空間や運動や息抜きをする空間など、多様な機能を求められるようになりました。自宅で仕事や学習をしたり、仲間とオンラインミーティングをしたりということが、今後も何らかの形で継続していくと予想されていますので、住まい選びの変化は、今後も注目していきたい点です。

執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)

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