従業員の給与や顧問の報酬から預かった所得税は、事業主が責任をもって国に納めなければなりません。その際に使用する書類が「所得税徴収高計算書」です。
預かった所得税は期限までにスムーズに納付できるようにしましょう。この記事では、納付方法や所得税徴収高計算書の書き方を解説します。
所得税徴収高計算書とは
源泉所得税を国に納付する際に使用する書類を「所得税徴収高計算書」といいます。従業員から預かった所得税が、いつのどのような性質の預り金であるかを明確にして、間違いなく納税するための納付書となるものです。
所得税徴収高計算書は所得税の名目によって書式が異なり、厳密には9種類に分かれています。この記事では、一般的な「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書」について解説します。
所得税徴収高計算書の納付方法
所得税徴収高計算書は、会社設立後に所轄税務署からさまざまなパンフレットや書類と一緒に事業主宛に郵送されることがほとんどです。その後は、年末調整の時期に郵送されます。
見当たらない場合や書き損じなどで枚数が足りない場合は、直接税務署の窓口で受け取るか、送付依頼して取り寄せることも可能です。
預かった所得税は、基本的には源泉徴収した月の翌月10日までに納付することと義務付けられています。ただし、従業員が10人未満で納期特例の申請が認められた場合は、1~6月に源泉徴収した分は7月10日までに、7~12月に源泉徴収した分は翌年の1月20日までに納入すればよいことになっています。
この特例を利用するためには、事前に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」の届け出が必要です。また、従業員が10人以上に増えた場合は、「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を提出しなければなりません。
所得税徴収高計算書の記入方法
ここでは、所得税徴収高計算書の納付書の書き方について解説します。こまかく記入欄が別れているため、間違いのないように記入しましょう。
納期等の区分
用紙の右上、整理番号の右下にあるのが「納期等の区分」です。給与や退職手当、弁護士や税理士などに報酬を支払った年月を記入します。数字が1桁の場合は、前にゼロをつけるようにしてください。
納期の特例が適用されている場合は書式が異なり、「自」には特例の期間の最初、「至」には最後の月を記入します。ちなみに、一般の所得税徴収高計算書と納期特例のものは記入用紙も異なります。
ただし、給料の支払年月と支払確定年月が異なるときは、支払確定年月ごとに別々に納付書を作成してください。左下の「摘要」欄にわかるように「支払確定年月」を記入します。
俸給、給料等
「俸給、給料等」の欄には、俸給、給料、賃金など給与とみなされるものの金額を記入します。ただし、従業員や役員の賞与、日雇い労務者の賃金については、別途それぞれの記入欄に記載してください。
「俸給、給料等」の右側の欄には、それぞれ以下の項目があります。
・支払年月日…給与を実際に支払った年月日を記入
同月に分割して給与を支払った場合は、最後に支払った年月日を記入してください。納期の特例が適用されている場合は、期間内の最初に支払った年月日と、最後に支払った年月日をそれぞれ記入します。
・人員…俸給や給料を支給した実人数
・支給額…支給した俸給や給料の総額
・税額…支給額に対して源泉徴収した税額の合計額
・摘要…非課税の恩給には「恩」、在外手当には「在」と記入し丸印で囲んで、人員と支給額を記入する
また、財産形成給付金のうち給与とみなされるものには「財」と記入し丸印で囲んで、人員と支給額、税額を記入します。
賞与
法人の場合は、別枠で役員賞与の記入欄があるため、役員以外に支払った賞与について記入します。個人の場合は、必要経費に算入した賞与の金額を記入します。
「支払年月日」、「人員」、「支給額」、「税額」の欄には、上記の「俸給、給料等」で説明した内容に準じて記入してください。
日雇い労務者の賃金
「日雇労務者の賃金」欄は、日毎に雇い入れられる労務者に、源泉徴収税額表の日額表にある日雇賃金の丙欄の税額を適用して源泉徴収した場合に使用します。
・「人員」…日雇労務者の延べ人数を記入
・「支給額」及び「税額」の各項…日雇労務者に対して支払った賃金の総額と源泉徴収した税額の合計金額を記入
退職手当等
「退職手当等」は、退職手当のほかに、一時恩給など退職手当等とみなされる一時金について記入する欄です。
「支払年月日」、「人員」、「支給額」及び「税額」の各項は、「俸給、給料等」で説明した各欄の内容に準じて記入してください。
税理士等の報酬
「税理士等の報酬」欄には、税理士のほかに、弁護士、公認会計士、司法書士、社会保険労務士、弁理士、企業診断員、建築士、土地家屋調査士、測量士などの士業や、それに準じる業務に関して支払う報酬や料金を記入します。
・「支払年月日」、「人員」、「支給額」、「税額」の各項…「俸給、給料等」で説明した内容に準じて記入
・「摘要」欄…司法書士、土地家屋調査士、海事代理士に対して支払う報酬や料金を記入するときのみ、「摘要」欄に「司」を書いて丸印で囲み、人員、支給額、税額を記入
役員賞与
「役員賞与」欄には、取締役、執行役、会計参与、監査役などの経営に従事する役員に対して支払った賞与について記入します。
・「支払年月日」…「俸給、給料等」と同様に、実際に支払った年月日を記入
ただし、支払確定後1年経過した未払い分の所得税を納付する場合は、「支払年月日」は空白のままにしておきます。
・「同上の支払確定年月日」の欄…役員賞与の支払い確定した年月日を記入
・「人員」、「支給額」、「税額」の各項…「俸給、給料等」と同様に記入
・「摘要」欄…支払確定後1年経過しても未払いとなっている役員賞与がある場合に、これとは別に新たに納付書を作成し、概要欄に「1年経過賞与分」と記入
年末調整による不足税額・年末調整による超課税額
「年末調整による不足税額」、「年末調整による超過税額」の各欄は、年末調整で不足分や超過額があった場合に記入するための欄です。
「税額」の項には、実際に源泉徴収した不足分、または、源泉徴収で超過した分を還付した場合にそれぞれ該当する欄に合計額を記入します。ただし、「年末調整過納額還付請求書兼残存過納額明細書」を税務署に提出して超過額の還付を受ける場合は、その金額は含めません。
まとめ
給与や報酬等から源泉徴収している事業主は、預かった所得税を正しく国に納付しなければなりません。その際の、納付証明となるのが「所得税徴収高計算書」です。
初めのうちはなかなか慣れないかもしれませんが、会計帳簿を見て漏れなく記載すればそう難しいものではありません。もし記入方法に自信がない場合は、曖昧なままにせず、税理士や会計士等に相談することをおすすめします。