所有者不明の土地の問題を解消するための、民法や不動産登記法の改正法などが2021年4月に成立しました。これにより、2024年をめどに、相続した土地の一定期限内の登記が義務付けられたり、不動産登記が簡素化されたりする予定です。多くの人が関わる不動産の相続登記がこれからどう変わるのか、確認しておきましょう。
背景…有効活用を妨げる「所有者不明の土地」が増えている
2021年4月21日、所有者不明の土地問題の解決に向け、民法や不動産登記法の改正法などが成立し、4月28日に公布されました。たびたびニュースにもなる所有者不明の土地に関する法律は、どんな問題があって改正されたのでしょうか。
所有者不明土地は、法務省の資料(「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」 法務省民事局令和3年5月)によると、
(1)不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない
(2)所有者が判明しても、その所在が不明で連絡がつかない土地
のことを言います。土地や家屋などの不動産の所有者は通常は不動産登記簿で確認することができますが、不動産登記簿のみでは所有者の所在が確認出来ない土地の割合は、2割以上にも上るそうです(平成30年版土地白書)。
土地の所有者がわからない、あるいはわかっても連絡がつかなければ、その土地を買いたい、借りたい、開発したい人たちがいたとしても、交渉の相手方がわかりません。たとえば、一区画の土地を対象に開発計画が立ち上がったとしても、そこに所有者不明土地があると、所有者の探索に時間や費用がかかって話が進められなくなります。また、その土地に老朽化した空き家があって危険だとしても、所有者がわからなければ、解体したり土地を売却したりと、開発を進めるための対処を行うことができません。
このように、土地の有効利用に支障を来す所有者不明土地が増える大きな原因の一つに、相続登記がなされないことがあります。
土地所有者が亡くなり、遺産分割協議をして遺族の誰かが土地を相続したら、多くの方は相続登記の申請をしてその不動産が自分のものであることを登記簿に載せます。しかし、相続登記は義務ではなかったので、手続きや手数料が負担だったり、遺産分割協議がまとまらなかったりして相続登記されず、所有者が故人のままになっているケースがあるのです。
相続登記されないまま相続人(例:子の代)が死亡すると、その相続人は孫の代に、さらにその次の代へと移っていき、代が下がるほど相続人が増えて、誰に所有権があるのかわからなくなっていきます。高齢化が進んで死亡者は増加傾向にあるので、相続登記されないことで、いっそう所有者不明土地の増加が懸念されてきたのです。
所有者不明土地問題解決のため、民法や登記法が改正された
そこで今回、所有者不明土地の発生を予防し、すでにある所有者不明土地を利用しやすくするために、民法や不動産登記法の一部改正、相続土地国庫帰属法の創設などが行われました。
施行日は、原則として、公布日(2021年4月28日)後2年(2023年)以内の政令で定める日ですが、相続登記義務化関係の改正は公布後3年(2024年)以内の政令で定める日、住所変更など登記義務化関係の改正は公布後5年(2026年)以内の政令で定める日とされています。
さまざまな角度から法制度の見直しが行われていますが、ここでは、相続登記に関することを中心に、改正内容を見てみましょう。
相続登記が義務化、先送りすると過料も
相続した不動産の登記はこれまで「義務」ではなく、相続登記の期限もありませんでした。それが、今回の不動産登記法の改正により、不動産を取得した相続人は、
・土地の取得を知った日から3年以内に登記申請を行う義務があり、
・正当な理由なく申請を怠った場合には10万円以下の過料が科されることになりました。
過料とは行政上の義務違反に対する金銭的な罰として、義務違反者に対して科されるものです。犯罪行為に対して科される「刑罰」ではないため、前科などはつきません。
相続登記の義務化は、法改正以前に相続したものの、登記していない物件にも適用されます。その場合の相続登記の期限は、相続によって不動産の取得を初めて知った日あるいは改正法の施行日のいずれか遅い日から3年以内です。相続登記の義務化関係の改正は公布後3年(2024年)以内の政令で定める日が施行日となるので、不動産の取得を知っていた場合には、2024年の施行日から3年以内に相続登記する義務が生じることになりますね。
相続登記の義務化に加えて登記の申請をしやすくするため、相続人申告登記や所有不動産記録証明制度が新設されます。
相続人申告登記は、相続人が登記名義人の法定相続人である旨を申し出て、登記官(登記所の担当者)がその人の氏名および住所などを職権で登記する制度。相続人全員で申出を行う必要がなく単独で申告できて添付書類も簡略化されるようです。この申し出を行えば、相続登記の義務を履行したと見なされるので、遺産分割協議がまとまらない場合などは、取りあえずこの手続きをしておきたいところです。
ただし、その後に遺産分割が行われた場合は、再度登記の義務が発生します。
「所有不動産記録証明制度」は、相続人が法務局に手数料を納めれば故人名義のとなっている不動産の一覧を証明書として発行してもらえる制度。相続登記が必要な不動産を把握しやすくなります。
ただし、法務局に不動産相続に必要なすべての情報がそろっているとは限りません。そこで故人が保有していた土地を確認する方法としてこれまで利用されてきた固定資産税の名寄帳(なよせちょう)も併用すると良いでしょう。名寄帳は市区町村役場で取ることができます。
住所・氏名変更登記も義務化、過料も
転居や結婚等で住所や氏名が変った場合の申請登記も義務化されます。所有権の登記名義人は、住所などの変更日から2年以内にその変更登記の申請をしなければなりません。正当な理由がない申請漏れには過料(5万円以下)が課されます。個人だけでなく、法人の本店移転なども対象になります。
また、登記官が職権で変更登記することも可能になります。登記官は住基ネット(住民基本台帳ネットワークシステム)や商業登記システムから取得した情報に基づいて変更内容を登記します。ただし、登記名義人が個人の場合は、登記名義人の申し出があった場合のみ、登記が変更されます。
このように、所有者不明土地問題解決のための法改正で、相続した土地の所有権登記や住所変更・氏名変更があった場合の変更登記が義務化されることになりました。怠れば過料も科されることになりました。これから発生する相続だけでなく、すでに相続しているのに登記が済んでいない場合も対象です。
施行日(※)までには数年の余裕があるので、心当たりがある場合は、相続登記が済んでいるか、所有者の住所は正しいものになっているかなどを、確認しておきましょう。もしも、遺産分割協議が済んでいなければ、誰がその不動産の所有者となるのか、あらためて相続人どうしで話し合うところから始める必要があるかもしれません。
※1)相続続登記義務化関係の改正は公布後3年(2024年)以内の政令で定める日 2)住所変更等登記義務化関係の改正は公布後5年(2026年)以内の政令で定める日
これから施行日までに、具体的な手続き方法や、関連する施策も決まっていきます。登録免許税の減税など、相続登記をしやすくする措置も取られるようです。土地を相続した際の登記手続きに慌てることのないよう、今後の報道などに注意しておきましょう。
参考:所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し 法務省民事局令和3年5月
参考:民法の一部を改正する法律