2019年の消費税引き上げに20年からはコロナ禍が加わり、新設住宅着工戸数は長くマイナスが続いてきましたが、21年3月、ようやくプラスに転じました。21ヶ月ぶりのことです。なかでも、貸家については31ヶ月ぶりの増加。住宅建設は長いトンネルから抜け出すことができるのでしょうか。
2019年4月から駆け込み需要の反動減が始まる
消費税が8%から10%へ引き上げられたのは2019年10月ですが、建築請負契約については契約から引き渡しまで相当の期間がかかることから、2019年3月末までに建築請負契約を締結しておけば、引き渡しが10月以降になっても、消費税は8%で済むという経過措置が実施されました。
そのため、19年2月の新設住宅着工戸数は前年同月比4.2%増、3月は10.0%増と、増税前の駆け込み需要が発生しました。
その反動から、19年4月は前年同月比マイナス5.7%、5月はマイナス8.7%と落ち込み、6月には0.3%の増加に転じたものの、7月は再び4.1%の減少となり、駆け込み需要に対する反動減が続きました。
2021年3月の新設住宅着工戸数は前年同月比1.5%増
この反動減について1年程度で回復するのではないかという期待もありましたが、コロナ禍の発生でその後2021年2月まで20ヶ月連続で減少が続くことになったのです。しかも、20年4月から7月までは減少率が4ヶ月連続で二桁台という大きな落ち込みでした。
それが、21年3月に前年同月比1.5%増と、19年6月以来、実に21ヶ月ぶりの増加に至ったわけです。
オレンジの折れ線グラフは新設住宅着工戸数の前年同月比の推移を示していますが、20年の4月から7月を底に、若干の上下動がありながらも、トレンドとしては明らかに右肩上がりのカーブを描いていることがわかります。
利用形態別では貸家は31ヶ月ぶりの増加に
「建築着工統計調査報告」では、住宅の利用形態別に、持ち家、貸家、給与住宅、分譲住宅に分類しています。給与住宅とは企業が社員向けに建設する社宅や寮などのことです。絶対数はさほど大きくないため、これを除いて持ち家、貸家、分譲住宅の前年同月比をグラフにしたのが図表2です。
なかでも、注目しておきたいのが、貸家の動向です。消費税増税やコロナ禍以前から賃貸住宅向けの不正融資問題、空室率上昇によるオーナーと賃貸住宅メーカーとのトラブルなどの増加もあって、2018年9月から前年同月比でマイナスが続いてきました。それが、21年3月、なんと31ヶ月ぶりに2.6%の増加となったのです。
持ち家、貸家、分譲住宅すべて前年同月比プラスに
2021年3月の利用形態別の前年同月比の数値をみると、持ち家は0.1%、貸家は2.6%、分譲住宅が2.8%と、3形態すべてプラスになりました。3形態すべてプラスになるのは、18年8月以来のことです。
なかでも、貸家、分譲住宅については月による変動が大きいのですが、それでも全体としてならしてみれば、緩やかな右肩上がりのトレンドになっていることがわかります。
ただ、毎年3月というのは年度末の決算を意識して、受注や引渡し、着工が増える時期でもあります。ですから、この新設住宅着工戸数の改善が、年度末の季節的な事情によるものなのか、住宅市場の本格的な回復につながるものなのか、まだまだ予断を許しません。21年4月以降の新年度の着工動向がどうなるのかを見極めたうえで、今後の見通しを判断する必要があるでしょう。
2021年度の新設住宅着工戸数は80万戸台を確保する見通し
国土交通省は2021年3月分の「建築着工統計調査報告」と同時に、20年度(20年4月~21年3月)1年間の結果についても同時に公表しています(図表3)。
それによると20年度の新設住宅着工戸数は81万2,164戸で、19年度の88万3,687戸から8.1%の減少でした。19年度の前年度比7.3%減に続いて2年続けて減ったことになります。その前、2018年度は95万戸台でしたから、2年間で14万戸以上も少なくなった計算です。
ただ、20年春先の新型コロナウイルス感染症拡大が深刻化した当初には、新設住宅着工戸数が激減し、住宅価格も暴落するのではないと懸念されましたが、そこまで深刻な事態には至っていないようです。
着工戸数の落ち込みはリーマンショック時より軽微?
2000年代に入ってからの、新設住宅着工戸数に深刻な影響を与える大きな事件としては08年のリーマンショックが挙げられます。その直後の09年度には新設住宅着工戸数は08年度の約103.9万戸から約77.5万戸へと25.4%も減少しました。年間約77.5万戸という数字は、高度成長時代以前の水準であり、その影響の大きさがうかがわれます。
それに比べると20年度の前年度比8.1%という減少幅はコロナショックが経済・社会に与えたインパクトの大きさからみれば、住宅業界への影響が比較的軽微だったといってもいいのではないでしょうか。
コロナ禍によって飲食・宿泊業を中心に大きく落ち込んだ業界が多いなかで、住宅業界はマンション、一戸建てともに販売が好調で、価格も上がっています。住宅業界の動きは底堅く、コロナ禍でも順調に拡大を続ける例外的な存在になっています。
コロナ禍でマイホームへの考え方が大きく変化
住宅業界の動きが活発な背景には、コロナ禍で在宅勤務が増え、外出自粛のなかで在宅時間が増加、住まいに対する考え方が変わってきたという事情があるのではないでしょうか。
たとえば、リクルート住まいカンパニーの調査では、自宅にワークスペースが欲しい、隣近所の騒音などを気にしなくてもいい住まいにしたい、感染症対策を取りやすい住まいに引っ越したいなどの変化が挙げられています。それも、在宅勤務の増加で通勤時間をさほど気にする必要がなくなり、都心から多少離れた場所、あるいは最寄り駅からの徒歩時間が長い物件でも問題ないと考える人が増加、住まいへの選択肢が増え、住宅ニーズが高まり、新築・中古、またマンション・一戸建てにかかわらず人気が高まり、売れていると言っていいでしょう。
※リクルート住まいカンパニー「コロナ禍を受けた『住宅購入・建築検討者』調査(首都圏)」
21年度も住宅市場の回復傾向が続く可能性
コロナ禍でGDP(国内総生産)は落ち込み、失業者が増加、収入が減少するなどの厳しい環境にあっても、住まいに対するニーズはむしろ高まっているといっていいでしょう。それが、新築・中古、マンション・一戸建てにかかわらず好調な販売が続き、価格が上がり続けている一因になっているわけです。
コロナ禍対策のための住宅取得支援策が充実し、低金利が続く住宅ローン金利などを考え合わせると、長年住宅市場をリサーチし続けてきた住宅ジャーナリストとしては、しばらくは住宅市場は好調に推移し、新設住宅着工戸数も回復傾向が続くことになるのではないかとみています。