住宅購入の判断に大いに関係する住宅ローン。不動産や金融についてその業界の人に匹敵する知見をもつ、公認会計士ブロガー千日太郎さんが、連載形式で住宅を買う側・住宅ローンを借りる利用者側の視点で情報発信。2021年6月の住宅ローン金利について世界情勢や国内金融市場にインパクトを与えそうな事柄を踏まえ、解説いただきます。
こんにちはブロガーの千日太郎です。2021年に入ってから3か月は経済正常化への期待から長期金利が上昇してきましたが、4月から5月にかけては世界的な感染拡大の長期化によってその期待が後退しつつあるようです。
ではこの状況で2021年6月の【フラット35】金利はどうなるのか、その動向を予想します。
経済正常化は遠のき長期金利は緩やかに下がり始めた
2021年1月3日から2021年5月7日までの日米長期金利の動向をグラフにしました。
米国長期金利(青い折れ線グラフ)は2021年バイデン政権のスタートとともに経済正常化への期待からウナギ上りに上昇しましたが、4月あたりで止まり、再び下がり始めています。これは米FRBのパウエル議長が一貫して「新型コロナウイルスの感染流行が終息した後にインフレが制御不能になるリスクは懸念していない」とのメッセージを発信し続けており、コロナ禍の先行きはなお不確実という認識が投資家の共通認識になりつつあるためです。
またインドでは新型コロナウイルスの変異株による感染爆発が発生しており、世界的にも感染者数が再び増加しています。変異株に対するワクチンの効果が分からないとなると、経済正常化への期待はさらに後退せざるを得ません。
こうしたことから、米中央銀行の金融緩和政策が長期化するとの見方が強まっています。安全資産としての米国債を一定割合保有する流れが強く、債券価格が上昇し利回りが下がるという流れになっています。
これに対して、日本の長期金利はほとんど動いていないように見えます。そこで同じ期間の日本の長期金利をクローズアップしてみました。
2021年に入ってから上昇しているのは米国の長期金利と同じですが、米国よりも早く2月末あたりから大きく下がり0.1%あたりで横ばいに推移しています。4月から5月にかけては感染第4波からゴールデンウィークの緊急事態宣言の発出、延長となっており、世界経済と同じく経済正常化に対して楽観視する見方は後退しています。
長期金利が下降フェーズに入った3月から4月にかけては、まだ比較的大きな振れ幅がありました。これは経済正常化への期待も大きかったことから、日銀の動向に対して投資家が過敏に反応していたためです。
4月から5月にかけては、目に見えて振れ幅が小さくなっています。これは経済正常化への期待が遠のいたことで、安全資産としての日本国債を一定割合保有する流れが強くなり、債券価格が上昇し利回りが下がるという流れがメインになってきたためでしょう。
今後の長期金利の動向と【フラット35】の2021年6月金利動向の関係
仮に日本の長期金利が上記の予想どおりに推移していくとすれば、2021年6月の【フラット35】の金利は2020年5月より若干下がる可能性があります。
【フラット35】(買取型)の資金調達の仕組み(※)からすると、住宅金融支援機構が毎月発行する機構債の表面利率が発表されるタイミングの長期金利の水準を予想することが大事になります。
過去の長期金利の推移と【フラット35】の金利推移
過去4ヶ月の長期金利と【フラット35】買取型の金利推移を振り返ってみましょう。青い棒グラフ(左の軸)が【フラット35】買取型で、オレンジの折れ線(右の軸)が長期金利です。
買取型の金利(青い棒グラフ)の高さがおおむね合致しています。そして長期金利が上昇し始めた2月からは【フラット35】買取型の青い棒グラフが長期金利のオレンジの折れ線グラフよりも下になってきています。
これは、長期金利の上昇局面にあっては【フラット35】の金利上昇が緩やかになっていて、突発的な長期金利の上昇が住宅ローン利用者へダイレクトに影響しないように上昇幅を抑えていることを意味します。住宅金融支援機構が営利を目的としない非営利団体であることから、急激な金利上昇時にわたしたち利用者に対する融資金利の上昇を抑え、一時的に損を被る対応が可能になるのです。
そして4月から5月にかけては、長期金利の低下と同じ下げ幅で【フラット35】の金利が下がっています。長期金利が上がるときには少し緩やかに上がり、長期金利が下がるときには同じペースで下がるという傾向になっています。長期金利がこのまま下がれば、同程度の下げ幅で【フラット35】の金利も下がるでしょう。
まとめ~長期金利は低下傾向だが油断は禁物
現在のところ世界的に経済正常化への期待が後退し、金融緩和政策が延長されるとの見方が優勢になっています。それを反映して債券価格が上がり長期金利が下がる傾向が固まってきているように思います。
しかし、金融市場の動向はセオリー通りに推移するとは限らず、短期間で高騰する可能性は常にあります。これは個人レベルでどのように働きかけてもコントロールできない要素ですし、合理的な精度で予想することもかないません。
できることはリスクの分散です。すなわち複数の金利タイプ、金融機関で審査を通しておくことです。特に2月から4月の金利上昇局面において【フラット35】の金利上昇は抑えられたので、【フラット35】を利用することが保険になる可能性があります。そして、シミュレーションを行うときには現時点の金利だけでなく、保守的に金利が上がったケースで返済継続ができるかを確認しておいてください。
※【フラット35】(買取型)の資金調達の仕組み
住宅ローンの【フラット35】(買取型)は、上図のように住宅金融支援機構が民間金融機関から債権を買い取って証券化し、機関投資家に債券市場を通じて機構債という形で販売するという仕組みになっています。この機構債は毎月20日前後に表面利率を発表し募集します。投資家たちは機構債を安全資産という考えで購入しますので、その表面利率は10年国債の利回り(長期金利)に連動する傾向があるのです。
※本記事は、執筆者の最新情勢を踏まえた知識や経験に基づいた解説を中心に、分かりやすい情報を提供するよう努めておりますが、内容について、弊社が保証するものではございません。