親の代から住んでいる戸建て住宅などでは、隣地との境界線がはっきりしていないケースがあります。境界線が明確でないまま放置していると土地売却や新築の際に問題が起こったり、近隣住民との思わぬトラブルに発展したりするリスクもあるのです。今回は土地の境界を調べる方法と、もしものときに役立つトラブル解決法について解説します。
土地の境界には2種類ある
土地の境界には「筆界」と「所有権界」の2種類があることをご存じでしょうか。まずは、それぞれについて詳しくみていきましょう。
筆界
「筆界」とは、その土地が法務局に初めて登記された際、土地の範囲を区画するために定められた境界のこと。筆界は「公法上の境界」とも呼ばれ、筆界で囲まれた土地(一筆の土地)ごとに地番が振られています。
不動産登記法によって定められた公式の境界である筆界は、土地の所有者同士の合意によって簡単に変更することはできません。変更したい場合には、分筆や合筆などの登記をあらためて行う必要があります。
所有権界
対する「所有権界」はその名の通り、土地の所有権が及ぶ範囲を定めるための境界です。「公法上の境界」である筆界に対し、所有権界は「私法上の境界」とも呼ばれます。所有権界は土地の所有者間で話し合って自由に移動させることができるのが特徴です。
通常であれば筆界と所有権界は一致しています。しかし、土地の一部のみ売買や贈与が行われて所有権界が変更になったとき、分筆や合筆の登記を行わないと両者が不一致となってしまいます。所有権界を変更した当事者同士はいいのですが、所有者が代替わりや売却などで変わってしまうと、しばらく経ってから境界をめぐってトラブルになることがあるため要注意です。
土地の境界線を調べる3つの方法
実際に土地の境界線を調べるには、次に挙げる3つの方法があります。
(1)法務局で土地の情報を調べる
自分でできる最も手軽な方法が、法務局で土地の情報を調べること。まずは登記事項証明書(登記簿謄本)の内容を確認しましょう。登記簿謄本は不動産取引において必ずと言っていいほど必要になる書類で、物件の所在や地番・面積といった概要、所有者に関する事項などが書かれています。
ただし、登記簿謄本だけでは境界線を正確に把握することは難しいので、合わせて地図・公図・地積測量図などを取得して調べるといいでしょう。
・ 地図(14条地図):不動産登記法14条で規定された法務局備え付けの正確な地図
・ 公図:14条地図の代わりに備えられる「地図に準ずる図面」
・ 地積測量図:土地の分筆登記などにより作成される土地の面積を法的に確定する図面
14条地図の備え付けが未了の地域も多くあり、そういった土地では公図や地積測量図を調べる必要があります。
(2)測量士に依頼する
隣地との境界を確認するには、測量士へ依頼するという方法もあります。国土交通省管轄の国家資格である測量士は、測量に関する計画作成や実施を担う、言わば測量のプロ。土地の現況を確認して図面化する簡易な「現況測量」であれば、測量士に依頼することも可能です。
ただし、測量士は登記目的の測量を行うわけではないので、境界をはっきりさせるために行う「境界確定測量」には適しません。
(3)土地家屋調査士に依頼する
土地の境界を明確にしたいなら、土地家屋調査士に依頼するのが確実な方法です。土地家屋調査士は法務省管轄の国家資格。登記に必要な建物や土地の調査・測量を行い、土地境界や用途を明確化、不動産登記を代理申請するところまでを専門領域としています。
先ほどの測量士は「現況測量」までしか依頼できませんが、土地家屋調査士ならより信頼度の高い「境界確定測量」を依頼することが可能。後ほど紹介する「筆界特定制度」の代理申請ができるのも、土地家屋調査士の特徴です。
なお、土地家屋調査士は国家資格を持つ士業の専門家ですから、依頼するにあたっては当然相応の費用がかかります。
近隣とトラブルになったら
ここまで土地の境界を確かめる方法を紹介してきましたが、実際には隣地所有者とトラブルになって初めて、境界があいまいであることに気づく場合が多いのではないでしょうか。続いては、土地の境界をめぐってお隣とトラブルになってしまった際の対処法を解説していきます。
話し合いで解決
何事もそうですが、土地の境界に関するトラブルも話し合いで解決するのが大原則。まずは隣地所有者と話し合いの場を設けましょう。トラブルの最大の要因は境界がはっきりしないことですから、両者合意の下で下記のように境界を明確化する必要があります。
境界を確かめる方法の3つ目に紹介した土地家屋調査士に依頼して、境界確定測量を実施。お互いに境界を確認したらコンクリート杭などで境界標を設置、土地の測量図面を添付した「境界確認書」を作成します。境界確認書とは、測量の結果確定した境界を証明する書類のこと。境界確認書を作ることで将来にわたってトラブルを防止できるだけでなく、売買取引や相続をスムーズに進めることもできます。
筆界特定制度
話し合いで解決できればベストですが、すでにトラブルが発生している場合には話し合うことすら難しいのが現実。訴訟を起こして司法の力で解決するという方法はあるものの、裁判には多くの費用と時間がかかってしまいます。
そこでおすすめなのが「筆界特定制度」の活用です。筆界特定制度とは、土地所有者もしくは相続人などの申請に基づき、筆界特定登記官が民間の専門家である筆界調査委員の意見を踏まえながら、その土地の筆界の位置を特定する制度のこと。筆界特定制度であれば、裁判よりも低コストかつ短期間で境界を特定できます。専門家による公的な判断を得られるため、証拠価値が高いという点もこの制度のメリットといえるでしょう。
土地家屋調査士会ADR
筆界特定制度はあくまでも筆界を明らかにする方法であり、筆界と所有権界が異なるなど所有権の範囲について争っている場合、直接解決を図ることはできません。制度によって特定した筆界に不満がある、境界に関して法的効果を保証してほしい、所有権界をはっきりさせたいといった場合には、土地家屋調査士会ADR(境界問題相談センター)へ移行することになります。
ADRとは、公正な第三者が関わることで裁判をせずに法的な問題を解決する手段のこと。土地家屋調査士会ADRは、公正な第三者である土地家屋調査士と弁護士が調停人として間に入ることで、当事者間の話し合いによるトラブル解決を図ります。
土地家屋調査士会ADRの活用にあたっては、当事者双方が話し合いに応じる意思を持っていることが前提となりますが、裁判ではないのでお互いに対立せず解決を図れるのがメリット。裁判の判決のような強制力はないものの、当事者間で結んだ和解契約書を履行しなければならないため、一定の法的拘束力が生じる点も特徴です。
民事裁判・民事調停
ここまで紹介したいずれの方法でも解決できない場合、所有権確認訴訟または筆界確定訴訟を起こすこととなり、民事裁判や民事調停による解決を目指すことになります。
所有権確認訴訟とは、原告と被告双方から提出された証拠書類をもとに、裁判官が所有権範囲を判断する制度。一方の筆界確定訴訟は、同じく双方提出の証拠書類をもとに、裁判官が筆界を決める制度です。所有権確認訴訟は通常の民事訴訟なので和解や調停が可能ですが、筆界確定訴訟は公法上の境界が対象のため、必ず境界を確定しなければなりません。
まとめ
土地の境界が明確でないことによる、近隣とのトラブルは意外と多いものです。話し合いで解決できればいいのですが、万が一裁判になってしまうと隣人との関係性悪化は避けられません。トラブルを未然に防いで良好な隣人関係を築くためにも、境界があいまいなときは早めに確定させておきましょう。