個人から受け取った年間110万円を超える財産は、原則として贈与税の対象になります。ただし、住宅購入にあてる贈与については、110万円を超えても一定額までは非課税とすることが認められています。今回は、住宅取得等資金の贈与が非課税になるケースについて解説します。非課税限度額や注意点など詳しく説明しますので、ぜひ参考にしてください。
住宅の購入資金に贈与税がかからないようにするには?
目的が住宅購入であっても、すべてのケースが非課税になるわけではありません。まずは住宅取得等資金の贈与税非課税制度についての概要を把握しておきましょう。
住宅取得等資金の贈与の非課税とは?
住宅取得等資金の贈与税非課税制度とは、父母や祖父母などの直系尊属から受けた住宅購入資金や住宅を建てるための土地購入資金に対して適用される制度です。非課税の対象と認められるためには、制度に設けられたさまざまな要件をすべて満たす必要があります。
そのうちのひとつが、住宅あるいは土地購入の期限です。贈与を受けた年の翌年3月15日までに全額を住宅取得のためにあてること、そして12月31日までにその住宅に居住することが条件とされています。
なお、贈与された資金を住宅ローンの返済に使用する場合には、非課税対象にはなりません。新たに住宅を取得する場合には、売買契約の締結・決済前の贈与でなければ対象外となることに注意してください。
対象となる贈与者・受贈者は?
住宅取得等資金の贈与税非課税の特例を受けるには、贈与する側・贈与を受ける側それぞれに次のような要件が求められます。
まず、贈与者は父母や祖父母など受贈者の直系尊属であること。配偶者の直系尊属からの贈与は対象にはなりません。配偶者の直系尊属からの贈与は配偶者が受け取り、それぞれに非課税の特例を利用する旨の申告を行う必要があります。また、金額に応じて共有持分を設定するなどの配慮も必要です。
贈与を受ける側は、贈与を受ける年の1月1日時点で20歳以上であること、同年の合計所得金額が2,000万円以下であることが非課税の適用要件となります。
住宅の要件
取得する住宅にも非課税適用の要件が設けられています。
まず、日本国内にある家屋でなければ非課税の対象にはなりません。新築あるいは築年数20年以内(耐火建造物の場合は25年以内)の建物であること、増改築の場合は工事費用が100万円以上であることなどの細かい条件があります。
さらに、登記簿上の床面積(マンションなどの場合は専有部分の床面積)が50平方メートル以上240平方メートル以下で、その2分の1以上が居住用に使用されるものでなければ、非課税の特例を受けることができません。
非課税限度額はいくらまで?
では、いったいいくらまでが贈与税の非課税対象になるのでしょうか。非課税限度額は住宅の種類や取得した日(契約日)、消費税率によって異なります。住宅の種類については、断熱や耐震、バリアフリーなどの基準を満たした省エネ等住宅かそれ以外の一般住宅かで区別されています。
消費税率10%で住宅を取得した場合の贈与税非課税限度額は次のとおりです。
個人間での売買など消費税がかからないケースを含め、消費税率10%以外での非課税限度額は次のようになります。
制度を利用する際に必要な手続き
住宅取得等資金の贈与税非課税制度を利用するには税務署への申請が必要です。非課税対象だからといって自動的に適用されるわけではないことに注意してください。
申請は、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までに管轄の税務署にて行います。申請に必要な書類には、次のようなものがあります。期限内に申請をしない場合は贈与税が課せられるため、早めに準備するようにしてください。
・贈与税申告書
・戸籍謄本
・源泉徴収票
・登記事項証明書
・売買契約書や工事請負契約書の写し
・省エネ等住宅の証明書(住宅性能証明書、認定長期優良住宅建築証明書など)
出典:No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税|国税庁
住宅取得等資金の贈与の非課税を利用する際のポイント
住宅取得等資金の贈与税非課税制度を利用する際、状況によっては注意すべきポイントがあります。ここでは、併用できる贈与税非課税制度について、また、親の住宅や土地を相続する場合の注意点について説明します。
ほかの贈与税非課税制度も併用できる
贈与税には年間110万円の基礎控除が認められています。これを「暦年課税制度」といい、直系尊属以外からの贈与であっても年間合計110万円以下であれば贈与税は課されません。親や祖父母からの贈与なら、110万円までを住宅取得等資金の非課税分に加算できることになります。
また、生前贈与を受けた場合には、2,500万円までを非課税とする「相続時精算課税制度」が利用できます。住宅取得等資金の非課税制度と併用すれば、贈与税の非課税枠をぐっと広げることが可能です。ただし、相続時には非課税分を合算して相続税が計算されること、暦年課税制度が利用できなくなることに注意してください。
ちなみに、親や祖父母からの贈与に関する非課税制度には、住宅取得等資金のほか、結婚・子育て資金や教育資金に関する制度があります。いずれも期限付きの措置なので、国税庁のWebサイトなどで適用条件を確認してみてください。
参考:No.4512 直系尊属から教育資金及び結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税制度の主な相違点|国税庁
小規模宅地等の特例が適用にならない
小規模宅地等の特例とは、一定の要件を満たした場合に不動産の相続税評価額を減額できる制度です。親が住んでいた家や土地、貸付を含め事業用に用いていた不動産などを相続する際に適用されます。特に自宅の相続については最大80%もの減額になるため、ぜひとも利用したい制度です。
この制度を利用できる相続人は、原則として配偶者または同居している親族とされています。別居の場合は、相続開始時3年前までに自分や配偶者などの持ち家に住んだことがないことが条件です。
つまり、住宅取得等資金贈与の特例を利用した・しないにかかわらず、自宅購入後に相続が発生した場合には、小規模宅地等の特例が利用できないということになります。将来、親の自宅を相続する可能性があるとしたら、自宅購入のタイミングなどを考えたほうがよいでしょう。
まとめ
住宅購入にあたり親や祖父母から資金の贈与を受けた場合、一定の条件を満たせば住宅取得等資金の贈与税非課税制度が利用できます。適用を受けるには、贈与を受けた翌年に贈与税非課税の申告をしなくてはなりません。申告には期限があり、その間に申告しなければ贈与税の対象になってしまいます。提出を求められる書類が多いため、早めに申告準備を始めるようにしましょう