現在、日本で政令指定都市に指定されているのは20市です。政令指定都市には、通常の市区町村にはない特別な権限や機能を持った大都市というイメージがあります。実際のところ、政令指定都市に住むとどのようなメリットがあるのか、そもそも政令指定都市は何かについて解説します。
政令指定都市とは
「政令指定都市」は「指定都市」や「政令市」と呼ばれることもあります。政令指定都市とはどのような制度なのかについて、以下に解説します。
現在は20市
政令指定都市は、地方自治法第252条に基づき、政令で指定された人口が50万人以上の市のことです。1956年の創設当時に指定されていたのは、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市の5都市のみでした。
現在は上記に加え、北九州市、札幌市、川崎市、福岡市、広島市、仙台市、千葉市、さいたま市、静岡市、堺市、新潟市、浜松市、岡山市、相模原市、熊本市の15市が加わり、合計20市になりました。20市の中で最も人口が多いのは横浜市の約372万人です。すべての政令指定都市の人口を合算すると約2750万人となり、日本の人口の2割強が政令指定都市に住んでいることになります。
地方公共団体の区分には「政令指定都市」のほかに、「中核市」「特例市」があります。中核市の要件は、1996年の施行時には法定人口30万人以上だったものの、2015年の特例市の廃止にともない緩和され、現在の要件では人口20万人以上となっています。
また、廃止時に特例市だった市は「施行時特例市」へと移行し、経過期間中に中核市になるかどうかの選択をすることになりました。総務省のホームページによると、2021年4月1日現在で中核市は62市、施行時特例市は23市となっています。
政令指定都市になるための要件
政令指定都市になるための法令の要件は、「政令で指定する人口50万以上の市」です。ただし、単に人口の要件のみを満たせば良いわけではありません。政令指定都市は、事務配分、関与、行政組織、財政制度上において一般の市とは異なる取り扱いを受けます。
したがって、都道府県から移譲された事務を適正かつ能率的に処理する能力や、大都市経営に対応できる行財政能力を有していること、行政区の設置や区の事務を処理する体制が整備されていることなど、大都市としての実質的な要件を満たしていることも必要になります。
政令指定都市に住むメリット
日本の人口の2割強が住む政令指定都市ですが、政令指定都市の市民にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
政令指定都市になると、都道府県から財源の一部と事務の権限が市に移譲されます。大都市にふさわしい行政需要を賄うための新たな財源の確保も可能になり、これらの財源と権限によって高度で専門的な行政サービスが行えるようになります。
また、政令指定都市では、能率的な行政執行のために「区」を設置し、区政を施行します。この「区」は、東京都の23区と区別するために「行政区」と呼ばれています。さらに、市の事務処理を行ううえで必要な承認や許可等についても県知事ではなく、担当の国務大臣と直接話ができるようになるので、行政のスピードアップも図れるようになります。
以下に、政令指定都市のメリットの具体例を紹介します。
児童相談所の設置
政令指定都市には、児童相談所の設置が義務付けられています。児童相談所は児童に関する専門的な相談窓口となるだけでなく、家庭環境などに問題がある児童の一時保護や施設入所措置がとられます。児童虐待が社会問題化する中で、中核市でも設置が可能になったものの、財源や人材確保などの問題などから義務化には至っていません。
政令指定都市では、児童相談所を市が設置していることから、保育園・小中学校と一括管理が可能になり、より円滑な相談や援助活動を行うことができます。
精神保健福祉センターの設置
精神保健福祉センターは、精神保健向上と精神障害者の福祉増進を図るための施設です。精神保健福祉法によって、政令指定都市には設置が義務付けられています。センターでは心の健康相談や精神医療に関する相談、社会復帰相談のほか、アルコール、薬物、思春期、認知症などの専門的な相談や指導などが行われます。心の不安や障害をもつ市民に対し、より円滑できめ細かな支援活動ができるようになります。
療育手帳や精神障害者保健福祉手帳の発行
政令指定都市になると、療育手帳や精神障害者保健福祉手帳を市が単独で認定、交付できるようになります。療育手帳や精神障害者保健福祉手帳は、知的障害や精神疾患のある人に交付される障害者手帳のことです。通常は、市を経由して県が交付していますが、市単独で認定、交付できるようになるため、事務作業が迅速化します。
小中学校教職員の任免
一般の市町村立の小中学校では、教員の服務監督は市町村の教育委員会が担います。ただし、給与負担と任命権は都道府県の教育委員になります。しかし、政令指定都市では、任命権も市町村の教育委員会に移譲されます。さらに、2017年からは財源も移譲されたため、制度的にねじれ現象が解消されてスッキリするとともに、地域に密着した学校づくりが可能になりました。
都市計画の決定権限
政令指定都市は、都市計画の決定権限も市に移譲されています。このため、県道及び4車線以上の市道、一定規模以上の公園、緑地、土地区画整理事業、市街地再開発事業などの都市計画を、市の実情に合わせて独自に決定できるようになります。
国・県道の管理
道路には(私道除く)、高速自動車国道、一般国道、都道府県道、市町村道があり、それぞれ道路法によって道路管理者が定められています。通常、高速自動車国道は国、一般国道は国と都道府県、都道府県道は都道府県、市町村道は市町村が道路管理者です。
しかし、政令指定都市では、指定区間外の国道と都道府県道も市が管理者となります。このため、道路の整備や維持補修の一元管理が可能になり、効率がアップします。さらに、道路の安全面や防災対策なども、市の実情に合わせて行えるようになります。
政令指定都市に住むデメリット
政令指定都市には一般の市にはない、さまざまなメリットがありますが、デメリットもあるようです。政令指定都市のデメリットにも触れておきます。
二重行政の恐れ
政令指定都市のデメリットとして、都道府県と政令指定都市がそれぞれ行政権を持つことで発生する「二重行政」に陥りやすいことが指摘されています。二重行政になると、税金の無駄遣いや責任の所在が曖昧になるなどの弊害が生じやすくなります。
二重行政問題が顕著化した例として記憶に新しいのが大阪府と大阪市です。それぞれが連携することなく、独自に成長戦略を掲げ、インフラ整備にあたったことから、狭い範囲に似たような施設が建設されることもありました。こうした二重行政を解消すべく、着想されたのが「大阪都構想」です。
大阪都構想は、大阪市を廃止して4つの特別区に分け、大阪市の権限や財源を大阪府に一元化し、市と府がそれぞれの役割分担を明確にして無駄をなくそうとするものです。大阪市では、この都構想の賛否を問う住民投票を二度行ったものの、二度とも否決されています。
市町村合併でできた場合
政令指定都市を目指すために、近隣市町村が合併するケースもあります。こうした場合は、それぞれの自治体の名前が消えてしまうことも少なくありません。住民にとって長年親しんできた市町村名だけでなく、各地域の歴史や文化、伝統なども失われてしまうという懸念があります。さらに、地域で育んできた個性やコミュニティ、連帯感などが失われてしまうのではないかという不安もあるようです。
政令指定都市になることで、合併自治体の中心部ばかりが発展し、地域間格差が生じる懸念や行政サービスの低下が不安視されることもあります。これらのことから、政令指定都市を目指す自治体では慎重論が起こり、推進派との間で論争になることも少なくないようです。
まとめ
政令指定都市と一般の市町村とでは、住民にとってはそれほど大きな違いを感じるものではないかもしれません。政令指定都市に住む際は、市民に寄り添った効率的な行政サービスなどが、長い目で見てメリットとして感じられるようになるのではないでしょうか。
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